WOWOW「生中継!第94回アカデミー賞授賞式」特集|人間と時代が生み出すドラマが、授賞式にはある。

永野
インタビュー

永野

世の中の流れを感じながら受賞結果を知るのも面白い

──まず、アカデミー賞というものをどういうきっかけで意識したのか聞かせてください。

永野

兄の影響もあって子供の頃から洋画はよく観ていました。それで映画のポスターや雑誌なんかで「アカデミー賞受賞!」「アカデミー賞ノミネート」なんてコピーを目にして、すごい賞だと認識したわけです。

──アカデミー賞受賞と聞いて、観ようと思った作品もあるわけですね。

確かに「ノミネート」とか、「アカデミー賞総なめ」と聞けば、傑作だと信じるわけで、そういうモードで観たことはありますね。でも高校生くらいの頃は、「アカデミー賞作品だから」というきっかけで観ても正直、よさがよくわからなかったりする。だから最初は「感動したよ!」なんて嘘をついていたこともありました(笑)。

──映画の世界では、アカデミー賞以外でもカンヌ国際映画祭など権威のある祭典もあります。

カンヌで受賞するのはアート系で、アカデミー賞はもっとポピュラーな作品というイメージですね。わかりやすい例で言えば、僕の世代的に「すごい!」と感じた「パルプ・フィクション」がカンヌでパルムドール(最高賞)を受賞して(1994年)、次の年のアカデミー賞では「フォレスト・ガンプ/一期一会」が作品賞だったんですよ。アカデミー賞作品のほうが親しみやすい感じはあります。

──確かにアカデミー賞では「タイタニック」のようなメジャーな作品が受賞することもありましたが(1998年)、そうではないケースもいっぱいあります。

そうなんですよ。大人になってアカデミー賞への考え方も変わってきました。数年前、「スリー・ビルボード」にものすごく感動したんですけど、それを抑えて「シェイプ・オブ・ウォーター」が作品賞を受賞したじゃないですか(2018年)。その結果に「ああ、アカデミー賞もいろいろ考えてるんだな」なんて、うがった見方もしましたね。「アメリカって、今こういう時代なんだ」「こういう方向を意識して受賞を決めてるんだ」と世の中の流れを感じながら受賞結果を知るのも面白くなっていきました。

──2年前に「パラサイト 半地下の家族」が作品賞を受賞したのは、まさにその典型ですよね。

第92回(2020年)で作品を受賞した「パラサイト 半地下の家族」のキャスト、スタッフ。Matt Petit / ©A.M.P.A.S.

素晴らしい作品ですけど、10年前だったら作品賞は受賞できなかったと思います。「アカデミー会員の人たちも、アジア映画に気を使い始めたのか」なんて考えちゃいました(笑)。アカデミー賞も今が過渡期なのかな。10年後くらいには、その過渡期も終わってる予感も……。

──歴史を振り返ると「これが作品賞?」というサプライズも意外に多い。

(ドラマ作品の受賞が多い中)「羊たちの沈黙」のようなサイコスリラーも受賞してますからね(1992年)。「タイタニック」が作品賞なら、なんで「ジョーズ」は獲れなかったんだろう……と考えちゃいますし、マーティン・スコセッシの監督作で「ディパーテッド」を作品賞に選んだのも(2007年)、気遣いを感じてしまう。これ、僕の性格が悪いからでしょうか?(笑) でも裏を返せば、そういう時代の流れとか、タイミングとかも、授賞式を観る楽しみなんですよ。

──(永野が着ている「スカーフェイス」のTシャツを指して)そう言えばアル・パチーノの受賞作も……。

そうなんですよ。当時(1993年)、10代ながら生意気にも「『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』で受賞かよ!? 『狼たちの午後』とか『ゴッドファーザー』とか今までもっとあっただろ!」と叫びそうになりました(笑)。でもそういう感情が起こるのも、楽しいんですけど。

「ドライブ・マイ・カー」と僕には接点がある

──そして今年はアジア映画を代表して、「ドライブ・マイ・カー」が作品賞などにノミネートされました。

「ドライブ・マイ・カー」 ©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
「『ドライブ・マイ・カー』っぽいポーズお願いします!」という無茶ぶりに応える永野。

本当にすごいことが起こってますよね。2年前の「パラサイト 半地下の家族」のときは「こんなこと(アジア映画の快進撃)、もう二度とないだろう」と勝手に思い込んでましたから。しかも「ドライブ・マイ・カー」は、サムライとか富士山とか寿司とか桜とか、わかりやすく日本をアピールする要素があるわけじゃない。ところで「ドライブ・マイ・カー」と僕には接点があるんですよ。話していいですか?

──どうぞ、どうぞ。

山形国際ムービーフェスティバル(2021年11月)で、僕がYouTubeのために撮った映像コントのオムニバス(「永野CHANNEL THE MOVIE ~音楽の絆~」)を上映してもらったんです。芸人の後輩に山形の実力者の息子がいて、そのコネから生まれた縁がありまして(笑)、オープニングセレモニーの前の上映でした。そのセレモニーのあとの上映が、なんと「ドライブ・マイ・カー」で、濱口(竜介)監督も来ていたんです。直接はお会いできなかったのですが。今から考えると、山形のお客さんには両方を一度に見せてしまい、大変申し訳なかったんですが、たまたま一緒に上映された作品と、同じ空間にいた監督がアカデミー賞にノミネートされたわけで、友達の作品のように親近感を覚えているわけです(笑)。

──そういう意味では、今回のアカデミー賞授賞式を観るのは楽しみですね。これまでも永野さんは授賞式をよく観ていたのですか?

はい。WOWOWで観てましたね。少し前だと司会者がコメディ系の人が多くて、政治的なコメントで笑わせたり、わからない部分も、わからないなりに楽しんでいました。今年もコメディ系の人が司会を務めるようなので、楽しみですね。歴代の司会者だとビリー・クリスタルとか印象に残ってます。

貴重な瞬間は生で観ていないと味わえない

──授賞式はひとつのショーなので、パフォーマンスも印象に残ります。

エミネムが出てきたときは感動しました(2020年)。会場の映画スターたちもエミネムのパフォーマンスにノッていましたし。そういう貴重な瞬間は授賞式を生で観ていないと味わえないですよね。

──今年の授賞式ではビリー・アイリッシュがパフォーマンスを披露する予定です。

第92回(2020年)授賞式でパフォーマンスを披露するビリー・アイリッシュ。Michael Yada / ©A.M.P.A.S.

いくら彼女でもアカデミー賞のステージは緊張するでしょう。その姿を見たいです。大スターたちを前にビビるビリー・アイリッシュってのも貴重かと(笑)。

──受賞者や、受賞のスピーチで何か印象に残っている瞬間はありますか?

マーロン・ブランドが主演男優賞の受賞を拒否し、代理として女性(のちにネイティブアメリカンの活動家だったと判明)が壇上に現れたシーンは「ようやるわー!」とのけぞりました(1973年)。リアルタイムで観た中では、マイケル・ムーアのスピーチが強烈でしたね。すごい勢いでまくし立て、「恥を知れ、ブッシュ!」とまで言い放った(※編集部注:2003年、「ボウリング・フォー・コロンバイン」で長編ドキュメンタリー賞を受賞した際のスピーチ。「ブッシュ」は当時のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュ)。アカデミー賞って、マーロン・ブランドの時代から、政治的メッセージを発する絶好の場だったんでしょう。ブーイングを浴びることもあるけど、そこまでして言いたいんだろうという気持ちも伝わってきます。逆にスピーチがあまり上手だと、記憶に残らなかったりしますから。

──受賞者の個性が発揮される場でもありますよね。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」で衣装デザイン賞を受賞した女性が革ジャンで壇上に現れて、正装をしている周囲から「えっ?」みたいなリアクションを取られても、「これが、この人のスタイルなんだ」と納得できたり(2016年)、そういうほほえましい瞬間もありました。

授賞式全体が1本のドキュメンタリー映画のよう

──メインの作品賞や俳優の賞ではなく、そういった各部門賞にも見どころがあったりします。

永野

アカデミー賞はニュースだけだと、作品賞や主演男優賞、主演女優賞とかが前面に出てきてますが、編集賞とか音響賞とかの発表を観ていると、映画はみんなで作ってることがわかって面白いと思うんです。スターたちも受賞したスタッフにハグしたりして、現場の舞台裏の関係がわかるし、映画愛が伝わってきます。

──それも授賞式を最初から観たうえでの感動ですよね。作品賞発表で、その感動が頂点に達するわけで……。

そうですね。授賞式全体が1本のドキュメンタリー映画のような印象です。みんなでたたえ合う光景なんか目にすると、やっぱり素晴らしいと感じるし、一方で応援していたのに「獲れなくて残念」というのもある。スピーチでも決まったパターンで言ってる人もいれば、頭が真っ白になって言葉に詰まる人もいて、そういう瞬間に感動したりもしますね。夢の世界で生きている人たちのそんな姿に、「アカデミー賞って楽しいな」と思うわけです。

──「獲れなくて残念」という言葉が出てきましたが、永野さんがアカデミー賞を受賞するべきだと思ってる人はいますか?

第86回(2014年)授賞式に出席したジョセフ・ゴードン=レヴィット。Aaron Poole / ©A.M.P.A.S.

ジョセフ・ゴードン=レヴィットですかね。最初に観たときから、アカデミー賞を獲りそうな顔をしてると思いましたから(笑)。僕らの世代としてはエドワード・ノートンにも期待していますが、まだ獲ってない。ミッキー・ロークも「レスラー」であれだけ役に自分の人生を乗せて、見た目でも圧倒しただけに「獲らせてやれよ」と思いました。彼らが受賞するまで、僕はあきらめないですよ(笑)。

──アカデミー賞授賞式の中継番組には、斎藤工さんも出演しています。永野さんと斎藤さんは映画「MANRIKI」を作ったりと(原案・原作が永野でプロデューサーが齊藤工。2人とも出演)、プライベートでも親しいんですよね?

斎藤くんは友人なので、WOWOWの番組も厳しい目線でチェックしてます。彼に映画を薦められても、「なんか偉そうだな」とイラッとすることもある(笑)。でもあの人、本当に映画が大好きなんですよ。知り合って間もない2016年に、僕のお笑いのDVDに出演してもらったのですが、斎藤くんが少し遅れて到着して「今までWOWOWの仕事でした。さっき(作品賞が)決まったところなんですよ」って、めちゃくちゃ興奮してて。その日がちょうどアカデミー賞授賞式だったんです。映画好きの人は、みんなこうなっちゃうんだと感心したのは覚えてますね。

──アカデミー賞授賞式の番組の直後、永野さんの作品に出演したのですね。

はい。そのとき、斎藤くんには「手から光が出る魚屋さん」というコントをやってもらったのですが、「なんで僕はアカデミー賞のあとに、『手から光が出る魚屋さん』をやりにここまで来たんでしょう」なんてムカつくこと言われまして、「こっちも仕事なんだよ」とカチンときましたが、今は謝りたいです(笑)。

みんなで本音を言いながら観ると楽しいんじゃないか

──濱口監督との同時上映といい、永野さんは何かとアカデミー賞に縁がありますね。改めて授賞式をどういう状況で観るのが楽しいと感じますか?

斎藤くんが出演していると、僕らにはわからない部分も説明してくれたりして、一緒に観ている感じにはなりますね。でも、ちょっとうがった見方で楽しむのもいいんじゃないでしょうか? 「多様性に気を使ってるんだよねー」とか、授賞式に欠席した人がいたら「ポリシーで意地張って来なかったのか」「絶対こいつ今、家にいるだろ」とか(笑)。WOWOWの中継を観て、みんなで本音を言いながら観ると楽しいんじゃないですかね。

──永野さんが茶々を入れながら中継を伝えるのも楽しそうですね。

ガチな情報ばかりじゃなくなるので危険なことになりそうですが、WOWOWさん、ぜひ副音声で実現させてください!(笑)

永野
永野(ナガノ)
1974年9月2日生まれ、宮崎県出身。1995年に活動を始め、「孤高のカルト芸人」として長きにわたりライブシーンで活躍する。2014年に「ゴッホより普通にラッセンが好き」のフレーズで知られるネタでブレイク。洋楽や洋画への造詣が深いことでも知られる。清水康彦、斎藤工、金子ノブアキとともに映像制作プロジェクト「チーム万力」を結成し、2019年に長編映画「MANRIKI」を発表した。

2022年3月24日更新