テレ東系列ほかで放送中のアニメ「ワンパンマン」第3期。S級ヒーローたちと怪人協会幹部たちの戦いや、強さゆえにどんな怪人もワンパンで倒してしまう最強ヒーロー・サイタマの活躍などを描く。物語の展開は、さらなる盛り上がりを見せている。
コミックナタリーでは、お笑いトリオ・ぱーてぃーちゃんのリーダーで「最高No.1」を掲げる、すがちゃん最高No.1のインタビューをお届け。芸人として月収0円、同期の家に居候していたという下積み時代に、偶然テレビで観たアニメ「ワンパンマン」に「救われた」と語るすがちゃん最高No.1。なぜ彼は「ワンパンマン」に惹かれたのか。自身と重なるというS級ヒーロー・キングへのシンパシーから、お笑い芸人の視点で分析する“完璧なフリとオチの構造”、そしてキャラクターたちに共通して流れる“譲れない筋”まで、多角的な視点で語り尽くしてもらった。
取材・文 / 岡本大介 撮影 / 星野耕作
何も考えずに観られる「ワンパンマン」に救われた
──すがちゃんさんは、連載開始から原作を追っている大ファンだとお聞きしています。アニメ「ワンパンマン」は放送初期からご覧になっていたのですか?
はい。アニメが始まったのが2015年なので、ちょうど芸人になった翌年ですね。当時の僕は、芸人としての給料は0円なのに、なぜか「バイトはしないでおこう」ってカッコつけていて、同期の家に居候させてもらってたんです。若手芸人の仕事なんて夕方のライブくらいしかないから、それ以外の時間は全部暇で。でも暇な時間が増えると、どんどん不安になってくるんですよ。
──あえてバイトをしていない状態なのに?
そう。完全に自分のせいなんですけど、「俺、何やってるんだろう?」って(笑)。でもそんなとき、たまたまテレビをつけたら「ワンパンマン」のアニメがちょうど始まっていて、それでかなり救われたんですよね。
──どういった部分が響きましたか?
僕にとって「ワンパンマン」の一番好きなところって、いい意味で何も考えずに観られるところなんです。そもそもサイタマの「どんな敵でもワンパンで倒す」っていう、これ以上なくシンプルな設定が核になっているじゃないですか。だからストレスフリーだし、あとはサイタマが強くなりすぎて、あまり感情の起伏がないっていうのも、入ってくる情報が少なくてすごくいい。情報量が多いと、面白くても疲れちゃうときってあると思うので。
──なるほど。普通の少年マンガだと、主人公の成長や葛藤に読み手も付き合う必要がありますが、そこをすっ飛ばして結果だけがダイレクトに来る爽快感があると。
そうなんです。特に心が不安定な時期だったからこそ、そのシンプルさがよかった。かといって幼児向けほど情報がないわけでもないし、少年マンガとしての熱さもちゃんとある。むしろサイタマ以外のヒーローや怪人たちは、主人公以上に魅力的に描かれていて、この「爽やかなのにしっかりと喉越しがある」みたいなバランスが刺さったんです。
僕もキングと同じ。バレたらどうしようって“すがちゃんエンジン”が鳴るときあります
──キャラクターでは、やはりサイタマが一番お好きですか?
やっぱりサイタマなのかな。物語としても、結局のところは「サイタマを待っちゃう」っていう構造ですしね。でも、個人的に一番共感できるのはキングかもしれないです。
──キングのどんなところに共感しますか?
キングって、特に自分から何か仕掛けてるわけじゃないのに、偶然に偶然が重なって、ハリボテのまんま頂点までのし上がっちゃったキャラじゃないですか。実は僕もちょっとそういう節があって。ハッタリで「地上で一番面白い芸人です!」ってかますこともあるんですけど、内心「バレたらどうしよう?」って、キングエンジンならぬ“すがちゃんエンジン”が鳴り響いているときがけっこうあるんですよ。
──(笑)。周りには気づかれないんですか?
僕とキングが違うのは、僕のハッタリは全部バレるっていうところ。いつぞやも、とあるバラエティ番組でかましにいったコメントをした後、ミキの亜生さんから「今のエピソード全部嘘やろ」って言われて。慌てて「嘘じゃないです!」って返したんですけど、あのときの“すがちゃんエンジン”の鼓動はマジですごかったです(笑)。
──「ワンパンマン」はヒーローものでもありますけど、彼らの生き様についてはどうでしょう。魅力を感じる部分はありますか?
すごくあります。例えばサイタマって、一見無気力ですけど、ヒーローを「趣味でやっている」っていうのが最高ですよね。人を助けるのに役職も理由もお金もいらないというのが、実はものすごく筋が通っている。個人的に、Z市に巨大隕石がやってきて、サイタマがそれを破壊したあとのシーンが特に好きなんですよ。
──街の二次被害について、サイタマがタンクトップタイガーとタンクトップブラックホールの兄弟に絡まれるシーンですね。
そうそう。街を救ったのはサイタマだけど、その際に破壊された隕石の破片で家を失った人とか、いろいろな角度から見れば被害者もいて。その感情を煽ってサイタマのことを叩こうとする奴もいてっていう流れは、SNSで目にする状況にも近いと思うんです。でも非難を浴びせる被害者たちに向かってサイタマは「うるせえ だまれ」って返すんですよ。「俺はテメェらの評価が欲しくてヒーローやってんじゃねえからな 俺がやりたくてやってんだ 恨みたきゃ勝手に恨め!」って。僕、あそこは本当にしびれましたね。本来、これでいいよなって思って。
──周囲の声や評価に流されない、筋の通ったキャラクターが好きなんですね。
そうですね。「ワンパンマン」って、ほとんどのキャラクターに、正しかろうが間違っていようが自分なりの“筋”があって、そこが魅力だと思っています。同じ理由で、無免ライダーのこともめっちゃ好きなんですよ。
──ああ、わかります。
彼は自分に強さがないことは自覚してるけど、それでも必ず人を守るんだっていう筋を通す。深海王に立ち向かっていくシーンなんかは、やっぱりぐっときちゃいますよね。例え力が強くなくてもそういう心を持ってるっていうのは、これはもうかなりのイケメン具合ですよ。
──ほかに気になるヒーローはいますか?
内面のイケメン具合で言えば、アトミック侍もかなりいい線いってますね。怪人化したかつての仲間(ハラギリ)を斬るシーンなんかは、かなりのイケメン度だと思いますし。あとはゾンビマンもいいですね。あんなに不死身でハードボイルドなのに、移動は電車とかの公共交通機関を使ったりして、人としての当たり前を失ってないところがイケメンだなって(笑)。
──イケメンであることも重要ポイントなんですね。
ヒーローかどうかって、突き詰めると「イケメンかイケメンじゃないか」っていうことだと思ってるんですよ。だから僕は、昔からヒーロー作品が好きなんだと思います。
──では逆に、怪人はいかがですか?
怪人ではワクチンマンがめっちゃ好きですね。アニメ第1期第1話(#01)の最初に登場した怪人で、サイタマにあっけなく倒されちゃうアイツ。あとで調べてみたら「災害レベル:竜」で、「こいつ、『災害レベル:竜』だったんかい!」って思わずツッコミを入れてしまいました。明らかな噛ませ犬が、実はめちゃくちゃ強かったっていうのはこの作品では「あるある」ですけど、でもワクチンマンのことがめっちゃ好きになりました。あと、ムカデ長老も好きです。ムカデ後輩、ムカデ先輩ときて、その次がムカデ長老って、ちょっとネーミングを考えるのを諦めた感じがいいですよね。しかもあんなにビジュアルが気持ち悪いのに、バングとボンブの1回限りの大技を脱皮で無効化するとか、「キモカッコいいんかい!」っていう(笑)。
壮大なフリがあって、最後ワンパンで落とす。お笑いとして完璧な構図
──「ワンパンマン」はギャグやコメディの要素も強いですが、お笑い芸人という視点から見て、そこはどうご覧になっていますか?
お笑い目線で言ったら、もう完璧な構図だなって思いますね。お笑いって「フリ」があって「オチ」があるわけですけど、この作品のオチは最初から決まっていて、「サイタマがいかにワンパンで倒すか」ですよね。そしてそのために、フリの部分をどれだけ熱くするかっていうことだと思うんですけど、ほかのいろいろなヒーローが絶望して、怪人がとてつもなく強いことを見せておいて、最後はサイタマがワンパンで終わらせる。大きく振って大きく落とすっていう、シンプルなだけにとても難しいことをやっていると思うんですよ。
──誰の目にもオチがわかっているのに、それでも盛り上げますからね。
そうなんですよね。あれだけヒーローたちがいろんな思いを抱えながら戦っていて、アクションシーンも痛快なのに、サイタマのターンでは思わず笑っちゃう。「ジェノスはなんのためにあんなにがんばって手足をもがれたんだ」とか(笑)。こういう形でアクションとお笑いがシームレスに融合しているのって、本当にすごいなと思います。あとは、例えば「タンクトップ」っていうワンワードだけで新たな世界観を作り上げているところなんかも地味にすごいなと。誰でも知っているワードを「概念化」して、しかもそれが笑いになるなんて、かなりの高等テクだと思うんです。
──確かに。タンクトップマスターはS級でありながら、どこかギャグ要員的なポジションでもあります。
タンクトップマスターも大好きですね。「タンクトップを着こなすとパワーアップする」とか、完全にギャグ設定なのに本人は至って真面目だったりとか、実力や実績、性格がヒーローとして王道なだけに、タンクトップっていう一点だけでとんでもなく面白く見えちゃう。やっぱりさすがの一言ですよね。
──ちなみに、ご自身のお笑いやネタ作りにも、そういったマンガからの影響はありますか?
デカいですね。むしろ僕の持ってる語彙のほとんどはギャグマンガがベースになっていると思いますし、コントを作るときなんかは、「ボボボーボ・ボーボボ」とか、ああいう独自の笑いにかなり影響を受けている気がします。マンガって本当にたくさんの切り口やセンスを持つ作品があって、しかも数も膨大じゃないですか。例えばお笑い界にも、志村けんさんのような時代を作るようなカリスマは何人もいますけど、アニメやマンガ界って、そういったカリスマが何十人、何百人もいる状態なんですよね。だからこそ、こんなにもすごいスピードで進化するし、それが世界中に広がっていくんだと思います。
──それはすごく的を射た分析かもしれませんね。
……実はこの話は千鳥のノブさんが前に言っていたことで、それを今、そのまま言ってみました(笑)。





