第23回東京フィルメックスのコンペティションに出品されている韓国映画「同じ下着を着るふたりの女(原題)」が、本日11月3日に東京・有楽町朝日ホールで上映され、上映後にQ&Aが行われた。
シングルマザーの母親と20代の娘の、暴力と依存の悪循環に陥った親子関係を描いた本作。2021年10月に初上映された釜山国際映画祭でニューカレンツ賞を受賞し、その後はベルリンをはじめ多くの国際映画祭で紹介されてきたキム・セインの長編監督デビュー作だ。
Q&Aには監督のキム・セイン、キャストのチョン・ボラム、撮影監督のムン・ミョンハンが出席。キム・セインは「完全に愛することも憎むこともできない関係」という題材に触れ、「韓国社会におけるそのようなアイロニカルな関係の極みとは何か考えたとき、母と娘の関係ではないかと思い、この映画を作ろうと決めました」と説明する。そして「韓国の映画、ドラマ、本などでは、さまざまな親子の姿が描かれています。プロットを書き始めた2016年、メディアには仲が良くて美しい母娘の姿が多くありました。でも私の経験や周囲を見渡したとき、それとは違う母娘の関係を描いてみたいと思ったんです」とさらに詳しく語った。
停電シーンの撮影について問われると、ムン・ミョンハンは当初もっと明るめの照明で撮る予定だったと振り返る。しかしキム・セインから「観客の映画体験を重視したい」とリクエストを受けたそうで、没入感を重視して照明を暗くしたことを伝えた。また手持ちカメラによる撮影の演出については、キム・セインが「カメラを遠くから構えるのではなく、人物の動きや感情に沿って密接に撮りたかったからです」と解説した。
ソヒ役で助演したチョン・ボラムの起用については、キム・セインが「ソヒのキャラクターにおいて一番重要なキーワードは『適切な優しさ』でした。(主人公の)イジョンを完全に突き放さず、完全に受け入れることもない、自分のラインをしっかり守れるような人に演じてほしかった」と述べ、「ボラムさんに会ってみると本当に優しくて、でも芯が通っている印象で。私の思い描くソヒに近くてお願いしました」と述懐。「適切な優しさ」に悩んだというチョン・ボラムは「なぜソヒはイジョンを理解することも受け入れることもできないのか、それに共感したくて、監督に『彼女(イジョン)はどういう人生を歩んできたんですか?』と聞いたら、監督もイジョンのお母さんのような状況に置かれたことがあるそうで。独立しようと家を出て、なんとか踏ん張りながら生きている人だと話してくれました。だからイジョンがなぜ母親を嫌いなのか、彼女のキャラクターも参考にしながらソヒを演じました」と振り返った。
商業映画の制作経験がほとんどなかったキム・セインは、撮影に入る前に役者陣とコミュニケーションを取ることを心掛けたという。「シナリオに関する話より、今までどんな人生を歩んできたか話しました。私は口下手なので、思いがしっかり伝わるか自信がなくて。音楽やグラフィックなどのツールも使いながらコミュニケーションを取り、一緒にキャラクターの感情を作り上げようとアプローチしました」と回想するキム・セイン。プロットを書いていた当時、母娘間の否定的な感情をむき出しにする作品は少なく、「この気持ちは私だけの感情なのか。共感してもらえなかったらどうしよう」と不安を抱いたというが、精神科医・斎藤環の書籍や、田房永子のマンガ「母がしんどい」など日本の文献も参考にして、本作を完成させたと明かした。
第23回東京フィルメックスは11月6日まで開催。
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SARU @saruKmovie
あらためて監督の発言を見ても、ある意味、どこの国でも母娘に共通する関係をやや極端に描いているだけで、それを突き破る何かがある映画でも、発想でもなく、(もちろん全員では
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