ワーナー・ブラザース ジャパン プロデュース アニメ特集 松澤千晶×吉田尚記|原作ファンの愛が込められた「ジョジョ」、アニメの見方が学べる「映像研」…アニメ好きのアナウンサー2人が全力トーク

外出を控え、自宅でアニメを観て過ごす人も増えているであろうこの機に合わせ、コミックナタリーではアニメ好きとして知られるアナウンサーの松澤千晶、吉田尚記の対談をセッティング。「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズ、「映像研には手を出すな!」「ハイスコアガール」など数々の人気作をプロデュースしてきたワーナー・ブラザースの歴代シリーズアニメのタイトルからオススメを挙げてもらい、ファン目線でその魅力を語ってもらった。「ジョジョ」はどのシリーズから観ればいいのか?「映像研」は何がすごいのか? これから何を観ようか迷っている人は、ぜひ2人の熱いトークを参考にしてほしい。

取材・文 / はるのおと

原作ファンも納得させられた「ジョジョ」

──おふたりには事前に、ワーナーがプロデュースしたシリーズアニメからオススメを3作ずつ選んでいただきました。まずはその中でも、おふたりがともに挙げていた「ジョジョの奇妙な冒険」「映像研には手を出すな!」の話からしましょう。「ジョジョの奇妙な冒険」のTVアニメシリーズは2012年に始まりましたが、1stシーズンが始まったときはどういう印象でしたか?

吉田尚記 尋常じゃない熱量を感じました。「ジョジョ」って原作のマンガからして少し普通じゃないですよね。叫び声がまず「WRYYYYYYYYYY!」って普通じゃない。荒木飛呂彦先生がぶっ飛んだセンスでやり切っているのが魅力の作品ですけど、多くのスタッフが関わることになるアニメではあのオーラが薄まるのかと思っていたら、完全に再現されていました。

松澤千晶 あの原作は荒木飛呂彦先生という唯一無二の芸術家によるもので、それをアニメ化するとなると、愛好家の悪い癖で「この素晴らしさは万人受けするのだろうか」とか「効果音はどうなるのだろう」みたいな、いらぬ心配をしていたのですが……吉田さんがおっしゃるように、始まってみたらまったく問題ありませんでした。

TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」から原作第3部にあたる「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」までのオープニング映像は、神風動画が制作した3DCGアニメだ。©︎荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会

吉田 そう! あのオープニングの迫力とか。制作側はマンガのアニメ化というと原作ファンを納得させるために戦う側面もあるでしょうけど、「ジョジョ」は絵やストーリーの再現度が常軌を逸して高く、作っている人たちが最強の原作ファンであると感じます。ラッシュの数まで原作を再現していますからね(参照:「ジョジョ」アフレコを終えたキャスト陣からコメント到着「まさに黄金体験でした」)。

──2人とも原作が好きで、放送前までは心配もあったけど、それを覆す出来だったと。その異常な完成度で、原作の第5部まで4シーズン152話にわたって作り続けたのも驚異に感じます。

松澤 私、この外出自粛期間中に「ジョジョ」を改めて「ファントムブラッド」から観直しているのですが、どんどん進化しているように思えます。1stシーズンを観ていると「あ、まだ最近のシリーズほど垢抜けてはいなかったのかな」と、ほんの少しの愛おしさを抱きながら、これまでに作られてきたものを常に超え続けていることへの“凄み”を感じます。

──特に好きなのはどのシーズンですか?

松澤 「ダイヤモンドは砕けない」の少し「ツイン・ピークス」(※)っぽいミステリアスな雰囲気の作り方が好きだなと思いました。

※1990年に制作されたアメリカのTVドラマ。ある少女の遺体が発見されたことをきっかけに、ツイン・ピークスという一見のどかな町に潜んでいた陰謀や犯罪が明らかになっていく。

──「スターダストクルセイダース」までの男臭さからガラッと変わりますもんね。吉田さんは?

吉田 どのシーズンもいいんですけど……「ジョジョ」初心者におすすめするなら「スターダストクルセイダース」ですかね。スタンドが出てきて“ザ・ジョジョ”という形ができたところだし、僕が一番マンガに夢中だった中学生くらいのときにリアルタイムで原作を読んでいたので、思い入れも深いです。でもどのシーズンが好きかを選ぶのは難しくないですか?

「スターダストクルセイダース」からはそれまでと異なり、キャラクターたちがそれぞれの生命エネルギーから作り出した“スタンド”の力を使って戦う。画像は「スターダストクルセイダース」の“ジョジョ”こと空条承太郎(下)と、そのスタンドであるスタープラチナ(上)。©︎荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険SC製作委員会

──難しい質問ですみません。

吉田 「ジョジョ」って毎シーズン終わり方がすごくいいと思うんですよね。単純なハッピーエンドでもないけど、全員が見せ場を作り、いろんな物語を内包して終わる。例えば「スターダストクルセイダース」だと生き残ったみんなが空港で別れる場面とか。だからどのシーズンも最終話周辺は全部観てほしいです。なにしろシーズンによって終わり方がバラバラですから。「戦闘潮流」なんて「カーズは考えるのをやめた」ですよ。「これでいいのか」ってなる(笑)。でもそれがいい!

松澤 あれいいですよね!

──では全部観て、各シーズンの結末をしっかり堪能しようということで。吉田さんは「スターダストクルセイダース」(2ndシーズン)以降のシリーズでイベントの司会も担当されていますが、印象的だったことはありますか?

吉田 「ダイヤモンドは砕けない」(3rdシーズン)のときに、舞台である杜王町のモデルとなった仙台でイベントが行われたんです。

松澤 おおー。

吉田 舞台裏にいる出演者やスタッフは原作を読み込んでる人たちばかりなので、みんな延々とセリフを引用しながらしゃべっているんですよ。「覚悟はいいか? オレはできてる」とか。終演後に皆さんで食事をしたんですが、そのときに誰かが「酒! 飲まずにはいられないッ!」と言っていて、危険なセリフだなと思ったのを覚えています(笑)。だいぶ杜王町を堪能させていただきました。

湯浅政明のすごさをわかりやすく示したアニメ「映像研」

──続いて「映像研には手を出すな!」の話です。2020年冬クールに放送されたばかりの作品ですが、どの辺りがお気に入りのポイントでしょうか?

TVアニメ「映像研には手を出すな!」キービジュアル ©︎2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

松澤 まず原作者の大童澄瞳先生のTwitter(参照:大童 澄瞳 SumitoOwara【公式】 (@dennou319) | Twitter)が面白いですね。先生の印象と無邪気な主人公の浅草氏を少し重ねながらアニメを観てしまうところがあって。

──先生はアニメの放送に合わせて告知や裏話などをツイートしてよく拡散されていましたね。本編はいかがでしょう?

松澤 「映像研」は原作も読んでいましたが、アニメーションや映像を作る人たちの抱える問題が浮き彫りになっていくストーリーそのものが興味深いですよね。あと浅草氏・金森氏・水崎氏という3人の掛け合いの間が、自然体ですごくよかったです。

──3人の中で特に好きなキャラクターはいましたか?

松澤 みんながいいからなあ。私は浅草氏の視点で観ているところがありました。浅草氏のこの仕草とかやりませんでした?(服の襟を持ち上げて顔を隠す)

TVアニメ「映像研には手を出すな!」第2話より、左から浅草みどり、金森さやか、水崎ツバメ。物語はアニメーション制作を夢見る浅草とその友人・金森が、アニメーター志望のカリスマ読者モデル・水崎と出会うことから始まる。©︎2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会 TVアニメ「映像研には手を出すな!」第4話より、浅草が服の襟で顔を隠している様子。©︎2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

吉田 わかります、わかります。

松澤 あの仕草とか、ぬいぐるみを持っているところにも共感して。そんなひとりぼっちだった子が金森氏や水崎氏と一緒に活動して、「友達じゃなくて仲間だ」なんて言えるようになるのが本当に眩しかった。あそこで金森氏に出会えた浅草氏は羨ましいですね。私も金森氏に会いたかったです。

吉田 余談ですが、先日某アニメ監督さんとメッセージのやり取りをしていて、「理想のプロデューサーは?」という話になったんです。そこで「映像研」の話をしていたわけじゃないのに、「金森氏が理想」という答えが返ってきたんですね。要はあれくらいズケズケ来いと。「困ったことがあったら隠すな」「表面だけ取り繕われても意味がない」と言っていて、なるほどなと。

──確かに。吉田さんは「映像研」をどう見られましたか?

吉田 僕も原作は読んでいたんですけど、アニメを観て衝撃を受けました。「映像研」って絵柄が特徴的ですよね。その絵が動いたときの快感がものすごかったんです。最初から最後まで。湯浅政明監督の作品は「ケモノヅメ」あたりから全部観ていますけど、心の底から「まだ進化するんだ! 湯浅監督すごすぎ!」と驚きました。

松澤 私も湯浅監督の作品は好きですが、「映像研」では特に絵が動くという意味での“アニメーション”を楽しませていただきました。

吉田 僕も今までアニメファンとして、「四畳半神話大系」や「夜明け告げるルーのうた」を観て「この動きすごくね?」「もうたまらん!」と楽しんでいたんですが、「映像研」がもう一段階すごいのは、アニメにあまり詳しくなくても、ストーリーを追ううちにアニメの見方がわかっていくところだと思うんです。

──アニメを作るにあたって、どんな手順で作っていて、どんなことで苦労するか描かれていますからね。

吉田 そして困難を乗り越えてできあがった作中のアニメを観ると、やっぱり湯浅監督はすごいと誰が観てもわかる。「映像研」はアニメを見る楽しみを増やしてくれる作品だと思います。

──「映像研」全体の魅力を語っていただきましたが、特に印象的なエピソードはありますか?

松澤 どれも印象的で難しいですね……。

TVアニメ「映像研には手を出すな!」第12話より。イベントで販売予定の自主制作アニメ「芝浜UFO大戦」のラストシーンをデモ音源に合わせて作っていた浅草たちだったが、楽曲の制作者から上がってきた完成版はデモ版とまったく異なるものだった。納品の締切が迫る中、そのことに気付いた浅草は一計を案じる。©︎2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

吉田 難しいけど、あえて挙げるとすれば最終話でしょうか。最後に迎えるピンチが「SNSを通じて音楽の制作を依頼していたら、デモ音源とは雰囲気が全然違う変なものが上がってきた。作り直すことはできない。それをどうするか」というエピソードで、長いことアニメを観てきましたけど、そんなピンチは初めて見ましたよ(笑)。しかもこれってマンガだと表現が難しい一方、アニメならではの描き方ができる話ですよね。

──原作にはない、アニメオリジナルで付け加えられたくだりですね。

吉田 普通のアニメだったらそこから彼女たちがすごく努力するとか、ハイパーな作曲家が出てくるとかして音が改善されて解決すると思うんです。でも「映像研」最終回では、音楽はそのままで絵を少し変えた。そして最後にできあがったアニメを見ると、元の変な音を使っているのにすごくいい作品になっている。あれを見て「湯浅政明という天才の頭の中で、絵と音の関係ってどうなってるんだろう」と驚かされました。「四畳半神話大系」で浅沼晋太郎さんしか登場しなかった回(※)を観たときに近いですね。「やっていいんだ、こんなこと!」って。

※京都大学3回生にして冴えない日常を送る「私」が“薔薇色のキャンパスライフ”を送るべく、さまざまな並行世界で大学生活をやり直す姿を描いたアニメ「四畳半神話大系」。湯浅政明が監督を務めた本作の第10話では、浅沼晋太郎演じる「私」が四畳半の下宿部屋を舞台に、終始1人で膨大な量のセリフをしゃべり続ける。

──青春劇としても、湯浅政明という才能を楽しむ作品としても抜群なアニメだったということですね。

吉田 個人的な趣味の話をすると、僕は落語研究会出身なんですが、「映像研」って落語ネタが多いんです。まず浅草氏たちが通う“芝浜”高校からしてそうだし、「大工調べ」という噺にある啖呵も出てくる。しかもよく見るとモブの中に古今亭志ん生がいたり。ちなみに浅草氏とうちの娘もめちゃくちゃ似ているんですよね(笑)。

──吉田さんにとっては見どころ盛りだくさんの作品だったことがわかりました(笑)。