アニメスタジオクロニクル Vol.7 シャフト 久保田光俊

アニメスタジオクロニクル No.7 [バックナンバー]

シャフト 久保田光俊(代表取締役)

来年は50周年、探求し続けるアニメーション制作

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新房昭之監督との出会い

2000年代以降のシャフトの快進撃を語るのに欠かせない人物がいる。「月詠 -MOON PHASE-」で初めて本格的にタッグを組んだ新房昭之監督だ。

「新房監督とは、2001年放送の『The Soul Taker ~魂狩~』で初めてご一緒する事ができました。僕らが『ドッとKONIちゃん』という作品を制作している頃で、そのときの演出さんから『「The Soul Taker」の1本だけ手伝ってほしい』という相談がありました。デジタル制作でWOWOWのHD放送対応作品ということで作り方に興味があったのと、何より新房監督のオリジナル作品だったので、参加しました。作品終了後、新房監督が『今度一緒に何かやりましょう』と言ってくれて。それが『月詠 -MOON PHASE-』の制作につながったんです」

その後、新房を監督や総監督に据えた「ぱにぽにだっしゅ!」「ひだまりスケッチ」「さよなら絶望先生」などを次々に送り出し、シャフトはアニメ界で存在感を増していく。新房監督がなんらかの形で関わったシャフトによるTVシリーズは2005~2010年で18本。続編もあったとはいえ、1年に3本という脅威のハイペースだ。

「ひだまりスケッチ」キービジュアル (c)蒼樹うめ・芳文社/ひだまり荘管理組合

「ひだまりスケッチ」キービジュアル (c)蒼樹うめ・芳文社/ひだまり荘管理組合

「一緒に仕事をやり始めた頃から、『1本でも多くのアニメを作りたい』という気持ちは、新房監督にも僕にも共通してありました。その当時はたくさん作っているという感覚はそんなになく、常に新しいことにチャレンジするという前向きな気持ちで作っていましたね。むしろアニメ制作を元請けとして作る機会が増えれば、若いスタッフたちの活躍の場が生まれるので。実現した要因はいくつかありますけれど、社内の若いスタッフたちがキャリアを積み重ねて来たこと、作画のデジタル化の推進と共に作画部、撮影部などが強化され内製の体制が進んできたことが大きいです。元請けが連続していくことにより、作品が変わってもメインスタッフたちが継続して参加していける制作スタイルを確立し、それぞれが培ったノウハウを活かして映像面を進化させていくことができました。トライ・アンド・エラーを繰り返しながらも多くの作品を制作することで経験値を積んでこられたことは、シャフトにとって大きな財産となりました」

間もなく50周年、進化し続けるアニメーション制作

そして2011年、TVアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の放送が始まる。シャフトを代表するシリーズとなり、同シリーズの新作映画特報も話題となった。

「『魔法少女まどか☆マギカ』は、シャフトとしては『エトレンジャー』以来のオリジナルタイトルの制作となりました。アニメ制作に関わる以上は、ゼロから作っていくオリジナルをやるのは夢です。試行錯誤を繰り返しながら、自分たちでベストな答えを見つけていく。原作のある作品でも同じことではありますが、正解がない分、自分たちで作ったものが答えになる面白さがある。その一方でプリプロにも時間がかかりますので、挑戦したい気持ちはありつつもなかなか実現に至りませんでした。

「魔法少女まどか☆マギカ」キービジュアル (c)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS

「魔法少女まどか☆マギカ」キービジュアル (c)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS

『化物語』を制作していた当時、アニプレックスの岩上敦宏プロデューサー(現アニプレックス代表取締役)から『新房監督、蒼樹うめ先生、シャフトという座組でオリジナルアニメを作ってみませんか?』と話をいただいて、企画がスタートしました。蒼樹うめ先生の『ひだまりスケッチ』をアニメ化していたことや、劇団イヌカレーさんと一緒に『さよなら絶望先生』で新たなアニメのビジュアルにトライしたことなど、これまでのタイトルで経験してきたことがオリジナルアニメ制作への挑戦につながったのだと思います」

「魔法少女まどか☆マギカ」の大ヒットにより、シャフトは名実ともにトップスタジオの仲間入りを果たす。そんな絶好のスタートを切った2010年代を振り返り、久保田氏が思い出深い出来事として挙げたのが「劇場版魔法少女まどか☆マギカ」シリーズ、「傷物語」、「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」と公開が続いた映画作品と、NHKで放送された「3月のライオン」だった。

「今でこそアニメの映画は増えましたが、当時は劇場アニメの数も多くはなく、TVシリーズからの劇場映画化を非常に名誉なことだと喜びました。劇場版『まどか☆マギカ』シリーズで培ったノウハウは、『傷物語』や『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』といった劇場映画作品に活かすことができましたし、その後のTVシリーズなどのアニメ作品にも活かしていくことで、映画的な発想や経験値がアニメ制作や映像の表現力を豊かにしてくれるものだということも教えてもらえました。

TVシリーズでは『3月のライオン』が印象に残っています。2クールを2シーズン制作した息の長いタイトルになりました。当初は、僕らが今までやったことがないような柔らかく温かい羽海野先生のマンガの絵のタッチで丁寧に日常芝居を描き、キャラクターの心情が溢れ出す表現を映像で伝えていくことはとても難しいかなと考えていました。でも現場のスタッフたちは逆にそれを楽しみながら、演出面や作画や色彩などを使い考えていましたね。NHKでの地上波放送でしたので普段アニメを観ていない人たちにも観てもらえる機会となり、とてもうれしかったです」

「3月のライオン」キービジュアル (c)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

「3月のライオン」キービジュアル (c)羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

2020年代に入ってもシャフトは「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」シリーズをはじめ、「アサルトリリィ BOUQUET」や「美少年探偵団」といった佳作を連発した。また、2022年には久保田氏の出身地である静岡県にシャフト静岡スタジオ・AOIを新設。同年に放送された「連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ」や、2023年制作の「五等分の花嫁∽」のキャラクターデザイン・作画監督の潮月一也をはじめとするスタッフの何名かは、静岡スタジオに勤務しているという。

「潮月さんはAOIスタジオ新設時から静岡に勤務していますけれど、これまでと変わらない作画環境で作っています。AOIを作ってから1年ほど経ちましたが、ネットワークやデジタルツールの環境さえ整えば今はどこでもアニメを作ることができると改めて感じました。しかしながら、アニメーションはグループで制作していくことに変わりはありません。皆で集まり、顔を合わせて共有しながら作ることができる現場が必要で、そこから個の力以上の映像が生まれてくるのだと信じています。それは、個々の才能を伸ばしていく人材育成でも同じです。また、AOIでは新しい表現の研究もしています。3DCGと2D作画をハイブリッドで融合させながらも質の高い表現や、最先端の作り方とはどんなものかをAOIのほうで探っているところです」

久保田光俊氏

久保田光俊氏

2025年にシャフトは設立50周年を迎える。インタビューの最後にその話題を出すと、これからも進化し続けるという“貪欲な姿勢”とアニメーション制作への“変わらぬ決意”が垣間見えた。

「誠意を持って作品に取り組む姿勢を示してきた90年代、『シャフト』というスタジオを覚えていただくために作品に向き合った2000年代。オリジナルアニメーションなどの新しい表現に挑戦した2010年代、これからは、変化・進化していくアニメ制作を取り巻く環境に対して、何ができるのかを考えながら進んでいくことが必要です。2020年代は、アニメを好きな人たちや作りたい人たちが、首都圏以外や日本以外からも参加してアニメ制作ができる時代になって来たんじゃないかと感じています。僕らもすでに、東京と静岡で実践していますので。

シャフトとして大切にしていきたいのは、これからも『人』です。社内で人材を育てることが作品作りの強い武器となり、アニメーション制作スタジオとしての個性につながると信じているからです。そして、アニメーション制作は視聴者の方がご覧になり、さまざまな反響をいただいて完成するモノづくりだと考えています。僕らの挑戦や熱量は、なんらかの形でフィルムに滲み出るものなので、観てくださった方の心に痕跡を残せるアニメ制作をこれからも目指していきます」

久保田光俊氏

久保田光俊氏

久保田光俊(クボタミツトシ)

1959年生まれ、静岡県出身。株式会社シャフト代表取締役。1982年にシャフトに入社し、仕上部で色彩設定や特殊効果などを担当する。1995年より制作担当として制作全般に関わる。企画プロデューサーを経て2004年に代表取締役に就任。「まほろまてぃっく」「さよなら絶望先生」「化物語」「ニセコイ」「魔法少女まどか☆マギカ」「3月のライオン」といった作品を企画・プロデュースする。

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