氣志團のファンクラブ名は「私立戸塚水産高校」
ここまで、映画やファッションを中心に語ってもらってきたが、
「デビュー前の話ですが、うちのギターのトミーくんが、吉祥寺の喫茶店で
「のちに氣志團のファンクラブを作るとき、『私立戸塚水産高校』っていう名前、最高にいいよなという話になりまして。ダメ元できうち先生にご連絡をしたところ、『昔、喫茶店でメンバーの人に声掛けられたの覚えてますよ』と仰ってくださって。『しかしこんな時代にそんな“ヤクザ養成機関”みたいな学校名で大丈夫ですか?』と、逆にご心配いただきつつも快く許可をいただいて、僕ら現在もファンクラブの名前は『私立戸塚水産高校』でやらせていただいております」
バームクーヘンのレベル向上にも「ビーバップ」の影響
「『ビーバップ』って、刺さる箇所が、みんな違うんです。それぞれの思うパンチラインがあって、均太郎が『あと3杯食べないとタダになんねーんだよ』と嘆く中華屋のシーンを何度も繰り返して腹抱えて笑っているやつもいたし、ノブオの『ヒロシさんがいたらな……』発言にキレるトオルを見て、やたらエモくなるやつもいたし、『相変わらず渋いね、大将』的な、“普通の中高生にとっては使う場面がなかなか見つからないけど、それでもどうしても使いたくなるワード”にやたら反応するやつもいたり。僕の中ですと、原作での松沢くんのバームクーヘンの回。先生と喧嘩して学校を辞めると言い出したトオルのところに松沢くんがスカウトに来て『これ、アイサツがわりのバームクーヘン』って渡すシーン。僕にはめちゃくちゃ刺さりまくったんです。ヤクザの手土産、バームクーヘンなんだ……って。そのあと、本職になられたらヤバいと思った先生が『中間くん、早まっちゃいかん!』って止めようとする、あの回がすごくよくて」
「氣志團を始める前から、先方に『……なんで?』と聞かれることを見越して『手土産にはバームクーヘン』を実践するようになりました(笑)。『ツッパリは手土産って言ったらバームクーヘンなんです』『なんでですか?』『いや。「BE-BOP-HIGHSCHOOL」の松沢くんのエピソードがありまして』って言ったら、向こうがハハハって笑ってくれたり、知ってる人は『それか~! 確かに松沢くんバームクーヘン渡してたわ!』と盛り上がってくれるので(笑)。
僕の人生の目標の1つに『笑っていいとも!』のテレフォンショッキング出演というものがありました。ある日いよいよメジャーデビューをすることが決定したので、『今のうちに準備しよう!』ということで、全国からバームクーヘンをお取り寄せしたんです。スタッフ含め、みんなで何十種類と試食会をした結果、満場一致で『クラブハリエという洋菓子店のがうますぎる!』となりまして。その後、見事テレフォンショッキングに出演が決まり、そのバームクーヘンをタモリさんにお持ちしたことを皮切りに(『とんねるずのみなさんのおかげでした』の)『食わず嫌い王』でとんねるずのお二人に、『さんまのまんま』で(明石家)さんまさんにもお渡しするなど、芸能界に君臨する超絶ビッグスターのもとにもかならず手土産としてバームクーヘンをお届けし続けました。そんなある日、貴さん(石橋貴明)が番組の中で『お前にもらったバームクーヘン、うますぎた!』と言ってくださいまして。その年のクラブハリエさん、前年比400%の売上だったそうで、『どうやら、とんねるずの石橋さんが言ってくれたみたいなんだけど、そこに持ってったのは氣志團の綾小路さんらしい』ってことでクラブハリエさんから御礼のご連絡をいただき、そこからのお付き合いで現在も『氣志團万博』で毎年コラボレーションさせてもらっております。
今、日本は世界有数のバームクーヘン大国になっています。間接的ではあるものの、そこには実は松沢くんが関わっていたと断言します(笑)」
氣志團のファンは、新選組のドラマから歴オタになる人に近い
ここで素朴な疑問が湧いてきた。このような小ネタを、氣志團のファンはどこまで理解しているものなのだろうか? 綾小路に尋ねてみると、ファン層の意外な広がりについても教えてくれた。
「もともと、KISSES(氣志團ファンの呼称)のヤンキー率は世の中のアーティストのファンの中でも低いほうだと思います。理由は簡単で、ヤンキーはシンプルなものが好きだからです。はっきりとかっこよくて、はっきりと強くて、はっきりとしたストーリーがあるもの。永ちゃん(矢沢永吉)しかり、BOØWYしかり、X JAPANしかり、ayu(浜崎あゆみ)しかり、EXILEしかり。対して氣志團の場合、本1冊書いても『元ネタはこれだ』とか注釈だけでもう1冊組まないといけないくらい面倒くさい情報が多すぎるんですよね……。一番の理解者だと思っていた地元の先輩や同級生たちからも『お前らは……なんか難しくてわからん……』と一蹴される始末(笑)。
しかしながら、そんなややこしバンドの我々のGIGに、ここ数年20代の女性がたくさん来てくれるようになるという摩訶不思議な現象が。なぜだろうと思い、探りを入れてみたところ、なんと我々がデビューした頃、親御さんに連れられてGIGに来ていたちびっ子たち、つまり2世だったことが発覚したわけです。当時爆音に驚いて寝ちゃったり、凄惨な演出に泣きわめいていた子たちが、その後まさかのファンになってくれていて、SNSの普及とともに、全国に散らばる同世代のKISSESたちとコンタクトを取るなどしてみんなで応援し続けてくれていたのでした。
さらにはその世代も結婚し始め、いよいよ3世代目が登場するという時代に突入。もはや親族のような気持ちで接する昨今なのですが、先日、ニューシングル『汚れなきクソ野郎ども』のリリースイベントを開催した際、今度は男女ともに数多くのティーンズたちが参加してくれたのです。聞けば、彼らは『東京リベンジャーズ』や『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』などに触発され、なかばファンタジーとしてのヤンキー文化に興味を持ったとのことでした。例えるならば新選組をモデルにした実写やアニメなどから歴オタになる層とかに近いのかもしれません。侍や忍者、なんならニホンオオカミのように、歴史上には確かに存在したが、現代では絶滅してしまったもの、その並びにヤンキーも数えられ始めたのかもしれません。コミックやアニメ、ドラマに登場する幻の生物“ヤンキー”を追い求めているうちに、氣志團と出会ってくれたと言うんです。しかも、その中には中国や韓国から来てくれた方もいたのです。この源流である『ビーバップ』が築き上げた『ジャパニーズ・ヤンキーマンガ』の系譜がさまざまなジャンルに影響・発展して、我が国が誇るこの極めて特殊で稀少な文化が国内はもちろん、今や海外の若者たちにまで伝わっている。これはとてつもないことだと思います」
ここまでは
「若い世代には、どういうふうに映るんでしょうね? ただ、『ビーバップ』が作り上げたヤンキーカルチャーは今でもずっとあるんです。マンガ作品の中にはリーゼントのキャラクターが頻繁に登場するし、ちょっとトガったファッション誌がときどきリーゼントのスタイリングを組み込んできたりもするし。今の僕らの新しいファンの人たちもその角度から来てくれるんですけど、『ビーバップ』は当時の社会を知るにはめちゃくちゃ面白いと思うんです。
何せこのカルチャーは僕たちにとっては当たり前だったけど、そうじゃない人たちは同世代でもファンタジーの世界らしいんです。『ヤンキー、ウケる!』って読んでた人たちがいる一方、俺たちは『○○高のやつらはまさしくこういう感じで、怖くて寄り付けなかったよ。だって鼻エンピツとかされんでしょ?』みたいな。とはいえ、どこか牧歌的な感じもあって。
自分は『ビーバップ』に人生で一度も触れないことはマジで損失だと思ってるんです。現代社会に生きて、これだけいろんな情報が満ち溢れてる中でも、一番正しいことが描かれている作品なんです。多くのヤンキーマンガが大きくデフォルメされている中、『ビーバップ』は限りなくノンフィクションに近いフィクション。80年代中期から90年代前半にかけて、日本全国すべての地域に存在した幻みたいな文化であり、今も形を変えて残ってはいるけれど、一番濃かった頃の記録。これって日本が一番豊かだったときの象徴なんじゃないかな、なんて思っています。
僕はツッパリとかヤンキーは日本の高度経済成長が生んだ副産物みたいなもので、その前の愚連隊とか近年の半グレといった、経済が不安定な時代が生み出した犯罪集団とは違うと思うんです。1960年代後半から80年代にかけて日本が豊かになったからこそのフラストレーションの中で生まれたもの。それがヤンキーであり、『ビーバップ』はその世界観を時にリアルに、時にコミカルに描いた素晴らしい作品なんです。だから今触れてもめちゃくちゃ面白いし、キャラクターたちもルッキズムの外側にいる男前たちだから、近年のヤンキー作品における“イケメンパラダイス”的な世界観とは一線を画しているあたりも推せますよね。もちろん……やっていることはダメなことだらけですが(笑)。ドツいた相手のボンタンを奪ってパンイチで帰らせるって、不良の心を完膚なきまで叩き折る行為ですから(笑)」
「僕らみんな『ビーバップ』で学びました。喧嘩のやり方にしても拳でやり合うだけじゃなく、相手の人心を掌握することも描かれるし、何より“最強キャラ”がいないこともフェアだなと思います。中でも僕が一番大切にしているのが『人生一番のピンチを乗り越えるのは、いつだってユーモアを保てるかどうか』。どんなに喧嘩が強くても、より強大な力にのみ込まれたとき、人ってもろいんです。シリアスにしかならない。ヒロシやトオルたちがユーモアで乗り越えていく哲学は、僕が10代の頃『ビーバップ』で刷り込まれたことです。氣志團を始めるきっかけにもなったし、僕が思うリーダー像も入っている。力だけじゃみんな付いて来ないし、それだけだと勝てないこともある。場合によっては目をそらして“勝たない”やり方もある。『ビーバップ』から学んだことは、とても多いです」
氣志團(キシダン)
1997年に千葉県木更津で結成。メンバーは綾小路翔(DRAGON VOICE, MC & GUITARVo)、早乙女光(Dance & Scream)、西園寺瞳(G)、星グランマニエ(G)、白鳥松竹梅(B)、白鳥雪之丞(Dr / 2014年3月より活動休止中)の6名。“ヤンクロック”をキーワードに、学ランにリーゼントというスタイルでのパフォーマンスが話題を集め、2001年12月にVHSビデオで“メイジャーデビュー”を果たす。「One Night Carnival」「スウィンギン・ニッポン」などヒット曲を連発し、2004年には東京・東京ドームでのワンマンライブも開催。2012年からは地元千葉県にて大規模な野外イベント「氣志團万博」を主催し、ほかのフェスとは一線を画するラインナップで多くの音楽ファンの支持を集めている。2026年2月から8月にかけては「氣志團現象25周年記念ツアー 『四半世氣少年』」で全国をツアーする。
PrimeVideoチャンネル「東映オンデマンド」にて「ビー・バップ・ハイスクール」全6作品配信中
料金:月額税込499円 ※初回14日間無料
https://amzn.to/4p0igbL
※2026年1月時点
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松本 @matsushin1978
これ「日本がバームクーヘン大国になったのは『ビー・バップ・ハイスクール』の影響」という話が面白すぎるので読んでほしい https://t.co/ZEQxItOBaV