マンガ編集者の原点 Vol.8 「君に届け」「アオハライド」の池田真理子(集英社マンガMee編集部)

マンガ編集者の原点 Vol.8 [バックナンバー]

「君に届け」「アオハライド」の池田真理子(集英社マンガMee編集部)

作家に自分の“恥ずかしさ’を見せることを恐れない

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マンガ家が作品を発表するのに、経験豊富なマンガ編集者の存在は重要だ。しかし誰にでも“初めて”がある。ヒット作を輩出してきた優秀な編集者も、成功だけではない経験を経ているはず。名作を生み出す売れっ子編集者が、最初にどんな連載作品を手がけたのか──いわば「担当デビュー作」について当時を振り返りながら語ってもらい、マンガ家と編集者の関係や、編集者が作品に及ぼす影響などに迫る連載シリーズ。第8回で登場してもらったのは、集英社マンガMee編集部の池田真理子氏。別冊マーガレット編集部で長らく活躍し、椎名軽穂「君に届け」や咲坂伊緒「ストロボ・エッジ」「アオハライド」など、少女マンガの1つの黄金期的作品に携わった編集者だ。現在は、マンガアプリ・マンガMeeの運営に携っている。

取材・/ 的場容子

「イタい中二病」だった学生時代

池田氏は2001年に新卒で集英社に入社し、別冊マーガレット(以降別マ)に配属される。「君に届け」「ストロボ・エッジ」など数々の少女マンガの金字塔的作品を世に送り出している池田氏は、学生時代さぞマンガっ子だったと思いきや、意外にもマンガとは縁遠い「中二病の学生」だったという。

「小6までりぼん(集英社)を読んでいただけで、そのあと少女マンガをほとんど通らずに大人になりました。学生だった90年代は、FBIが出てくる映画に憧れ、殺人事件に関する本を読んだり、rockin’ on(ロッキング・オン)を読んで投稿したり、なぜか健康雑誌を読んだり……完全にイタい中二病でした(笑)。

あとは映画が大好きで、中学生のときは録画した映画を1日2本観る日もありました。だから漠然と映画の仕事がしたいと思っていたんですけど、当時は日本で映画に関わる仕事がどういうものかわからず。集英社に入ってからはフィクションの部署に行ければと思ったのと、自分も新人なので若い人と一緒に作品を作れればと思い、低年齢向けマンガ誌を希望した結果、少女マンガ誌の別マに決まりました。……実は、配属されるまで別マの存在も知らなかったのですが、学生時代の友達は読んでいたようで。なぜか教えてもらえなかったようです(笑)。だから、マンガは全部入社してから勉強しました」

初担当作は「恋愛カタログ」 キャラが大事な友達に

別マに配属された当時、女性編集者は池田氏だけで、あとは男性の編集部員だった。現在の編集部の男女比は半々というから、時代の変化を感じる。最初に連載を担当したのは永田正実の「恋愛カタログ」。高校生の実果と修司のカップルを中心に、さまざまな初々しい恋愛模様を描いた90年代少女マンガを代表する作品だ。1994年から連載開始し、2007年に完結。別マの中でも長寿連載となり、雑誌の顔ともなった人気作品だ。恋愛のじれじれ感がつまった作品で、筆者も学生の頃に友達とわいわいと盛り上がりながら読んだ、思い出深い作品である。池田氏が引き継いだのは22巻前後だった。

「ラブストーリーって付き合うまでの過程をメインに描くことが多いのですが、そもそも『恋カタ』って最初の1話目でカップルになるんですよね。ですが、『恋カタ』はそこからどんどんお話が展開していく。永田さんは毎回毎回本当に面白いネームをあげてくださいました。そして十数年もの間、休載が1回もなく連載されました。長期連載で、永田さんもしんどい時期があったと思いますが、どんなときでもプロフェッショナルに必ず原稿をあげてくださり減ページもないので、すごい先生だなと思います」

「恋愛カタログ」1巻

「恋愛カタログ」1巻

その後、「恋愛カタログ」は2007年に13年の歴史に幕を閉じ完結。池田氏は最終巻の34巻まで担当した。長らく担当するうちに、キャラクターとはいつの間にか特別な関係になったという。

「毎月キャラに会っていたから、連載が終わったときには『来月はもう会えないんだ……』と寂しい気持ちになりました。ずっとキャラクターたちのことを先生と一緒に考えて毎月様子を見ていたので、友達みたいな感覚になっていたんでしょうね。

当時の仕事ぶりを振り返ってみると、当時少女マンガの知識も経験もない中で担当していたので、そのときにできることや言えることを一生懸命探していましたね。ネームに対してお返事するときも、自分の中のベストパターンを考えつくして答えようと心がけていました」

探偵事務所にも取材した初立ち上げ作品「スイート☆ミッション」

並行してさまざまな作品を手がけていく池田氏は、初めて編集者として明確な手応えを感じた瞬間のことをこのように語る。

「初めて単行本を手がけたときのことです。新人作家さんの読み切り集だったのですが、上司に『ここで失敗すると作家さんの次回作が出にくくなるぞ』と言われて、『作家さんの人生が私のせいで終わってしまう!』と怖かったです。発売後に無事に重版かかったときには、とりあえず作家さんに申し訳なく思う必要はなくなったというか、すごくほっとしてうれしかったですね。よく考えたらそこまで怖がる必要はなかったのですが、新人すぎてびびっていた思い出です」

一方、初めてイチから立ち上げた連載作品は藤井明美の「スイート☆ミッション」。高校を舞台に、気が強くてまっすぐな灯里と、ドSで俺様キャラの生徒会長・森下が、校内で起こるさまざまな事件を解決に導くという学園ミステリーラブコメディだ。

「私の前に担当していた先輩に『藤井先生はミステリーがお好きだから、探偵ものとかをやるといいと思うよ』と言われて、そのまま藤井さんにご提案したのがきっかけでした。準備にあたり、自分で学園ミステリーものの小説を読んでみたり、先生と探偵事務所を1日体験してみたり、早稲田のミス研の方のお話を伺いに行ったりしました。

「スイート☆ミッション」1巻

「スイート☆ミッション」1巻

担当を引き継いですぐだったので、取材をしながら先生とも徐々にほぐれていったというか、なんとなく時を一緒に過ごしたことで、お互いにキャラがわかってよかったという思い出があります。連載準備をしながら、新人ながら『ちょっと編集者っぽい仕事してるな』って思っていました(笑)」

殿堂入りイケメンキャラ・風早翔太──カッコいい男子へのこだわり

「スイート☆ミッション」は好評を博し、11巻まで単行本が刊行され、藤井のヒット作となった。その後、着々と編集者としての実力をつけていく池田氏は、2006年に椎名軽穂の「君に届け」を担当することになる。長い黒髪のせいで周囲から暗いと誤解されてしまう高校生・爽子が、クラスメイトの風早との交流をきっかけに、少しずつ学校や世界に溶け込みながら成長していく、青春ラブストーリーの代名詞だ。本作のヒーローである風早は爽やかで社交的な男子で、「少女マンガ・イケメンランキング」等ではいつも上位にランクインする、いわば殿堂入りキャラクター。少女マンガに欠かせない存在であるイケメンキャラは、いつもどのように作家と作り出しているのだろうか。

「作家さんが描きたいキャラと関係性を理解するようにしています。たとえば、風早はやや短気な所もあるのですが、そこを含めて爽子は風早のことを好きだと椎名さんに聞いたとき、爽子の“好き”の気持ちの解像度がぐぐっとあがったことがありました。短気って普通は短所ですよね。そのあたりに人物のリアリティがあるなあと思っています。生きている人間って、一面だけで判断できるものではないので、そうした多面的な視点があると、自分にとってもキャラクターがぐっと身近になるというか、リアルに感じられる──そんなキャラクター造形を目指しています」

「君に届け」1巻

「君に届け」1巻

ちなみに、これまで担当したキャラのなかで、池田氏の好みドンピシャの男の子はいるのだろうか。

「高校生が多かったですし、主人公の好きな人としては理解ができ、みんなかわいいなとは思いますが、好みという目線では見てませんでした。自分は山岸凉子先生の『白眼子』のシロさんとか、『ハイスクール!奇面組』の一堂零くんなど、優しい思いは秘めているが、感情の見えないタイプが好きですね。このようなタイプのキャラは描くのが難しいこともあるので、作家さんが描こうとしていたら、『やめたほうがいい』と言うかもしれません(笑)。でも描いてくれたらうれしいです。

それに、恋愛マンガの編集担当って、恋愛にこだわりがないとできなそうだと思われるかもしれませんが、私は人の気持ちの流れがわかるマンガが好きなんです。少女マンガは、恋愛ものでも周りの人との人間関係や、自分の気持ちを含めた気持ちの流れを描くのがメイン。そこに恋愛が絡み合うのが少女マンガ、という感じで捉えているので、人の気持ちが面白く描けていればいい作品だなと感じます」

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推しの話で盛り上がる「好きの因数分解」

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ehoba @htGOIW

btw, I suppose male editors were the majority in shoujo manga magazine editors even in the '90s.
https://t.co/153mC2AcwB

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