「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」制作陣が集合、自身のキャリアに与えた影響語る

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荒川弘原作によるアニメ映画「鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星」の上映が、本日3月15日に「第3回新潟国際アニメーション映画祭」の一環として開催された。上映後のトークイベントには村田和也監督、キャラクターデザイン・総作画監督の小西賢一、メカニックデザインを担当した荒牧伸志、アニメーション制作を手がけたボンズの代表取締役であり、作品のプロデューサーを務めた南雅彦が参加した。

左からボンズの南雅彦プロデューサー、村田和也監督、キャラクターデザイン・総作画監督の小西賢一、メカニックデザインを担当した荒牧伸志。

左からボンズの南雅彦プロデューサー、村田和也監督、キャラクターデザイン・総作画監督の小西賢一、メカニックデザインを担当した荒牧伸志。

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「鋼の錬金術師」は「チャンスをいただいた作品」

「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」より。(c) 荒川弘/HAGAREN THE MOVIE 2011

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2003年に初めてTVアニメ化された「鋼の錬金術師」。その後2005年に「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」が公開、2009年よりTVシリーズ「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」が放送され、いずれもボンズが制作を手がけてきた。その最後を飾ったのが2011年公開の「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」。TVシリーズで原作の最後までが描かれたことから、その後に公開された「嘆きの丘の聖なる星」では原作にはないオリジナルストーリーが展開されている。

ボンズにとっても「鋼の錬金術師」は重要な作品であり、南は「原作ものとオリジナルを両方やっていきたかったので、これだけ大きい作品ができると、オリジナルのほうもチャレンジができる。そういうチャンスをいただいた作品」と振り返る。またアニメ化されたことで原作もさらに海外で人気になるなど、一緒に作品を大きくしていく経験ができたと語った。村田監督は「人の生き様や業の深さを、深いところから掘り起こして描こうとしている作品」と、原作「鋼の錬金術師」の魅力を表現した。

村田監督にとって小西賢一は「最強の味方」

南雅彦プロデューサー(中央)

南雅彦プロデューサー(中央)[拡大]

「嘆きの丘の聖なる星」は脚本を「ホワイトアウト」などで知られる真保裕一が手がけている。これは監督よりも先に決まっていたそうで、もともとシンエイ動画出身であり、草野球でも交流があった真保を南が誘ったのだという。南は「荒川先生からも、アニメーションとしてのオリジナルの映画を作ってくださいとのことだったので、オリジナリティのあるストーリーを作り上げるにあたり、小説家の方にお願いするのはどうかという話になりました」とオファーの理由を説明した。また映画はTVシリーズと並行して制作されたため、TVシリーズとは異なるスタッフが集まっている。村田監督はそれまでボンズの「交響詩篇エウレカセブン」の演出や、ゲーム「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST -暁の王子-」のアニメーション映像に携わっており、南は「『エウレカ』では京田(知己)監督の演出とはまた違うところですごくフォローしてもらって、それが作品の厚みにもなっている。村田監督の作品を作りたいなとずっと思っていた」と、村田の初の長編監督作に至った経緯を話した。

一方、キャラクターデザイン・総作画監督を務めた小西は、これがボンズとの初の仕事だった。村田監督と小西はともにスタジオジブリの出身であり、研修生時代からの同期。当時もジブリで仕事をしていた小西に村田監督が声をかけたという。村田監督は「初めての劇場作品の監督で、ペアを組む作画監督を誰にしようかと思ったときに、浮かんだのが小西くんでした。最強の味方になってくれるであろう人。ダメ元で声をかけました」と振り返る。そして、最初のTVシリーズより設定面で「鋼の錬金術師」に関わり続けたのが荒牧。荒牧は「錬成陣をちゃんと成立させるのが、この作品では一番大きな命題だった。すごくやりがいもありましたけど、大変でしたね。発注されたときは『めちゃくちゃ大変なことを言う』ってちょっと思いました(笑)」と当時の苦労を明かし、村田監督は「荒牧さんと亀田(祥倫)さんが、ボンズの『ハガレン』の系譜を直接引き継ぐ要だった。僕としてはすごく助かりました」と感謝を述べた。

夏目真悟や押山清高も参加、その経緯

トークイベントの様子。

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そして「嘆きの丘の聖なる星」には、演出で夏目真悟、アニメーションディレクターで押山清高という、今では実力派のアニメ監督として知られる2人もメインスタッフとして参加している。その経緯を村田監督は「僕と小西くんの2人で完結するより、メインスタッフをもうちょっと固めたほうがいいだろうと、作監経験が豊富な小西くんが助言してくれて。演出方面のバックアップで夏目さん、作画方面のバックアップで押山さんの名前が小西くんから挙がってきた」と説明。小西は「夏目くんは『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』で原画をやってもらったり、そこそこ知り合いだったんですが、押山くんはそこまで面識がなかった。『電脳コイル』などの仕事を見ていて、やわらかい絵を描くし、作画マンとしてちょっと気になっていたんでしょうね」と回顧する。「それぞれのつながりの人が集まってるから、今スタッフロール見るとすごいです」と、その他のスタッフも含めた参加メンバーの豪華さを伝えた。

小西も「カロリーが高かった」と話す「嘆きの丘の聖なる星」の作画だが、村田監督は「セルアニメーションというのは、立体感のある絵の上に、ぺたっとした平面的なキャラクターのセルを乗せる。背景とセルは単体で見ると異質なもので、背景の上にただセルを乗せただけだとやっぱり違和感があるんです。動いて初めて一体感が出る」と自身のこだわりを話す。続けて「セルで描かれているキャラクターや物体が、背景と接触していることによって実在感が出るんです。背景に描かれているものとキャラクターとの間に関係性が生まれて、初めて空間の実在感が出る」と熱く語った。また14年経った今、作品の内容について村田監督は「当時の切り口は、9.11の事件から来ていると思うんです。国家対テロリストという戦いの流れがあったうえで『ミロス』が存在している。2020年代以降、再び20世紀的な戦争が始まっている中で、今だったらまた違う描き方があったのかな、あるいは今だからこそ『ミロス』で語ったことがより鮮明になってきてもいるのかな、という気もします」と思いを明かした。

それぞれのキャリアにおける「ミロス」の位置づけ

このほかにもさまざまな裏話が飛び出したトークイベントは、予定を30分以上超過してエンディングへ。改めて「嘆きの丘の聖なる星」が自分にとってどんな作品か、という質問が4人に投げかけられる。荒牧は「10年くらい『ハガレン』をやらせてもらった、その最後の作品。2Dアニメーションのデザイナーとしての、1つの区切りのような印象です」と感慨深げに回答。南は「ボンズの作品はどちらかというとシャープなイメージがあると思うんですが、『ミロス』で1回やわらかい動きに戻させてもらったというか。今までのボンズの流れとはまた違う、新しい作品づくりを見直した作品」と語る。小西は「ボンズで参加した作品はこれだけだし、刺激的なアニメーターと接触できて、ちょっと特別な感じがあります。何よりカッコいい系の絵を描く機会があまりないので、貴重でした」と笑った。

村田監督は「自分のアニメキャリアの後半戦のスタートを切った作品になっていると思います。それまでは主に各話演出をやっていて、自分のコンテ、自分の演出する映像のクオリティに専念してきたんですが、『ミロス』を起点として、作品全体をよくするにはどうしたらいいか、作品とお客さんとの関係性、届けるべきお客さんにどのような形で届けるべきなのかを考えるようになりました。大きなステップアップをいただいた作品でもあるし、この作品でやりきれなかったことのすべてが、その後の課題にもなっています」と述懐。最後には「アニメーションを作る面白さ、大変さを改めて感じさせてくれた作品で、自分の中で重要な位置づけであるとともに、これを足掛かりに、これからも作品を作っていければなと思います」と締めくくった。

「第3回新潟国際アニメーション映画祭」は3月20日まで開催中。長編アニメーションを中心とした映画祭で、国内外の長編作のコンペティションや、ゲストを招いた上映プログラムが展開される。

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前田久(前Q) @maeQ

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