マンガ編集者の原点 Vol.8 [バックナンバー]
「君に届け」「アオハライド」の池田真理子(集英社マンガMee編集部)
作家に自分の“恥ずかしさ’を見せることを恐れない
2022年11月15日 15:00 6
推しの話で盛り上がる「好きの因数分解」
「アオハライド」「思い、思われ、ふり、ふられ」などの代表作がある
「咲坂先生の2回目の連載作品ですが、読者の反応がどんどん熱く、よくなっていくのを目の当たりにしました。単行本が売れたときは、本当にうれしかったです」
それにしても、「ストロボ・エッジ」然り、「アオハライド」然り、咲坂作品の「ちょっと不思議なカタカナタイトル」はどのようにして生まれるのか、気になるところだ。
「『アオハライド』というタイトルを先生から初めて聞いたときは、耳慣れな過ぎて、電話口で『え?』って聞き返しました。だけど、少し考えてみると『確かにいいかも』と。慣れないから少しドキドキしましたが、先生に確信があるしいいだろうと思い、このままいきました。咲坂さんはポエティックな感情を想起させる言葉遣いがとてもうまいと思います」
入社以来、担当する作家は100%女性作家だという池田氏。お互いの“推し”の話で盛り上がることも多いという。
「作家さんには、私が好きな人のことを一方的に話して聞いてもらうことが多いですね。特にそれで先生方もその人のことを好きになってくれることはないですし、お互い推しの話をしていても、みんな一方通行です(笑)。ただ、『私の推しはこうで……』みたいな話をお互いキャッキャして話していると、どの作家さんも冷静に『こういうところが魅力なのね』と分析はしてくれます。あと推しの絵を描いて送ってきてくれたり、先生の推しのCDを布教用としてもらうことも多いです」
“推し”を中心に据えた作家と編集の交歓── “好き”のプロ同士の会話はさぞ熱量が高そうだ。
「“好き”の因数分解をしている感じですね。私はよく芸能人同士で、一見接点がないような不可解なカップルが付き合っていると、『この人たちって、なぜ付き合っていると思いますか?』と作家さんに聞いて考察してもらうんです。『よくよく考えたら、彼女は彼のこういうところが実はツボなんじゃ?』みたいな人間観察のプロによる洞察を聞いて、『なるほど、そういうふうにこのカップルを見てるのか!』と感心したりします」
作家に自分の“恥ずかしいところ”を見せることを恐れない
編集者歴20年を超えるベテランだが、等身大の語り口と柔らかい雰囲気で、まったく威圧感を感じさせない池田氏は「自分よりも作家さんの言うことのほうが面白い」からと、常に作家の考えを優先し、作家に合わせることを信条としている。作家との関係性では、気遣いと先回り、そしてもう1つ大事にしていることがあるという。
「言葉や形になっていないときでも、作家さんが描きたいことをできるだけ察知できるようにしたいと思っています。編集者は、マンガの文法的なものや、流行っているものについての知識も必要だと思いますが、それよりもなるべく作家さんが持っていきたい方向性の作品になることを優先したい。先を想像し、その方向性に合わせた提案ができないとせっかくのアイデアもつぶれちゃうと思うので、編集者である自分が完成形をイメージできるようにしたいなと思いますね。
あとは、作家さんに対してついカッコつけたくなってしまい、本当はわかっていないのに、わかったふりをしちゃいそうな瞬間もあります。だけどそこは繕わず、そもそもわかっていないことや、『こんなことしか思いついてないんです』とさらけ出すようにしています。ネームに対してうまく言葉にできないときも、『ちょっと変な感じがします』というレベルの返ししかできなくても、カッコつけないで伝えたほうがいいと思っています」
繕わない、カッコつけない。そんな“普段着感覚”の正直さや真摯さが、池田氏が作家に厚く信頼されるゆえんなのかもしれない。
「もっと言えば、『あほなところ、恥ずかしいところを見せるのを恐れない』。自分が間抜けなことも作家さんにはバレてると思うので、できるだけ正直に伝えようとしています。どんなことでも、あきらめないで言えるようにしたいなと思いますね」
そんな池田氏にとって、“面白い”とはどんなふうに定義できるのだろうか。とてもユニークで、納得のいく答えが返ってきた。
「よくよく考えると、自分が面白いと思う作品って、『自分1人に届いているような気がする』ものなんですよね。ヒット作だったり、媒体に掲載されて多くの人が読んでいるはずなのに、なぜか『これ、私に向けて描かれてるの?』って思うものが多い。個人的なようでいて同時に多くの人の心にも届いているというのが、実はみんな同じ空の下にいるのを感じて、そこもうれしく思える。
少女マンガや女性向けマンガも同じで、すごく個人的なことを扱っているのに、たくさんの人が共感できるところがすごくいいなと思います」
一生懸命描いてくれたネームは自分もベストの状態で読む
池田氏が心から作品を愛し、編集者として日々生き生き仕事している様子が伝わってきた。そんな氏が、編集者を志す人にアドバイスをするとしたら? とても実務的な回答をくれた。
「編集者って基本的に、作品ができる1から10までの過程を見ることができるので、とても楽しい仕事だと思います。これから編集者になる人にアドバイスがあるとすれば、自分が面白いと思っていることでも、知識の偏りとかズレがあるとほかの人とは重ならない部分も出てきて『えっ?』と思われることもあるので、自分の好みとか考え方のクセをできるだけ客観視するといいかもしれません。
それから、私は変な判断をしてしまうのがこわく、作家さんが一生懸命描いてくださったネームは自分もベストの状態で読まなければ失礼だと思っていたので、体調を整えるようにしていました。自分の体調が悪いせいで変な返事をしてしまったら申し訳なく、また作家さんのネームはどんなときにでも来るので。でも、この話を河原和音さんにしたら、『体調が悪いときに読んでも面白いネームを描きたいですね』とおっしゃっていて、さすがだなと思いました。作家さんはそのように考えてネームを描いているので、実は私の心配は無用なのだと思います(笑)」
雨にも負けず風にも負けず、毎日ネームや原稿と向き合って来た編集者らしい実感のこもった言葉が聞けた。
「あとは作家さんが思い詰めてがんばっているときに、自分まで辛気臭くならないことですね。辛気臭いタイプの方も面白がってもらえるならいいかもしれませんが(笑)、私はいつでも『絶対どうにかなりますよ!』って思っているタイプです。通常なら編集者は“励まし係”“世に出し係”みたいな役割なので、こちらは思い詰めたりしないほうが、作家さんにとっても作品にとってもいいと思います」
紙とアプリ、編集者の役割はどう違う?
現在はマンガアプリ・マンガMeeの仕事がメインだという池田氏。長年紙媒体を作ってきた立場から、紙とアプリの違いや、現在の仕事内容を語ってくれた。
「今私がいるのは編集部機能もある部署なので、一般的な編集部みたいに作家さんのネームを見たり、あとはデータの分析をしたりしています。アプリ外に広告を出稿してそこから見に来てくれたユーザーや、アプリの仕組みを変えて使い勝手をよくしたり。そうしたデータを編集部目線でマンガにどう活かしていくか判断しています。
マンガMeeには集英社の少女・女性向けの作品──りぼん、クッキー、マーガレット、ザ・マーガレット、別冊マーガレット、ココハナ等に掲載された作品とマンガMeeオリジナル作品を載せていて、そうした作品をアプリではどう見せていくかというところも考えています。集英社のいろんな少女マンガが読めるアプリなので、ぜひたくさんの人にのぞいてほしいですね」
池田真理子(イケダマリコ)
2001年に集英社に入社し、入社後は別冊マーガレット編集部、ココハナ編集部に配属。主な担当作品に
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ehoba @htGOIW
btw, I suppose male editors were the majority in shoujo manga magazine editors even in the '90s.
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