スペインの密室劇「入国審査」で重要なのは一定のリズム、監督が17日間の撮影を振り返る

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スペイン映画「入国審査」の監督・脚本を担ったアレハンドロ・ロハスフアン・セバスティアン・バスケスが来日。7月3日に東京のインスティトゥト・セルバンテス東京で行われたジャパンプレミアトークイベントに登壇した。

「入国審査」ジャパンプレミアトークイベントの様子。左からアレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケス

「入国審査」ジャパンプレミアトークイベントの様子。左からアレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケス

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「入国審査」ポスタービジュアル

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「入国審査」は、移住のために米ニューヨークの空港に到着した事実婚のカップルが、説明もなく別室に連行され、密室で拒否権なしの不可解な尋問を受ける物語。ビザも取得して新天地で暮らす準備が万全だったディエゴとエレナだったが、やがて、ある質問をきっかけにエレナはディエゴに疑念を抱き始める。アルベルト・アンマンがディエゴ、ブルーナ・クッシがエレナを演じた。

「もしも自分の身に起こったら……」を体感してほしかった

アレハンドロ・ロハス

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本作は、ロハス自身が故郷からスペインに移住した際の体験を反映して制作された。彼は「我々はもともとベネズエラ国籍を持っていました。アメリカの入国管理局では“要注意”とされている国があって、その1つがベネズエラ。だから素直に入国するのが難しいんです」と吐露。「入国管理局に対して抱いていた反感や不安を語りたかった。映画で描かれること(尋問)はよくあることなんですが、誰の目も届かないところでひっそりと行われる。何が実際に起きているのかを明らかにしたかったんです」と制作経緯を語る。バスケスも「人種や宗教で差別されることはあると思いますが、自分の国籍でさえ差別の対象になることがある。普段そういった経験をしていない人に『もしも自分の身に起こったら……』を体感してほしかった」と構想を口にした。

日本の“入国審査”は?

フアン・セバスティアン・バスケス

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現在はスペイン・バルセロナに住んでいる2人。来日の際は劇中ほどの厳しさではないが“入国審査”を受けたそうで、ロハスは「すごく静かで、何もかもが用意されている環境でした。スペインのパスポートを持っているとすごくスムーズなんです」と笑顔を見せる。バスケスは「でも、日本でも劇中と似たような“2次審査”や、普段見られないような審査も行われていると思いますよ」と言及した。

“4つの手”で執筆した脚本、セリフを書く際は互いに読み合わせ

「入国審査」より、左からアルベルト・アンマン演じるディエゴ、ブルーナ・クッシ演じるエレナ

「入国審査」より、左からアルベルト・アンマン演じるディエゴ、ブルーナ・クッシ演じるエレナ[拡大]

脚本制作について聞かれると、ロハスは「エレナとディエゴは空港に着いてからすぐ2次審査に連れていかれます。そして審査の間にお互いの知らなかった一面に気付き、いつしか2人の関係に傷が付いていく。そういった、物語の初めから結末までの展開は制作当初から決めていました。常に(バスケスと)一緒にいて、“4つの手”で脚本を書きました」と振り返る。そしてセリフを書く際は互いに読み合わせを行ったと打ち明け、「我々が表現したいものになっているか、常に声に出すことで見出していったんです」とも語った。

劇中には、エレナが「スペイン出身?」と聞かれて「バルセロナから来た」と応じるシーンが。この場面の解説を求められたバスケスは「エレナは、自分が“スペイン人”よりも”カタルーニャ人”だという思いを抱えていて、その気持ちが自然と出てしまったんです。スペインの中に多様性が広がっているということを描きたかった」と狙いを明かした。

最初から最後まで一定のリズムで物語を展開

「入国審査」より、ディエゴとエレナが荷物のチェックを受けるシーン

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密室劇として制作された本作。撮影は17日間で実施されたそうで、ロハスは「その内の11日間は尋問のシーンに当てました」と告白する。順撮りで進行できたことにより、登場人物1人ひとりの表情の変化を丁寧に捉えることができたという。さらにロハスは「カメラと人物の距離や、レンズを変えることによって、観客もディエゴやエレナと同じくらい不安になるほどの圧迫感を出せるように考えました」と苦労をのぞかせる。撮影で特に重視していたのは“リズム”だとも述べ、「編集マンにも恵まれ、最初から最後まで一定のリズムで物語を展開させることができた。カメラの存在を忘れ、各質問ごとに『次は何を答えるのだろう』と期待させるものになったかと思います」と胸を張った。

なぜ主人公に近しいはずの人を審査官という立場に?

「入国審査」より、ローラ・ゴメス演じるバスケス

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ディエゴとエレナを尋問する審査官・バスケスを演じたのはローラ・ゴメス。観客からのQ&Aでは「彼女は白人というよりは南米系で、どちらかといえば審査官ではなく入国審査をされる側であるように見えた。なぜディエゴらに近しいはずの人を審査官という立場にしたんでしょう?」と質問が飛ぶ。バスケスは「社会に生きていると、他者に認められるために自らを変化させてしまうということはあると思います」と切り出し、「だから彼女(ローラ)も、厳しく接するようにしないと周囲から受け入れてもらえないと思ったのではないでしょうか。私たちも、一番シンパシーがあるはずの人から一番厳しくされるという光景を目の当たりにすることがあります」と言葉を紡いだ。

フアン・セバスティアン・バスケス

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最後にロハスは「ぜひ友人、家族にも薦めてください」とアピール。バスケスは「日本の方にはなじみがない話かもしれませんが、歴史の中で国の状況も日々変化していきます。いつか皆さんがこういう目に遭うかもしれませんし、きっと日本にも“ダークな部屋(審査室)”はあるのではないでしょうか」と語りかけ、イベントの幕を引いた。

「入国審査」は8月1日より全国でロードショー。

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アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスティアン・バスケスが来日

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