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アカデミー賞作曲家A・デスプラ来日「若草物語」音楽は「モーツァルトとボウイの間」

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アレクサンドル・デスプラ

アレクサンドル・デスプラ

「グランド・ブダペスト・ホテル」「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞作曲賞を受賞したアレクサンドル・デスプラが来日。1月23日に東京のアンスティチュ・フランセ 東京で「映画音楽の巨匠アレクサンドル・デスプラが語る音楽の世界」と題したトークイベントに出席した。

先日ノミネーションが発表された第92回アカデミー賞でも、「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」で作曲賞候補に選出されたデスプラ。自ら手がけた、川端康成の短編小説「無言」が原作の室内オペラ「サイレンス」の日本上演に合わせて来日した。この日は「サイレンス」の台本・演出を担当した、公私ともにパートナーであるソルレイ(ドミニク・ルモニエ)も登壇した。

まず自身の音楽のルーツを聞かれたデスプラは「ピアノを弾き始めたのは5歳の頃です。家にピアノがあり、2人の姉が弾く音楽がいつも流れていました」と回想。俳優のジェラール・フィリップによる解説付きのレコードがあり、そこでモーツァルトの音楽と初めて出合ったという。「彼を発端にピアノを始め、次にトランペット、最後にフルートを吹くようになりました。フルートでは自分を表現するように初めて感情を伝えることができたんです」と明かす。続いて作曲家になった経緯を「即興やレパートリーの楽曲を演奏するだけでなく、何かを探し始めました。そして作曲家ならすべての音楽にアクセスできると気付きました。映画音楽はなんでもできる。人数の編成も楽器も自由。素晴らしい遊び場。モーツァルトを聴いていた子供時代と同じように遊んでいる気分です」と説明した。

1990年代からフランスの映画やドラマで音楽を手がけ始め、今やハリウッドの第一線で活躍する映画音楽家となったデスプラ。これまでに「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」「英国王のスピーチ」「ハリー・ポッターと死の秘宝」「アルゴ」「ヴァレリアン 千の惑星の救世主 」「ペット」シリーズなど、ジャンルを問わず数多くの映画音楽を生み出している。作品選びのポイントについては「非常にデリケートな部分です。脚本、監督やプロデューサーの考え、そして自分自身が納得できるか考えます。常に希望しているのはそこに芸術的な出会いがあるか、ということ。単純な成功ではなく、周囲と一体となり情熱を持って取り組めるかです。そして観客から愛される映画に関わりたい」とこだわりを述べる。

2018年のジャック・オディアール監督作「ゴールデン・リバー」では、初めて西部劇の音楽を手がけた。「西部劇の音楽を今日新たに作るのはとても難しかった。すでに一度聴いたら忘れられない素晴らしい映画音楽がたくさんありますからね」と、「荒野の七人」のエルマー・バーンスタイン、セルジオ・レオーネとのタッグで知られるエンニオ・モリコーネらの名前を挙げる。過去の西部劇の音楽を参照しつつも、「そこに捕まらないように。たくさんのことを語りかけてくれる映画に耳を傾けます」と、「ゴールデン・リバー」における作曲の姿勢を明かした。

観客から「一番作曲が難しかった作品は?」と問われると「簡単には選べません。どれもとても難しい作業です。でも本当のこと」と真剣なまなざしを向ける。「同じことの繰り返しであってはならないし、自分が思うだけでなく今の映画が求めている新しい表現を生み出す必要がある。かなりの努力、そしてためらいや探求も必要。いつも回り道をして同じところに戻ってきます。でもこの回り道が重要なんです。逆に映画に音楽が少ない作品がもっとも難しい。映画にとって音楽が刀の一撃のようなものになるから」と答える。一方、観客からデスプラの楽曲の中でお気に入りはあるか問われたソルレイは「難しい質問ですね。私がバイオリニストとして演奏している曲も多いですから」とほほえみつつ、オディアールとの一連の仕事やアン・リー監督作「ラスト、コーション」を挙げた。

「GODZILLA ゴジラ」や日本を舞台にした「犬ヶ島」を手がけた際には日本の映画音楽にも触れていたそうで「武満徹を非常に尊敬しています。楽譜を研究し魅了されました」「久石譲は理想的な映画音楽のアーティストであり、コンサートでも素晴らしいピアニストで指揮者」と語る場面も。

イベントでは3月27日に公開を控える「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」の話題も飛び出した。グレタ・ガーウィグと初めてタッグを組んだデスプラは、南北戦争の時代を背景にした史劇であることを前置きしつつ「この作品が新しいのは『若草物語』というクラシックをモダンに解釈したこと。原作通りに映画にするのではなく、作品の美しさや演技を現代に接近させたことが素晴らしい」とコメント。ガーウィグからは最初に「音楽はモーツァルトとデヴィッド・ボウイの間のように」と言われたそうで「今でもこのフレーズを正確に理解できているかわかりませんが、その正しさは理解しています。弦楽器が奏でる音楽や響きは19世紀のものでありながら、同時に情熱が吹き出てくるようなモダンなエネルギーに満ちている。本作はお行儀のよい映画ではないし、単に過去にオマージュを捧げたものではない。音楽も映画のあり方を踏襲しています」と語った。

デスプラ自ら指揮を振る「サイレンス」は、1月25日に神奈川・神奈川県立音楽堂で上演。詳細は公演の特設サイトで確認を。

ボーダーレス室内オペラ/川端康成生誕120周年記念作品「サイレンス」

2020年1月25日(土)神奈川県 神奈川県立音楽堂
開場 13:00 / 開演 14:00
料金:一般 6000円 / シルバー(65歳以上)5500円 / 学生(24歳以下)3000円

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