まず、会場を巡っての感想を求められたあだちは「こんな大事(おおごと)になってるとは思わなかったんで、のこのこ出かけてきたことを後悔してます」と照れくさそうにコメント。アニメ「タッチ」の浅倉南役であり、同展の音声ガイドナビゲーターを担当する日髙は「もう時間が足りない!って感じだったんですが、とにかく幸せな空間で。先生のマンガに囲まれて過ごす時間がすごく尊いなと思いました」とにっこり笑う。
ここからは会場に展示された年表パネルに沿い、あだちの代表作「みゆき」「タッチ」「MIX」を振り返っていくことに。最初に話題に上がったのは、1980年に連載開始された「みゆき」。司会から、この頃はバブル期で“たけのこ族”が最盛期だったことも紹介される。当時を思い返し、あだちは「『みゆき』を始めた頃から5~6年の間はほとんど仕事をやってる記憶しかありません。本当に真面目に働いてたと思います」とコメント。たけのこ族や流行りのTVドラマを見る時間もまったくなかった一方で、連載開始と同じく1980年に歌手デビューした日髙の存在は知っていたと言い、本人を驚かせる。
続いては、1981年に連載が始まった「タッチ」の話題へ。この年はピンク・レディーの解散や千代の富士の横綱昇進など、さまざまなニュースがあった。日髙も音声ガイドを収録するまで知らなかったというが、実は「タッチ」は「みゆき」と同時連載。多忙な中でどうやって描いていたのかと問われると、あだちは「そのへんもまだ記憶にないですね。でも僕たちの先輩方はもっとめちゃくちゃな仕事量だったので、これで泣き言を言ったら怒られそうだなと。ただ、この仕事のペースで仕事をやってたら長生きできないなと思ってました」と語る。
最後は2012年に連載開始され、現在も連載中の「MIX」について。2012年はロンドンオリンピックが開催され、東京スカイツリーが営業を開始した年だ。「MIX」は「タッチ」の達也たちが通っていた明青学園が舞台で、あだちの過去作とのつながりが感じられる作品。あだちは本作について「高校野球の話だし、どうしても前の作品が邪魔になるなとは考えたんですが、ここまできたらもう開き直って、いろんな設定やらなんやら気にしないでぶち込んじゃおうと。本当に、(皆さんが言うように)“集大成”とかじゃないんです。なんだろう、手元にある材料を全部ぶち込んで、ミックスジュースを作ってやろうという感じ。今その最中で、出来上がりがどんなものになるのか本人もまったく想像できないので、読者の皆さんも適当に想像してください。たぶん、飲める程度にはなると思います」とにやりとしながら語る。
「MIX」のアニメ版でナレーションと仔パンチ役を務める日髙。「ちょっと離れていた故郷を訪れたような懐かしさが込み上げてきました」と初めて本作に触れたときの感想を述べつつも、主人公たちの妹・音美の名を挙げ、「やっぱり妹ですからね、ズカズカといくんですよ。南ができなかったようなことを、言ったり行動で示したりする。そこが私は『タッチ』と全然違うなと思って、ものすごく新鮮に感じました」とふふっと微笑みながら話す。
また対談では、あだち作品は多くをキャラクターに語らせない、表情や周りの風景で心情を伝えることが特徴という話題にも。これについてあだちは、「たぶんそのへんはけっこう意識してやってたと思います。言葉にしちゃうと、それ自体が意味を持っちゃうんで、伝わらない部分が(どうしても出てくる)。ニュアンスとか裏の感情とか、そういうことをなんとか言葉にしないで伝える方法を考えるのが好きでした。でもそれが成立するためには、相手にその気持ちを察する力みたいなものがないと話が進んでいかない。だから僕が描く主人公の周りには、そういうとても高校生とは思えないような大人っぽいキャラクター……物分かりがいいというか、ちゃんと裏を組んでくれる脇役を廃して、なんとか続けてまいりました」と説明する。
日髙もまた、あだちが描くセリフのないシーンから多くのことを考えたという。日髙はその手法について、「読んでいるときは本当に大好きで、その世界観に惹かれていたんですが、これを実際に私は『タッチ』という作品で“声”で表すことになりました(笑)。先生がおっしゃっていた、言葉にしない本当の思いを込めながらセリフを言うのは本当に難しくて、何度もダメをくらって。何度も録り直して、もっと行間の感情を込めなさいと言われました。読むときは最高なんだけど、演じるのは本当に大変だなと思った記憶があります」と笑いを交えて話した。
作品の話を終え、改めて2人から展示の見どころが伝えられた。日髙は「『タッチ』ゾーン」や「エピローグ」での再現展示が印象的だったと言いつつ、「なんといっても皆さんに生で観ていただきたいのは原画。本当に古い作品、『陽あたり良好!』の原画とかまであったりして、印刷される前の先生が選んだ色で塗られた原画が観られます。きっと皆さん、顔を近づけてご覧になりたいんじゃないかなっていうふうに思います。会場を巡っていくうちに、きっとご自身の人生と先生のマンガとのお付き合いを深く味わえると思います。最近の作品から入った方も、古い作品に触れていただく機会ですので、ぜひ皆様ご来場してご覧になってください。そしてぜひ音声ガイドも聞いてください」と呼びかける。
あだちは「こんな大事にしてくれと頼んだ覚えはないんですけども、とにかく55周年を盛り上げようといろんな人が、本当にたくさんの人が一生懸命がんばってくれたのは知ってるので、とにかく一生のうち一度でもあだちのマンガに触れた人は、ぜひ会場に足を運んでもらえるとみんなが幸せになります。よろしくお願いします」と挨拶。最後まで照れくさそうにしつつも、55年分の感謝の気持ちを込めて話を締めくくった。
あだちのこれまでのマンガ家生活と、発表してきた数々の作品を振り返る「あだち充展」。初期作品「ナイン」から、「陽あたり良好!」「みゆき」「タッチ」「ラフ」「H2」「クロスゲーム」「MIX」など歴代作品が集結している。初公開の生原画やラフスケッチなどの貴重な資料を含め、総展示数は300点超え。オープニングシアターでは、幅6m超の大型スクリーンで会場限定の特別映像を楽しめる。また日髙も対談の際に挙げていた、「タッチ」に登場するあのプレハブや、あだちの仕事机の再現展示も見どころの1つ。最後には、マンガ家仲間やあだちファンの著名人からのお祝い色紙がずらりと並んだ。
「―画業55周年記念― あだち充展」
会期:2025年12月19日(金)~2026年1月14日(水) ※2026年1月1日(木・祝)は休業
時間:10:00~19:00 ※最終入場18:30
会場:東京都 サンシャインシティ展示ホールC
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