日本人が紅白歌合戦を楽しむようなノリ(赤ペン瀧川)
──まずアカデミー賞授賞式への思いから聞かせてください。どんなきっかけで授賞式の中継を観始めたのでしょうか。
IMALU 私は子供の頃からアメリカのカルチャーが大好きでした。ですから映画や音楽の授賞式なんかもよく観ていて、「みんなイエス、ノーをはっきり言ってかっこいいな」という感じで、アカデミー賞のスピーチに見入っていましたね。
瀧川 なるほど。「映画」というより「アカデミー賞」自体を楽しんでいたのですね。
IMALU そうなんです。もちろん映画も好きでした。中学生の頃、ニコール・キッドマンやジャック・ニコルソンにファンレターを送ってましたから(笑)。辞書を引きながら、英語で。そうしたらドリュー・バリモアだけ返事が送られてきたんですよ。たぶんファンへの返信用に写真とサインがプリントされたものですけど。そんなふうに海外のスターへの憧れがあって、映画も好きになり、アカデミー賞も毎年欠かさず観るようになりました。
──赤ペン瀧川さんはいかがですか?
瀧川 僕の場合は、アカデミー賞授賞式を認識するようになったのは大人になってからですね。俳優業を始めて、「アカデミー賞で『タイタニック』がいっぱい受賞した」なんて情報が入ってきて、でも授賞式の中継が観られるとは知らなかったんです。
──その後、授賞式を観るようになってハマったわけですね。
瀧川 それまでは「どんな作品が何部門受賞して、スピーチで何を言ったか」というのをニュースで知っていただけで、授賞式は粛々と、淡々と行われていると思ってたら、合間合間にイベント的な企画があって驚きました。日本人が紅白歌合戦を楽しむような、そういうノリだったので目からウロコでしたよ(笑)。
──では、これまでの授賞式で印象に残っている瞬間を聞かせてください。
IMALU 2017年(第89回)のクライマックスですね。作品賞の発表で、「ラ・ラ・ランド」とアナウンスされたのに、本当は「ムーンライト」だったという。最後の最後にまさかあんなことが起こるなんて……。
瀧川 (受賞作が書かれた)封筒を渡し間違えちゃったんですよね。「『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン」って書かれた主演女優賞の封筒だった。
IMALU 封筒を渡したスタッフのその後が気になります(笑)。
瀧川 僕は面白い企画が印象に残ってますね。スターが自分宛てに書かれたネガティブなツイートを読むのが楽しかった。あれを笑えるノリでやれるのがすごい。国民性もあるんでしょうけど、日本であんなの企画したら怒られそう(笑)。あと授賞式会場の隣の映画館へ遊びに行ったりしてましたよね。
IMALU そうそう。映画館に行く人へ感謝する、という企画。
瀧川 ホットドッグを(バズーカ砲みたいに)撃って客席に配ってたのは笑えました。そういう企画を大スターたちがやっているのを観るのが新鮮なんです。日本に住んでる僕らは、映画の中の彼らしか観てなかったりしますから。
客席のスターたちを観るのも楽しい!(赤ペン瀧川)
──授賞式では、さまざまなパフォーマンスも見どころです。
IMALU 私は「レ・ミゼラブル」のパフォーマンスが大好きでした。ミュージカル作品がノミネートされると、豪華キャストの生歌を聴くことができますからね。あのときの「レミゼ」はYouTubeでリハーサルの映像も発見して何度も観返してます。スタジオでみんなスッピンで歌ってるんですよ。
瀧川 「グレイテスト・ショーマン」の「This Is Me」も忘れがたいですね、あと「アリー/ スター誕生」でレディー・ガガとブラッドリー・クーパーのデュエットを長回しで撮っていたりして、「これ、生で放送してるんだ!」って感動モノでした。
IMALU 「ボヘミアン・ラプソディ」のときはクイーン(+アダム・ランバート)が出てきたし、エミネムがサプライズで登場した年もあったし……。
瀧川 客席のスターたちが一緒に歌ってたり、その様子を観るのも楽しい!
──授賞式では心に残るスピーチも多いですよね。
IMALU ハル・ベリーが主演女優賞を受賞して、ものすごく感激してたのを覚えています。
瀧川 最初のほうは「オーマイガッ」しか言ってなかった(笑)。
IMALU 黒人女性で初の主演女優賞で、歴史が変わった瞬間だったんですよね。何年かあと、最低の映画を決めるゴールデンラズベリー賞で最低女優賞を受賞した彼女が、そのときの自分のパロディをやってて、余裕のジョークでかっこよかったです(笑)。
瀧川 でも逆に言えば、あれだけ人種差別の映画が作られているのに、まだハルがスピーチでそれを訴えなくちゃいけない、というのがショックでもありました。差別問題といえば、タイラー・ペリーのスピーチもよかったですね。ホームレスの女性に靴を渡したエピソードから人種差別の問題へつなげていったんです。
──そうしたスピーチが聞いた人の人生を変える可能性もあります。
瀧川 「ラ・ラ・ランド」で歌曲賞を受賞した3人のうち1人が、お母さんに向けて「小さい頃にサッカーではなくミュージカルを習わせてくれてありがとう」と感謝したときは「今すごいこと言った!」と感動しました。
IMALU それは伝わりますね。たった一言なのに。
レッドカーペットは生で観る(IMALU)
──そして授賞式といえば、始まる前のレッドカーペットも大きな話題になります。
IMALU 大好きです! レッドカーペットは早い時間なので出かける前に生で観ちゃいますね。インスタでブランドも全部チェックしますよ。
瀧川 ドレスですか? 常に気になるのは誰でしょう。
IMALU ケイト・ブランシェット。いつも素敵で、理想の大人って感じです(笑)。
瀧川 男子だとなかなかブランドまでチェックしませんが、真っ白なタキシードとか、おしゃれなジャージ風で登場したスターがいましたよね。ティモシー・シャラメ! イケメンは強気だなあって。僕が着たら、ただの寝起き姿ですよ(笑)。ジェイソン・モモアはピンクのタキシードを着てましたね。
IMALU あれはかわいかった! 私はトム・ハーディが好きなので、彼のタキシード姿がイチ押しです(笑)。
瀧川 ハリウッドスターたちのタキシードは感動するくらいかっこいいです。
IMALU ドレスと言えば、ジェニファー・ローレンスがステージに上がるときに裾を引っ掛けて転びそうになったり、着慣れてない故のハプニングもチャーミングです。
ウィル・スミスが受賞したら泣くんじゃないか(赤ペン瀧川)
──ではそろそろ、今年の授賞式に話を移しましょう。作品賞など最多ノミネートは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」です。
IMALU 面白かったですね。
瀧川 僕も同意しますが、ある意味、絶望的なストーリーですよね。でも最近の作品賞を振り返ると、「ノマドランド」「パラサイト 半地下の家族」「グリーンブック」、その前が「シェイプ・オブ・ウォーター」「ムーンライト」と弱者に寄り添った作品が多い。
IMALU 私はマーベル好きなんで「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」が作品賞ノミネートに入ってほしかったです(笑)。
瀧川 最高でした。
IMALU でもその作品賞ノミネートに日本の「ドライブ・マイ・カー」が入っているのはすごいことですよね。
瀧川 そう、監督賞のノミネートに(スティーヴン・)スピルバーグ、ケネス・ブラナーらと一緒に濱口(竜介)さんがいるなんて! 「ドライブ・マイ・カー」は国際長編映画賞とか何かしら受賞してほしい。村上春樹も国際的な人気ですから。
──俳優の部門で気になる人は?
IMALU 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」で主演男優賞ノミネートのベネディクト・カンバーバッチは、イギリス出身なのにカウボーイになりきって、めちゃくちゃ上手でしたよね。
瀧川 でも主演男優賞はウィル・スミス、デンゼル・ワシントン……って強力メンバー。ウィルが受賞したら初受賞なので泣くんじゃないでしょうか。
IMALU 初と言えば、クリステン・スチュワートなんかも主演女優賞に初ノミネートです。
手の届かなかった世界が身近に(IMALU)
──やはりアカデミー賞は「特別」なものなのですね。
瀧川 僕はほかの映画祭もチェックしていますが、アカデミー賞は(投票する)会員が、今の映画業界に何を求めるのか、どういう方向に舵を切っていきたいかが如実に表れている気がします。
──そこに「パラサイト 半地下の家族」とか、今年の「ドライブ・マイ・カー」のようにアジアの作品も絡むようになってきました。
IMALU 私が学生時代に観ていたアカデミー賞って、手の届かない世界という印象でした。そこにアジアの作品もノミネートされることで身近に感じられるようになりましたし、素直にうれしいです。
瀧川 一応、アメリカの賞だから国内の作品に集中してきたアカデミー賞が、「あれ? ほかの国にもこんな面白い作品があるんだ」と気付き始めた印象です。会員のグローバル化が進み、人数も増えましたからね。それで“アカデミー賞らしさ”が損なわれるわけじゃなく、視野が広がってむしろかっこいいと感じますね。
今年をきっかけに興味を持つ人が増えそう(赤ペン瀧川)
──その意味で今年は「ドライブ・マイ・カー」によって日本でも授賞式への注目が高まります。
瀧川 「ちょっと観てみよう」と、今年をきっかけにアカデミー賞に興味を持つ人が増えそう。
IMALU そう考えると、うちの母親(大竹しのぶ)が今後、アカデミー賞にノミネートされる作品に出演する可能性があるかも……なんて(笑)。
瀧川 いやむしろ、今の日本の映画業界で、あなたのお母さんがその確率が一番高いのでは?
IMALU そのときは絶対に授賞式に同行します。できればブラッド・ピットの隣とかに座りたい(笑)。
瀧川 去年は韓国のユン・ヨジョンさんが助演女優賞を受賞したし、今年は西島(秀俊)さんが主演男優賞にノミネートなんてうわさもあったりして(※編集部注:結果的にはノミネートならず)、アカデミー賞のほうがこっちに近付いてきてる感じ。
──大竹さんは明石家さんまさんがプロデュースされた「漁港の肉子ちゃん」などで声優もやられているので、ご本人が女優賞候補になることのほか、長編アニメーション賞で参加作品がノミネートという夢もあります。
IMALU 確かに!
瀧川 ヤバい、(実写とアニメで)ダブルリーチ!(笑)
ニュースだけでは絶対に伝わらない瞬間がいっぱいある(IMALU)
──では最後に改めて、今年のアカデミー賞授賞式を「ぜひ観るべき」というポイントを、お聞かせください。
IMALU 以前は授賞式までにノミネート作品を観られないことも多かったのですが、今年は授賞式の前に劇場や配信で観ることのできる作品がいっぱいあります。ですから受賞の予想も楽しくなるはずです。
瀧川 アカデミー賞授賞式って聞くと、お堅い系のイベントに思われがちですが、サプライズ企画もあったりして、半分くらいは“演芸大会”として楽しめます。ここ数年、不在だったメインの司会者も今年は復活(レジーナ・ホール、エイミー・シューマー、ワンダ・サイクス、3人のリレー形式)しますし、そのあたりも楽しみです。
IMALU その中で感動的なスピーチが登場して、観ているこちらも元気がもらえる。さっき瀧川さんもおっしゃったように、ニュースだけでは絶対に伝わらない瞬間がいっぱいありますよね。
瀧川 ニュースに出るのはインパクトがある部分ですが、それ以外の“ゆるい”ところも実は面白かったりしますから。エンタテインメントがどれだけ人を幸せにしてくれるか。それを実感して、今年観たら絶対に来年も観たくなるはずです。
IMALU 本当にそう! 今から授賞式が楽しみです。
Phil McCarten / ©A.M.P.A.S.、Michael Yada / ©A.M.P.A.S、Courtesy of AMPAS、Nick Agro / ©A.M.P.A.S.
- IMALU(イマル)
- 1989年9月19日生まれ、東京都出身。語学を学ぶためカナダの高校へ留学し、帰国後にファッション誌でモデルデビューを果たした。現在はタレントとしてテレビ、ラジオなどにて活躍中で、イベントや配信ライブにもMCやゲストとして出演する。映画・音楽好きとして知られており、LULU X名義でミュージシャン活動も行う。
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- IMALUの記事まとめ
- 赤ペン瀧川(アカペンタキガワ)
- 1977年12月27日生まれ、神奈川県出身。「映画プレゼンター」としてテレビ、ライブ、コラムなどで活躍中。スライドとトークを武器にさまざまなツッコミを入れる“映画添削”で知られる。また、俳優・演出家活動も行い、演劇ユニット「七里ガ浜オールスターズ」を主宰。出演した映画「死刑にいたる病」が2022年5月6日に公開される。
スタイリング:松川茜
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2022年3月24日更新