不思議なおばあちゃんと出会って大切な居場所ができました。アニメ映画「岬のマヨイガ」を五十嵐大介、押切蓮介がイラスト&コメントで応援

アニメ映画「岬のマヨイガ」が8月27日に公開される。「千と千尋の神隠し」に影響を与えた小説「霧のむこうのふしぎな町」など、長年にわたり愛され続けるベストセラーを世に送り出した作家・柏葉幸子による、岩手県を舞台にした同名小説が原作。スタッフには、アニメ「のんのんびより」シリーズで知られる川面真也が監督、アニメ映画「若おかみは小学生!」などにも参加してきた吉田玲子が脚本、アニメ「ジョジョの奇妙な冒険」のdavid productionがアニメーション制作で名を連ねた。“訪れた人をもてなす”という不思議な古民家“マヨイガ”を舞台に、心に傷を負ったユイ、ひより、そしてそんな2人の少女を家族のように迎え入れるおばあちゃん・キワさんの共同生活、“ふしぎっと”と呼ばれる妖怪たちとの交流が描かれる。

コミックナタリーでは、映画「岬のマヨイガ」の公開を記念し、五十嵐大介と押切蓮介に同作を鑑賞してもらいイラストと感想を寄稿してもらった。映画の舞台である岩手県で自給自足生活をしていた経験を持ち、「リトル・フォレスト」「海獣の子供」など緻密な自然の描写に定評のある五十嵐、「でろでろ」「おののけ!くわいだん部」といったホラーギャグや、90年代のゲーセンを舞台に少年少女の揺れる感情をノスタルジックに描いた「ハイスコアガール」などを発表してきた押切。2人が「岬のマヨイガ」から何を感じたのか、それぞれ異なるテイストで描かれたイラストと合わせて楽しんでほしい。

構成 / 粕谷太智

岬のマヨイガ

近年、観光資源の1つとなっている“聖地巡礼”をきっかけに、アニメを観たファンがその地域の魅力に触れることで、長期的な被災地支援につながることを目指す「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」。その1作として作られたのが、「岬のマヨイガ」だ。同作では岩手県が舞台として登場しており、芦田愛菜演じるユイ、粟野咲莉演じるひより、大竹しのぶ演じるキワさんは避難所で出会うことになる。

心に傷を負い居場所を失っていたユイとひよりは、不思議なおばあちゃん・キワさんの誘いもあり、海を見下ろせる古民家で共同生活をすることに。その古民家は“マヨイガ”と呼ばれ、“訪れた人をもてなす”という岩手県に伝わる伝説の家だった。キワさんや、地域の人々、優しい妖怪“ふしぎっと”の温もりに触れ、次第に傷ついた心が解きほぐされていく2人。しかし、人々の悲しい思いを糧に力を増す伝説の生き物“アガメ”が現れ、彼女たちの大切な居場所を脅かしていく。ユイとひより、そしてキワさんは、それぞれの過去を乗り越え、大切な場所を守ることができるのか。

キャラクター紹介

ユイ(CV:芦田愛菜)
ユイCV:芦田愛菜
ある事情で家を飛び出してきた17歳の少女。ひよりとキワさんと出会い、“マヨイガ”で暮らすことになる。ぶっきらぼうだが真っ直ぐな性格。
ひよりCV:粟野咲莉
8歳の少女。両親を交通事故で一度に亡くし、そのショックから声が発せなくなってしまう。他人のことを思いやる優しい性格の持ち主。
ひより(CV:粟野咲莉)
キワさん(CV:大竹しのぶ)
キワさんCV:大竹しのぶ
ユイとひよりを引き取り、一緒に“マヨイガ”で暮らすおばあちゃん。“ふしぎっと”と呼ばれる妖怪たちと話すことができる不思議な力を持っている。
ふしぎっと
河童や座敷童、狛犬など優しい妖怪たちの総称。キワさんとは古くから交流があり、ピンチにはすかさず現れ、ときに優しく、ときに勇敢に3人を守ることも。豊沢川・北上川の河童にはサンドウィッチマンの2人が声をあてた。
左から北上川の河童(CV:富澤たけし)、豊沢川の河童(CV:伊達みきお)、座敷童(CV:天城サリー)。

五十嵐大介

五十嵐大介による描き下ろしイラスト。

「岬のマヨイガ」のモチーフとなっている柳田国男「遠野物語」は岩手県北上山地の城下町、遠野近在の人々の体験や伝承を集めたものです。
山に棲む山人や死者に遭った話。狼、熊などの獣の話。河童や座敷童子。山の女神。一家の盛衰や信仰の起こり……。
マヨイガもそのひとつです。マヨイガは誰も住む筈のない深山に現れる無人の屋敷で、そこに迷い込んだ人は富を得ると言われます。

映画の主な舞台は遠野から山を越えた岩手県沿岸部がモデルです。世界三大漁場である三陸漁場とリアス式海岸。鉄鋼世界遺産の街釜石をはじめ、歴史と伝統の息づく広大な地域が、東日本大震災で津波に襲われました。
その瓦礫の中で17歳のユイと8歳のひよりは出会います。居場所の無い2人は岬にあるマヨイガで暮らすことになります。
沿岸は北上山地で内陸と隔てられていますが、古くから遠野を通る道や鉄道によって結ばれてきました。そのため震災直後から今に至るまで、遠野は沿岸被災地への支援の拠点の役割を果たしています。
映画でも主人公たちを助けるために遠野から不思議な存在がやって来ます。

映画の中のマヨイガには人格の様なものもあるようです。そこで出会う不思議な出来事は昔から伝わる豊かな精神世界からこぼれ出たもの。
その豊かさがユイとひよりを支え、2人が見つけた居場所を守る力となっていきます。

「岬のマヨイガ」はそんな豊かな世界への入口になってくれると思います。

五十嵐大介(イガラシダイスケ)
埼玉県生まれ。1993年に月刊アフタヌーン(講談社)でデビュー。岩手県で自給自足生活をしたことがあり、その体験をもとにした「リトル・フォレスト」は日本と韓国でそれぞれ実写映画化された。2004年「魔女」、2009年「海獣の子供」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。「海獣の子供」は日本漫画家協会優秀賞も受賞し、2019年にアニメ映画化された。その他の作品に「はなしっぱなし」「SARU」「ディザインズ」、岩手が舞台の「カボチャの冒険」などがある。遠野を舞台にした澄川嘉彦の絵本「馬と生きる」では絵も担当している。

押切蓮介

押切蓮介による描き下ろしイラスト。

心に傷や闇を抱える者の前に突如として現れ、心も空腹も満たしてゆっくりと黄泉の住人に変えていくという“マヨイガ”。
人間を黄泉の住人にかえてしまう“よもつへぐい”の中でも、典型な恐ろしさを持つのがマヨイガという印象だったが この映画に出てくるマヨイガはあまりに優しい存在だったようだ。
ユイ、ひより、キワの三人が恐るべきマヨイガと対峙し、己の闇と向き合い闘う作品だと
勘違いして映画を観に来る者もいるかもしれない……。
いや、己の闇と向き合い、とある存在と闘う作品ではある。
一見、東日本大震災による被災で傷ついた者同士が手を取り合い、支えあう心暖まるヒューマンドラマに見られがちだと思うが、
ラストの超展開に度肝を抜かれて 思わず二度見してしまった。
人間が抱える闇……それらを払拭するには支えあう者同士の絆と沸き立つ闘争心が不可欠だと気がつかされた。
数々の謎は残る作品ではあったが
夏休みアニメ映画として十分満足のいくものでした。

押切蓮介(オシキリレンスケ)
1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年に、ヤングマガジン(講談社)にて「マサシ!!うしろだ!!」でデビューし、「でろでろ」などホラーギャグの分野で人気を博す。代表作に「ミスミソウ」「ピコピコ少年」「ゆうやみ特攻隊」「ハイスコアガール」「狭い世界のアイデンティティー」など多数。「ミスミソウ」は実写映画化、「ハイスコアガール」はTVアニメ化も果たした。現在は月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「ハイスコアガール DASH」、怪と幽(KADOKAWA)にて「おののけ!くわいだん部」を連載している。「ハイスコアガール DASH」2巻が9月25日、「おののけ!くわいだん部」1巻が8月30日に発売予定。