コミックナタリー PowerPush - ナタリー×an 教えて!センパイ~あの頃のバイト生活~

押切蓮介の場合

「俺クオリティ」のM川くん、黙って辞めるU原くん

──宅配野菜のバイトでは、印象的なエピソードはありましたか?

そこでは小学校が同じだったM川くんって男の子が働いてましてね、彼は僕らとは違って社員さんだったんですけど、社員とバイトって責任の重さも違うじゃないですか。社員さんはバイトと違って、そこのボスに当たり散らされるんですよ。それがもう悲壮感漂ってましてね。「ハァ……!ハァ……!すいません……!」っていつも謝っててねえ。こいつは本当に苦労が絶えないんだなあと思いましたよ。

──かつての級友がそんなことに……。

「猫背を伸ばして」新装版より。

級友なのにも関わらずよそよそしくてね。「今度一緒に飲みに行こうよ」って言っても、「あ……うん……」って感じで全然取り合ってくれなかったりして。彼はね、タイミング悪いところで必ずヘマをするんです。スマートに物事が進む人と、なかなか引っかかってしまう人がいるじゃないですか。そういうの、俺もあるなあと思って、そこから「猫背を伸ばして」にも出てくる「俺クオリティ」という言葉が生まれました。何かにつけタイミングの悪いことをそう呼んでいるんですけど、M川くんも絶対に「俺クオリティ」の持ち主なんですよ。M川くんを見て「あ、俺と同じだ」と、いろいろ勇気づけられました。「俺だけじゃないんだな。しかも俺よりひどいな」ってね。

──ははは(笑)。ほかにも印象的なバイト仲間はいましたか?

一緒に入ったU原くんはね、黙って辞めちゃいましてね。その次にクリーニング屋さんでも一緒に働くんですけど、そこも黙って辞めてました。

──常習犯じゃないですか(笑)。

2回裏切られましたね。

──裏切られたときはどんな気持ちなんですか?

押切蓮介

そりゃあ寂しいですよ。やっぱりね、ディスカウントショップ時代から続いてた「神ちゃんができるんだったら俺でもできるだろう」っていうのが、ずっと続いてたんですよ。だから俺が「ここでバイトする」って言ったら「じゃあ俺も」って付いてきてくれるんですけど、だいたい途中で辞めちゃうんです。僕は現実問題として働かなきゃいけないっていう厳しい生活状況だったんで、働くということに抵抗はなかったですけど。

──押切さんはいきなり辞めたような経験は?

それは絶対ないですね。それだけはやっちゃだめだって、母親から言われてたので。「ゴタゴタした辞め方をすると、必ず次のバイトに反映する。気持ちよく辞めれば次はいい仕事が入る」みたいなことを言われたんです。……まあそんなことはなかったんですけど(笑)。

川崎の工業地帯で、1人でひたすら試験管洗い

──押切さんがバイトを選ぶのはどういう基準ですか?

居心地ですね。僕は接客より裏方業で、静まり返った店の中でひっそり働くのが好きなので。アルバイト求人雑誌でも「みんな待ってるよ!」みたいなのあるじゃないですか。

──ええ、「笑顔が絶えない職場です」みたいな。

そうそう。僕、あれ絶対ダメなんです。もっと逆の人たちが働いてるようなところじゃないと。自分に見合った職場がいいというか。いままでで一番居心地のよかったのは川崎の工業地帯で、白衣着て一室にこもって試験管をとにかく洗うっていうバイト。

──試験管を1日中、ひたすら洗ってるんですか?

押切蓮介

朝から昼過ぎまでなので実質5、6時間なんですけどね。そのバイトのいいところは1人でやる仕事なんです。その部屋に僕だけなんですよ。後にも先にも、1人でやったバイトってそれしかなくて。やっぱり1人で作業するっていうのが好きなんでしょうね。

──マンガ家さんっぽいですね。

試験管も薬品によってはひどい異臭を放つものもあったんですけど、そういうのにまみれながらね。汚物を捨てに行く作業をしてると、向こうで白衣着た研究員のかわいい女の子たちがカッコいい社員さんたちと一緒に帰っていくのを見たりして。この自分の立ち位置がたまりませんよね。ドMだったんでしょう(笑)。

──ははは(笑)。でもまあ、1人の作業だと人間関係も煩わしくなくていいですね。

本当にそれです。日雇いバイトもいろいろやりましたけど、その日限りで人間関係が終わるので気持ち的には楽でしたね。

ナタリー×an 教えて!センパイ~あの頃のバイト生活~

「an」特設サイトではナタリーとの連動企画として、一般ユーザーから寄せられたバイトに関する悩みや相談にゲストが答えるコーナーを掲載。押切蓮介にはインタビューとあわせて、さまざまな質問に答えてもらった。

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押切蓮介「新装版でろでろ(1)」 / 2013年12月25日発売 / 905円 / 講談社
押切蓮介「新装版でろでろ(1)」

2003年から2009年までヤングマガジンにて連載されたホラーギャグマンガが新装版として復活! 霊感体質のため、奇っ怪現象に出くわしやすい悪ガキ中坊・耳雄が、なぜかオカルト耐性 が異常に高い耳雄の妹・留渦と、お化けに弱い耳雄の愛犬・サイトーさんとともに、悪霊や妖怪をバッタバッタとブッ倒していく。各巻に描き下ろしも収録。

押切蓮介(オシキリレンスケ)

押切蓮介

1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年に、ヤングマガジンにて「マサシ!!うしろだ!!」でデビューし、「でろでろ」などホラーギャグの分野で人気を博す。代表作に「ミスミソウ」「椿鬼」「ピコピコ少年」など。現在は月刊少年シリウス(講談社)にて「ゆうやみ特攻隊」、漫画アクション(双葉社)にて「焔の眼」を連載。月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)では、格闘ゲームを題材にした青春作品「ハイスコアガール」を連載している。6月16日発売のヤングマガジン29号では、ヤンマガ創刊34周年を記念して8ページの読み切りマンガ「はじめての担当(ヒト)」を掲載。押切と新人時代からの初代担当との関係が描かれる。


2014年12月26日更新