緑の騎士のひげはモップを加工?A24常連デザイナーがビジュアル制作をめぐって対談

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A24製作のダークファンタジー「グリーン・ナイト」の公開記念トークイベントが11月17日に東京・銀座 蔦屋書店で開催。日本版ビジュアルを手がけたアートディレクターの石井勇一、「ミッドサマー」などA24作品のデザインを多く担ってきたグラフィックデザイナー・大島依提亜が映画とそのビジュアルクリエイションについて語り合った。MCは映画ライターのSYO。

「グリーン・ナイト」公開記念トークイベントの様子。左から大島依提亜、石井勇一、SYO。

「グリーン・ナイト」公開記念トークイベントの様子。左から大島依提亜、石井勇一、SYO。

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「グリーン・ナイト」本国版ポスタービジュアル

「グリーン・ナイト」本国版ポスタービジュアル[拡大]

全身が草木に覆われた緑の騎士から、クリスマスの“遊びごと“として首切りのゲームを持ちかけられた男の旅路を描いた本作。「ホテル・ムンバイ」のデヴ・パテルが主人公ガウェインを演じ、「さらば愛しきアウトロー」のデヴィッド・ロウリーが監督を務めた。

「グリーン・ナイト」日本版ポスタービジュアル

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「グリーン・ナイト」キャラクターポスター(ガウェイン)

「グリーン・ナイト」キャラクターポスター(ガウェイン)[拡大]

石井は本作で本国版のティザービジュアルやポスターとはデザインが異なる日本オリジナルのポスターを制作。顔の右半分が影に覆われたガウェインのキャラクターポスターを土台にしながら、緑の騎士が影を侵食するようなビジュアルを生み出した。石井は「映画の主題はガウェインの深い闇。そこに脚光を当てたかった」と回想。緑の騎士の素材は映画のコマから抜き出して画像として使用したが、あごひげの部分だけポスターに耐え得る解像度ではなかったそうで「急遽うちのマンションの管理人室にある使い古したモップを借りて(笑)。その画像をひげのようにスタイリングしてます。これはつい先日まで配給会社の方にも秘密にしてました。ビジュアルを見てモップと思われてしまうと微妙なので」と意外な事実を明かした。

石井勇一

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石井勇一が作成したブラックレター風カタカナのロゴ。

石井勇一が作成したブラックレター風カタカナのロゴ。[拡大]

タイトルロゴも本国版を引用せずに、オリジナルのロゴを一から作成。アルファベットの書体はブラックレターと呼ばれるフォントを現代風にブラッシュアップし、カタカナはブラックレター風のものを制作したそう。大島は「ブラックレターをカタカナに変換するのは意外とやりやすい。でも雰囲気が硬くならずに、艶めかしく色っぽい感じに調整されているのがさすがだと思います」と称賛。フォントに関する話題では、大島が「時計じかけのオレンジ」「ランボー」「ダイ・ハード」など数多くの映画広告を手がけた檜垣紀六の仕事を紹介し「英語の書体のルールで日本語に変換すると、英語だとクールだったものがかわいくなったりポップになったり、印象が変わってしまうことも多い。それでも檜垣さんはロゴを本国に寄せる。例えばキューブリックの映画は、どんな言語でもオリジナルのロゴに合わせるルールがあったから。あの仕事を見ると強引にでも本国の書体に寄せないといけないな、と考えるようになりました」と語る場面もあった。

「mid90s ミッドナインティーズ」ポスタービジュアル (c)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

「mid90s ミッドナインティーズ」ポスタービジュアル (c)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.[拡大]

「Zola ゾラ」ポスタービジュアル (c)2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved

「Zola ゾラ」ポスタービジュアル (c)2021 Bird of Paradise. All Rights Reserved[拡大]

「グリーン・ナイト」と同じく、これまでにトランスフォーマーが配給したA24作品のビジュアル制作について話題も。石井が担当した「mid90s ミッドナインティーズ」では採用されなかったデザイン案を見せながら、「デザイナーとして何かしら爪痕を残したい思いはある。90年代当時やスケーター文化を知らない若い人たちに向けて、本国とはロゴタイプが異なるものも考案したんですが、1周回って本国と近いロゴに決まった」と述懐。大島も「A24作品あるある(笑)。結局もとのがいいねと思っちゃう。1回は試すんだけど戻ることが多い」とうなずく。「Zola ゾラ」を手がけた大島は「本国はヒップホップカルチャーの空気がハイブロウ。ダサさが3重、4重で裏返ってすごくモダン。ただ日本人にとってはハイカルチャー過ぎる」と考え、異なるデザインを作成。「本国版はシスターフッドのように見えるけど、実は2人が対峙するのが肝」と明かし、2人の顔が横に並ぶ本国デザインから、向き合う構図に変更した。

トークでは2人が映画宣伝におけるチラシの重要性にも触れる。大島は「グラフィックデザイナーにとってポスターの制作は昔から花形。でも劇場で掲出される場がどんどん減っている。生で見られる機会が多いのはチラシだと思います」と説きつつ、石井も「いかに小さいB5のサイズで文字を読まずとも、その映画の世界観を伝えるか。どういうふうにフックを生んで持って帰ってもらうか考えてますね」と表裏一体のクリエイティブであるチラシ制作の醍醐味に言及。2人とも実際に劇場からチラシを持って帰る機会も多いそうで、大島は「一瞬で『これいいね』と何を選ぶかが重要で。デザインだけじゃなくキャストや監督の情報も含めて、自分でどれを一番早く取るかな?を試してます。そして帰ってから、なぜこれを選んだのか考えてますね」と話す。近年、サムネイルやアイコンなどスマホの小さい画面で見られても映えるビジュアルを求められる機会が増えているそうで、石井は「大きいポスターと小さいサムネ、両方を考慮したメインビジュアルを作るのはけっこう難題なんです」と実作者の視点で語った。

「ライトハウス」パンフレットの制作工程より。

「ライトハウス」パンフレットの制作工程より。[拡大]

「ライトハウス」Blu-ray BOX制作工程より。

「ライトハウス」Blu-ray BOX制作工程より。[拡大]

続いてポスターやチラシではなく、石井がデザインした「ライトハウス」のパンフレットとBlu-ray BOXの制作工程にまつわる話題も展開。「僕自身が何か憑依しないとデザインできないような映画。覚悟を決めてました」と語るほどこだわり抜いた作りで、パンフレットはエイジング加工が施され、Blu-ray BOXはタイトルやA24のロゴを刻印したアンティーク木箱風の仕様となった。石井は「本自体を熟成させて腐らせたくて、大判の紙をソースや醤油、ワイン、コーヒーなどに漬け込んでから雨風にさらしました。木箱は空のワインボックスをバーナーで炙って模様を作ってます。こちらも同じく雨風にさらしていて」と回想。それらを複写・合成しデザインに使用しており、大島も「フィジカルなアプローチが多いですよね。石井さんのすごみ。ここまではやらないです」と驚いた。

終盤には2人が手がけた日本映画のポスターにも話が及んだ。夏の日差しに照らされた一家が縁側で笑みを見せる写真が印象的な「万引き家族」のポスターについて、大島は「実は撮影はクリスマスの頃。映画撮影の合間にポスター用の前撮りをしてるんですが、現場が押して17時頃になっちゃったんです。でも奇跡的にマンションの照り返しの光があって、それだけで撮ってます。本当に10分ぐらいしか時間がなくてショット数も少なかった。安藤サクラさんが素晴らしくて、寒いのに、ちょっと気だるそうな感じを出すだけで『あ、真夏だ』と思わされる。皆さんの協力でいいものができた素晴らしい経験でした」と振り返る。一方で石井が手がけた「花束みたいな恋をした」は、ポスター用の撮り下ろしではなく宣伝用スチルで構成。石井は「スチルは物語の中のワンカットなので、俳優さんの表情も完璧に作り上げられている。実は前撮りが苦手でスチルには勝てないのかもと考えることもあります。確かもらったスチルが合計で1万7000枚ぐらい(笑)。毎日のロケごとにフォルダが分かれてるんですが驚愕の枚数でした。ありがたいんですが、石のアップとか川の水面の写真とかも大量にあったり」と取捨選択の苦労を明かした。

「窓辺にて」ポスタービジュアル (c)2022「窓辺にて」製作委員会

「窓辺にて」ポスタービジュアル (c)2022「窓辺にて」製作委員会[拡大]

観客からは、大島がデザインした「窓辺にて」のビジュアルの文字組みが斜めになっていることに関する質問も。本編から影響を受けているのか問われると「あれは斜体をかけてるんじゃなくて、2度ほど文字を1個1個回転させてるんです。窓って真四角じゃないですか、でも投射された光はゆがむ。そのゆがみと登場人物の機微の違和感が連動している作品。気付きにくいですけど、読み進めていて『なんか変だな』と思ってもらえるものにしてます。最初はパンフレットも細かく回転させようと思ったんですけど、(監督の)今泉さんから『それはやりすぎなのでは』と言われちゃいました(笑)」と答えた。

左から大島依提亜、石井勇一。

左から大島依提亜、石井勇一。[拡大]

大島は宣伝で用いられる公式ポスターだけでなく、よりアート性の高いオルタナティブポスターを手がけることも多い。権利の関係上、販売のハードルが高いそうだが、ヒグチユウコとともに手がけた「ミッドサマー」は本国のA24からの要望で販売が実現したという。大島は2022年公開作だけでも「X エックス」「LAMB/ラム」「マイ・ブロークン・マリコ」でオルタナティブポスターを作成。自ら配給サイドに提案することもあるそうで「メインのポスタービジュアルはいろんな人の意見が入る。自分だけで自由に作りたい気持ちは別にないんですけど、僕なりの批評や答えを提示したい思いはあって。そもそも映画はひとくくりでは言い表せないもの。見る人にとっても、いろんなレイヤーがあるほうがいいかなと思ってます」と話した。

「グリーン・ナイト」は11月25日より東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国でロードショー。

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(c)2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

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SYO @SyoCinema

昨日のA24『グリーン・ナイト』イベントの素晴らしいレポート記事です🦊

(MCって写真からカットされることが多いのでとても嬉しいです。映画ナタリーさんに感謝…)

緑の騎士のひげはモップを加工?A24常連デザイナーがビジュアル制作をめぐって対談
https://t.co/GZ8Pyh2Xtq

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