安彦良和と井上俊之が「クラッシャージョウ」の作画におけるチャレンジを振り返る

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アニメーター・井上俊之のトークイベント「井上俊之の作画殿堂」第4回が、去る4月29日に東京・立川シネマシティのシネマ・ツーで開催された。第4回はゲストとして安彦良和が登壇。「安彦良和の作画世界──『クラッシャージョウ』と先進的な制作システム」と題し、劇場アニメ「クラッシャージョウ」の話題を中心にアニメの作画にまつわるトークを繰り広げた。

左から安彦良和、井上俊之、モデレーターの高瀬康司

左から安彦良和、井上俊之、モデレーターの高瀬康司

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「安彦良和の作画世界──『クラッシャージョウ』と先進的な制作システム」の様子

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1983年に公開された安彦の初監督作「クラッシャージョウ」。この日は同館で上映と安彦のティーチインも行われ、そちらから引き続き参加したファンが客席を多く占めた。井上と安彦がしっかり話をするのは「井上俊之の作画遊蕩」に収録されている対談以来とのこと。安彦は井上が「ヴイナス戦記」に原画で参加した際のエピソードを明かし、「作監(作画監督)の神村幸子さんから『井上さんもやってくれます』って。僕は失礼ながら存じてなくて、『誰それ』って聞いたら、『今業界で一番うまい人です』って言ったんです。それが1989年で、未だに井上さんはたぶん業界で一番うまい人」と賛辞を送った。

井上は「クラッシャージョウ」当時の安彦に対する印象について「“アニメーター安彦良和”をそれほど認識できておらず、“ガンダムのキャラクターデザイナー”という認識でした。どういう作画をされるのかを把握できていなくて、『クラッシャージョウ』を観たときびっくりしたんです。1本丸ごとアニメーター1人の個性でまとめられていると感じた初めての作品でした」と振り返る。安彦は「まとめざるを得なかったんです、人がいなかったので(笑)。『クラッシャージョウ』で僕が唯一自慢できるのは、この短いスタッフロール」と笑う。

左から安彦良和、井上俊之

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同作のクレジットでは“アニメーター”としても安彦の名前が記載されているが、実際の作業は今で言う“第1原画”にあたり、「機動戦士ガンダム」の1話ですでにそのやり方をしていたと安彦。「そういうふうにやれば作画をコントロールできるという思いがあった?」と井上が尋ねると、安彦は正確なことはわからないとしつつ「直すということに非常に消耗感があった」と答える。「作監にもいろいろあって、全修正しても、部分修正でも、見ないでサインするだけでも(ギャランティは)同じ。(レイアウトを描いて渡せば)少なくとも全修正はしないで済む」と、「ガンダム」でのチャレンジが「クラッシャージョウ」の制作スタイルにつながっていったと振り返った。

また安彦が「『ルックバック』を観たんです。あれもスタッフロールがものすごく短い。こういう形が一番いいんだよ、と思って」と、井上も参加した映画「ルックバック」に言及。「短いのも羨ましいですね。『クラッシャージョウ』は長かった(笑)」と、編集前は2時間半近くの尺があったという「クラッシャージョウ」の苦労話を交えつつ賛辞を送る。安彦から「監督がアニメーターで作画もやっていると、同じ作画スタッフとしてはやりやすいんじゃないですか?」と尋ねられると、井上は「お伺いを立てる相手が1人なので楽ですね。監督と作画監督が別にいて、好みの差があったりすると、原画マンは苦労しますね」と答えた。

左から安彦良和、井上俊之

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安彦の作画に対して「非常に動きの軌道がきれいでなめらか」という印象を持っていると話す井上。リミテッドアニメーションの手法を取った虫プロ出身の安彦がどこでその技術を体得したのかと井上が尋ねるも、安彦はその点で特に苦労したことはないといった様子。一方で、安彦は虫プロ時代に参加した日本アニメーション制作の「小さなバイキング ビッケ」で受けたリテイクが記憶に残っているという。「お父さんが、小さなビッケを上に放り投げながら地平の彼方に走っていく、というカットで。どうすべきだったかというのに、割と最近ハッと気づいたんです。あれは僕の考え方が根本的に間違っていて、流れでやればよかったのを、2コマ中3枚、何歩に1回放り投げる、そういう考え方をするのがリミテッドなんです。それじゃできないんだと」というエピソードからは、安彦もまたさまざまなアニメ作品から刺激を受け、自身の作画を磨いていったことが感じられた。

なおイベントの最後には、観覧していた「クラッシャージョウ」のヒロイン・アルフィン役の佐々木るんが安彦に呼び込まれ、集まったファンに挨拶する場面も。立川シネマシティでは「クラッシャージョウ」の4Kリマスター版を5月1日まで上映中だ。

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