インドのコロナ禍を照らした「おぼっちゃまくん」
新作は1パートが約12分、全52パートが制作され、インドではすでに放送済み。カンヌで開催された「MIPCOM CANNES 2024」でもワールドプレミアが行われていたが、日本国内で上映されるのはこれが初めてだ。上映されたのは“おぼっちゃまくん”こと御坊茶魔が応援団に入るエピソード、学園内の選挙に出るエピソード、検尿を提出するため奮闘するエピソードの3本。アニメーションはすべてフラッシュで制作されているものの、舞台設定などは日本のまま。旧作と変わらないハチャメチャな「おぼっちゃまくん」の世界観が表現された。
そもそも、なぜインドで新作を制作することになったのか。背景にはインドでのコロナ禍があったという。隅田氏は「『おぼっちゃまくん』の旧作がコロナ禍のインドで放送され、世の中が暗い中でハチャメチャで楽しい『おぼっちゃまくん』が爆発的にヒットしたんです」と説明。人気の理由については「もちろん原作の面白さもですが、茶魔とおとうちゃまの家族愛や、学校が厳しいところなど、文化に共通するところもあるようです」と分析した。
「ともだちんこ」に代わる新しい挨拶
インドは放送ペースが速く、「旧作をすべてインドに提供しきってしまい、『ぜひ続きが観たい』『今すぐ欲しい』という要望があったんですが、日本で作ってインドに提供するのでは間に合わない。じゃあ試しにインドで作ってしまえないか」と考えた。原作者の小林は「今回の企画の一番の応援者」だそうで、「インドは子供人口だけで4億人いる。未来と希望にあふれた国で『おぼっちゃまくん』が愛されているのが本当にうれしいと、一もにもなく『ぜひやりましょう』とおっしゃってくださいました」と隅田氏は語った。
原作のエピソードは旧作で大多数をアニメ化しており、続編である今作では使えないため、52パートのうち40パートほどはオリジナル。岡野氏は「オリジナルであの世界観をライターさんに生み出してもらうのも大変で、小林先生が細かく監修で入ってくださった」と明かす。また今作ではおなじみの「ともだちんこ」という挨拶を封印。「インド側に言われたわけではないんですが、頻発する語としては少し危ないかなと思い、『フレンドリッチ』という挨拶を作ってもらいました」と岡野氏が述べる通り、実際に上映されたエピソードでも「フレンドリッチ」が多数登場していた。
「ギャグは現象ではない。茶魔が動かすもの」
フラッシュを使ったルックの違いはありつつも、制作にあたり35年前と同じ「ギャグの魂」を意識したと岡野氏は語る。「コンプライアンスは厳しくなっていますが、そこを意識したら『おぼっちゃまくん』にならないので、ライターさんには思い切ったギャグをどんどん出してもらいました。その中で茶魔がかわいく動けば、ルックが違っても『おぼっちゃまくん』になるだろうと思って作っていました」と意識した点を伝えた。「安易にお金持ち要素やダジャレを入れれば『おぼっちゃまくん』になるわけじゃなく、茶魔がどれだけ魅力的に動き回れるか。小林先生に言われたんですが、『ギャグは現象ではない。茶魔が動かすものだ』と。それは自分も心に刻んでいました」
インドにローカライズしたエピソードを盛り込むようなことはなく、看板の文字などもすべて日本語のまま。これは旧作に親しんでいるインド側からの要望だったそう。日本側からシナリオと基本設定を渡し、それをもとにインド側でビデオコンテを制作するが、これもインド側が旧作を観ていたからこそできたことだと岡野氏。一方、インドとの表現方法の違いはもちろん存在する。基本的にクリエイターの個性を尊重しつつも、カメラがずっと動いていたり、ギャグのテンポ感が違ったりする点は修正を入れていったとした。
夢はインドで「おぼっちゃまくん」の映画化
また、インドのアニメーション業界についての話題も。隅田氏は「インドは国を挙げてアニメ人材を育成しようとしているので、若い人も多いし、社会進出のひとつの場所として考えられているので、女性もけっこういるんです」とインドのアニメ業界について紹介する。アニメーター不足が著しい日本に対し、インドは人海戦術が可能である一方、費用的に格段に安いというわけでもなくなっていると明かした。
今後はインドのみならずアジア各国や世界に、過去の作品ではなく今の作品として広げていきたいと語る両名。隅田氏は「夢を語っていいですか?」と切り出し、「やっぱり、おぼっちゃまくんにマハラジャと対決してほしい! インドは映画大国でもあるので、いつか映画もやれたら。小林先生も『そのために原作書くよ』とおっしゃってくださっているので、次につなげていけたら」と熱く語った。
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