連続テレビ小説「
「たまるか」は提案した約40フレーズの中から中園ミホが選出
西村は2023年前期の連続テレビ小説「らんまん」に続いて朝ドラで方言指導を担当。オファーが届いたのは同作の放送終了直後だったそうで、2023年12月頃より脚本を担う
そして中園から台本が届くと、西村が方言の表記を整えるために手を加えていく。「中園さんから届く台本には標準語と“ニュアンスっぽい土佐弁”が書かれているんです。中園さんがイメージしている土佐弁みたいな」と前置きし、修正していく際の心構えとして「完全に翻訳みたいにしてしまうと、字幕を入れなければいけないほど言葉が変わってしまい、視聴者に抵抗感を与えてしまう。芝居のニュアンスで言葉を補完できるようにするというのが大前提。演者が言いやすいかどうか、音としてきれいかを大切にします」と言及する。例えば朝田くら(浅田美代子)が結太郎(加瀬亮)に発した「もんたかえ(帰ってきたのか)」というセリフも、“戻ってきた”というニュアンスが伝わることから用いられたという。
「ガッツリ方言を入れてやろう」と意図したあのセリフ
「コテコテに土佐弁を入れると面白いと思って入れた言葉もある」と切り出す西村は、第1週目でのぶが東京から引っ越してきた柳井嵩に言ったセリフ「しゃんしゃん東京にいね」について解説。「高知出身の人以外は『呪文かな?』と思うかもしれませんが(笑)、あえてそうしたんです。最初は『さっさと東京に帰れ』だったのですが、それだと嵩に言葉の意味が伝わりすぎてしまう。僕が幼い頃は、東京から引っ越してきた人って話している内容がわからずキョトンとしていたんですよ。あの状況に似せるためにガッツリ方言を入れてやろうと。嵩も言葉がわからないぶんキョトンとできるから、芝居にも生かせるなと思った」と狙いを明かす。
さらに西村は「『らんまん』は江戸から始まる物語でしたから“坂本龍馬ことば”である『~じゃのう』『~じゃき』という表現が多くなり、結果的に高知県に住んでいる人もあまり身近でないセリフが多くなった。一方『あんぱん』ではそういう表現は釜次、桂万平、天宝和尚などの年長者のセリフに限っていて、大部分には今も使っている言葉をそのまま使用したんです。高知の人が聞いたときに『違うよ』『下手だな』というジャッジがされやすい分ハードルが上がっている実感はありますね(笑)」と吐露。台本の言葉をただ方言に変換するだけでなく、各登場人物のバランスを見て調整するといった“遊び”ができる状況になったのは「中園さんのおかげ」だと言い、「中園さんからの直しは1個もないんです。お会いしたときも『直すどころか楽しみにしてます。リスペクトしてるから』と言ってくださったことに救われました」と感慨深げに語った。
現場で違う方言の音がしたら、耳が自然と反応するように
方言を役者に指導する際は、西村が出演者1人ひとりのセリフを吹き込む“方言テープ”を作成し、参考になるようキャストに渡したうえでレッスンを行う。メインキャストのみならずエキストラの短いセリフに至るまですべて作成し、現場で台本に書かれていない言葉(オフゼリフ)が生まれた際には新たに収録するのだとか。さらに現場ではエキストラの芝居を付ける助監督に帯同し、その場でセリフをすべて直していくことも。西村は「めっちゃ大変ですよ」と苦労を明かし、「現場で違う方言の音がしたら、耳が自然と反応するようになりました。エキストラは多くのセリフをしゃべるとその分リスクが生まれていくので、なるべく同じ音や表現を繰り返してもらったり、擬音を伸ばしてもらうこともあります。それによって音声部が欲しい“ガヤの音”を埋めていくんです。なるべく出演者全員が100点の状態に持っていけるようにしたいですね」と言葉に力を込める。
そういった指導を行い、役者は1人ひとり試行錯誤しながら方言を体に入れていく。「1つ気付けたことがあるんです」と語る西村は「加瀬亮さんから『ゆっくり話すバージョンのテープが欲しい』とリクエストをいただき、用意したことで撮影がスムーズに進むようになった。竹野内(豊)さんは『これを話せるようになれば芝居ができるんだって思うと(テープが)“お守り”のような存在になっていった』と言ってくださいました」と説明。「同じやり方を続けるのではなく、キャスト1人ひとりに寄り添い『どう演じたいか?』を引き出していくことが重要だと感じました」と伝えた。
今田美桜の土佐ことばは100点、俳優との距離感は「先生っぽくしないことが大事」
今田が話す土佐ことばの印象を聞かれると、西村は「100点ですよ。完全に地元の話し方と変わらない」と称賛し、「苦しみながらも元気に明るく、のぶのように取り組んでくれたのでこちらも楽しくできました。どこかで(今田の)地元の博多弁のような発音になってしまうこともあって、それも面白かったですね」と続ける。「100カメ」でも見せた俳優との距離感について質問すると「先生っぽくしないことが大事ですね。『にっしー』と呼んでもらったりして、お友達感覚で接してもらってます」と一言。本番では常に演者の目の入る位置にいるそうで「(演者が)困っていると長年の勘でわかるんですよ。だから目線にいてアドバイスしてあげると安心するんです。もちろん人によっては近くにいるとうっとうしいと感じてしまう人もいるので、隠れているけれど近くにいるような、探偵のような立ち方」と口にし、「大事な感情を訴えるシーンのときは、ある程度方言の形ができたらそのまま送り出します。方言にとらわれてほしくないし、感情が小さくなってしまうよりは方言がズレているほうがいい。例えばのぶが釜次に『やりたいことが見つかった』と教師への思いを熱く語るシーンでも、そのまま送り出しました」と秘訣を述べた。
「らんまん」を経験して、生半可な気持ちで方言指導はできないと気付いた
方言指導を始めたきっかけに話が及ぶと、西村は2011年のNHKドラマ「新選組血風録」に俳優として参加した当時を思い返し「土佐藩士役をやらせていただいたのですが、3シーンくらいの撮影で『方言指導もお願いできないか』と言われたのが最初でした。本格的に担ったのは2013年の映画『県庁おもてなし課』でしたが、そのときは力みすぎていて今のようにはできず、一言一句ずれたら指摘していて、演者さんに頭を抱えさせてしまった……」と述懐。その後、NHK FMのラジオドラマ「南国土佐を後にして」に出演した縁もあって「らんまん」のオファーを受けたという西村は「NHKさんが育ててくれたんです」と思いを馳せつつ、「最初は『役者でも参加したい』という思いがありましたが、『らんまん』を経験して、そんな生半可な気持ちで方言指導はできないと気付きました。そこからは、方言指導のオファーをいただいたらその仕事に専念するようになりました」と言葉を紡いだ。
「あんぱん」は僕の集大成です
西村は「らんまん」に比べると「あんぱん」のセリフには豊富に方言を入れ込むことができたと自己分析。「より生きた土佐弁を提供できている」と充実感をのぞかせつつ「先ほど申し上げた通り、一般的な土佐弁のイメージはどうしても“坂本龍馬ことば”の『~ぜよ』みたいに固定化されていますし、過去の映像作品のイメージで方言指導をしている人も多いと思う。でも実際、あんなにコテコテにしゃべる人はいないですし、無理やり使っているのを見ると、製作陣との『この表現では台本の内容が入ってこないですよ』というディスカッションが不足しているのかもしれないと思う」と問題提起する。そして西村は「『あんぱん』は僕の集大成です。『らんまん』から続いて、ここまで大きい仕事はもう来ないかもしれないし、とてもラッキーでした」と胸を張り、「これからも演者が損をしないように方言指導をしていきたいです。うまくできれば『あの人って耳がいいんだ』と役者にもよい評価が与えられると思うので」と意欲を見せた。
「あんぱん」はNHK総合ほかで放送中。
関連記事
西村雄正の映画作品
リンク
映画ナタリー @eiga_natalie
【取材会レポート】「あんぱん」方言指導・西村雄正が語る土佐ことばのこだわり、今田美桜ら俳優との距離感は
https://t.co/lVmWC9WH0b
「たまるか」は提案した約40フレーズから選出
「ガッツリ方言を入れてやろう」と意図したあのセリフ
今田美桜が話す土佐ことばは何点?
#あんぱん #西村雄正