帝国一の女たらしと噂される騎士団長レイヴンと、帝国一の悪女と恐れられる令嬢エステレラ。強烈な肩書を持つ2人は、実は噂に反した“素顔”を持っていて………?
美麗なイラストと骨太のファンタジー設定で描かれるWebtoon「帝国一の悪女に溺愛がとまりません!」。ソラジマのオリジナル作品で、「タテ読みマンガアワード 2025」にもノミネートされている。この記事では“ビジュ強”なキャラクターたちの素顔がたまらない本作の魅力を、文筆家・ひらりさが4つの“メロ”ポイントを挙げながら紹介していく。
文 / ひらりさ
“メロい”とは、まさにこのWebtoonのこと
“メロい”という言葉をご存知でしょうか。
この1年で急激に浸透したワードで「Z世代の2025年上半期トレンドランキング」にも選ばれています。
ざっくり言うと“メロメロになるほど魅力的”という意味の新語。
推しているアイドルやキャラクターに対する“好き”な気持ちを最大限表すために用いられています。
ネット上の反応を見ていると、そうした相手がふと見せる“素”の表情や、予想外の側面に触れたときのギャップを見たときに使われることも多いようです。
なぜ急に“メロい”の話をし出したかというと……
今回ご紹介したいWebtoon「帝国一の悪女に溺愛がとまりません!」は、物語の各所から“メロさ”あふれる作品だからです!
このレビューでは、「帝国一の悪女に溺愛がとまりません!」の面白さを、4つの“メロ”ポイントから紐解いてまいります。
「帝国一の悪女に溺愛がとまりません!」
原案:あじ 制作:SORAJIMA
女たらしと悪女が、なぜか結婚することに!?
主人公は、帝国屈指の名家・ディエール公爵家の跡取り息子レイヴン。帝国の郊外に出る魔物を討伐する役目を負い、騎士団長として、そしてディエール家に受け継がれる「神聖力」の持ち主として、戦いに身を投じています。
そんな人望に厚いレイヴンの通り名は、“帝国一の女たらし”。社交界では、数々の令嬢を惚れさせては捨ててきた女泣かせとして、噂されているのです。
レイヴンがある日、父親に呼び出されて話をすると、なんと皇帝陛下から「結婚せよ」という命令が下ったとのこと。
その相手は、ディエール家と同じ公爵家であり、治癒の神聖力を司るシャーレン家の娘・エステレラ。
家の格式としても、神聖力の担い手としても納得のいく縁談ではありますが、レイヴンにとっては2つ大きな問題が。
それはレイヴンが、結婚を絶対にしたくないと思っていること。
そして相手のエステレラが、“帝国一の悪女”として、数々の男性を袖にしてきた性格最悪の女性として噂されていることなのでした。
きっと向こうも自分のことを嫌いだろうと思っていたレイヴン。
しかし会ってみると、エステレラはなぜか縁談に乗り気。
しかも、レイヴンが最近繰り返し見る夢に出てくる女性と瓜二つだったのです。
エステレラはなぜ「女泣かせ」のレイヴンを嫌っていないのか?
そして、レイヴンがエステレラの夢を見る理由とは……。
ポイント①
“女たらし”公爵レイヴンの素顔がメロい!
正統派な“悪女ものファンタジー”に見える「帝国一の悪女に溺愛がとまりません!」。
しかし、本作の面白さは、ところどころに仕込まれた“ギャップ”にあります。
本作最大のギャップは……レイヴンが女性経験のない童貞だということ!
実は、実際に女たらしだった父親と、彼に愛されずに恨みを募らせるとともに周囲から冷遇されていた母親の間で育ったレイヴン。もう母のような女性や、自分のような孤独な子供を作りたくないという気持ちから、「結婚はしない」と決めています。
さらに言うと、彼のように神聖力を持つものは短命のまま命を終えるのが通説。子供の頃にそれを知ったレイヴンは、自身が家族を作っても残された者たちに負担をかけるばかりだと考えて、“女たらし”の噂を作り上げていたのでした。
銀髪クールな無敵イケメンかと思いきや、思いやりに溢れた寂しげな子犬の魂を持ったヒーロー、それがレイヴンなのです。
しかも、彼、そつがないようでいて不器用。
実際に女遊びをするには奥手すぎて、デートの誘い方を知らないですし、エステレラに迫られると、すぐに動揺してしまいます。童貞だということを隠し通しているつもりで、普段彼と接している騎士団員の一部にはバレバレという実情も。
物語の序盤は、“女たらし”をつくろいながらも本心ではタジタジのレイヴンに、「め、メロい……」という感情が止まりません。
ポイント②
“悪女”エステレラの不器用さがメロい!
“悪女”をタイトルに冠した本作。レイヴンに並び立つもう1人の主人公が、彼の結婚相手となるエステレラです。
シャーレン公爵家の公女として、癒しの神聖力を司っているエステレラ。能力的には“聖女”なのに、性格は“悪女”、いったいどんな女性なのだろう……。
ドキドキしながら読み進める読者とレイヴンを面食らわせるのが、レイヴンと結婚について話した彼女が放つ、「あなた(レイヴン)を跪かせたくなった」という発言と、顎クイッ。
悪女……というか、ドS!?
なんなんだ、この女は……。
ドキドキしながら読み進めていくと、意外な事実が判明します。
実は彼女、とっても不器用で、レイヴンと同じくらい恋愛経験がないのです。
性格が悪いのでもドSなのでもなく……いわば“コミュ障”!
冒頭の「あなたを跪かせたくなった」発言と顎クイッも、恋愛経験がなさすぎるゆえに、帝国に流通している恋愛マニュアルを読み、「ファーストインプレッションは忘れられない刺激を添えて」というアドバイスに従った結果だったのです。
エステレラ……レイヴン以上に癖が強い!
しかも、魔物討伐に同行して、魔物をペシペシと素手(と神聖力)で倒してしまうという大胆な一面もあります。
近寄りがたい美貌と、他人との距離感ゆえに“悪女”と思われてきたエステレラ。
そんな彼女がいったい次にどんなアクションを繰り出すのか……。そして、なぜかレイヴンを好きだと言う彼女が、レイヴンに対してどんな表情を見せてくれるのか。レイヴンと同じ気持ちになってドキドキできるのも、本作の魅力です。
ポイント③
騎士団員に執事……2人の関係を見守るサブキャラたちがメロい!
レイヴンとエステレラ、2人の“恋愛下手”なやり取りをより引き立てるのが、彼らを見守る周囲の仲間です。
女たらしで「結婚は墓場だ」と考えていたはずのレイヴンが、エステレラを“フィアンセ”扱いすることに驚愕する周囲。最初レイヴンは、彼女を好きなわけではありません。“彼女に悪意が向けられないように”仲睦まじいふりをするのですが、エステレラの素の性格を知って、だんだんと彼女に心を許していきます。これにより、「誰も自分のせいで不幸にしたくない」と長年がんばっていたレイヴンに対して、あえて距離を置いていた屋敷の使用人たちや騎士団員たちが、レイヴンに一歩歩み寄る様子が描かれるのです。メロいというか……と、尊い……!
エステレラの登場によりレイヴンが変わり、レイヴンが変わることでディエール家全体の空気が変わっていく。単なる“恋愛もの”としてではなく“家族もの”としての醍醐味を持ち合わせているところも本作の魅力です。
ちなみに筆者が一番メロさを感じたキャラは、レイヴンの側近・ケイト。ディエール家のためならどんな汚れ仕事にも手を染めてきたロペス伯爵家の跡取りであるケイトは、レイヴンを誰よりも近い位置で助け、エステレラが来る前はレイヴンの治癒も担っていました。人に弱さを見せたくないレイヴンのため、女装して彼の遊び相手に扮し、夜な夜な部屋を訪れてあげる手間まで取っていた……! ケイトとレイヴンの唯一無二の関係性からも、目が離せません。
ポイント④
謎が謎を呼ぶ展開にドキドキ!
キャラクターたちのメロさが盛りだくさんの本作。基本的にはラブとコメディにあふれた読み応えなのですが、そこに刺激を加えるのが、ストーリーの起伏と緊張感です。
終わりない魔物討伐、急にディエール家に現れたレイヴンそっくりの子供、自分を振ったレイヴンの寵愛を受けている(ように見える)エステレラに悪意を向ける令嬢……。話はディエール家の領内に収まらず、貴族社会や帝国全体を巻き込んで展開します。そしてもちろん、エステレラがレイヴンを好きであることが、レイヴンと読者にとって物語最大のミステリー。なぜ男嫌いで有名な彼女が、出会って間もないはずのレイヴンに「あなたが好き」と告げ、結婚まで望むのか。
少しずつ明かされるエステレラの秘密と、そこに重ねて描かれる新たなストーリーを「あとちょっとだけ」と追ううち、あっという間に読み進めてしまう。タイトルからは想像がつかない場所へ連れて行ってくれる、メロくて壮大なファンタジーなのです。
プロフィール
ひらりさ
1989年生まれ。文筆家。オタク文化、女性の消費、フェミニズムなどのテーマを中心に、エッセイ、インタビュー、レビューを執筆する。平成元年生まれのオタク女子4人によるサークル・劇団雌猫のメンバー。劇団雌猫としての編著書に「浪費図鑑」「だから私はメイクする」など多数。個人名義の単著に「沼で溺れてみたけれど」「それでも女をやっていく」があり、新刊「まだまだ大人になれません」が発売中。



