天上天下唯我独尊 鶴ぼ~ちゃんのアニメPへの道 第3回(前編) [バックナンバー]
アフレコ現場に初めてやってきた俺、音響監督がこんなにファンキーなんて聞いてないんだが?
声優さんたちのガチ演技を目の当たりに! 羨ましすぎるワンちゃんと運命の出会いも
2022年2月10日 19:00 21
調整室って何するところ?
調整室ではスタッフがキャストのアフレコを見守ります。マジックカプセルの場合、前側の席の左から音響監督、ミキサー、ミキサーのアシスタントが並び、後ろ側の真ん中に監督、その両脇に演出やプロデューサーが座るそうです。
大寺 これでも機材はコンパクトなほうです。昔は大きいレコーディングスタジオとかだと1億円する機材も珍しくなくて。
鶴房 1億!?
大寺 1億じゃ済まず、2億とかするものもあるんですよ。修理を1回呼ぶだけで5万かかっちゃう。昔はそのぐらいの機材が必要だったけど、今はパソコンの中でほとんどの作業ができるようになったので機材もかなりコンパクトになりました。
鶴房 僕、スタジオに行ってもこういうのは怖くて触ったことないです。なんかしたら怒られちゃうので。
大寺 助手のときにコーヒーこぼしたりなんかしたら「うわあああ! 人生終わったあ……!!」ってなるよね(笑)。
鶴房 それが1億の機材だったら……。
大寺 スローモーションで染み込んでいくのが見えるけど止められないみたいな。
鶴房 あはは!(笑)
ミキサーがテストでメモすべきこと
ミキサーとは音響機器を操作して、複数の音のバランスを調整し、音響監督が求めるイメージに合った音にしていく仕事。鶴房さんもミキサーの席に座り、音響機器を触らせてもらいました。
鶴房 これは1億じゃないですよね?
大寺 大丈夫、これは60万ぐらいかな。
鶴房 60万も高いな!(笑) あ、このモニターであっちの部屋がちっちゃく見えるんですね。
大寺 そのモニターを見て、ミキサーはテストのときに誰が何本目のマイクに入ったかとか、どのくらいの音量で聞こえたのかとかを台本にメモしておくんです。それを踏まえて最適な録音ができるよう本番に臨む。だから声優さんも、テストと本番で必ず同じマイクに入らないといけないんです。
鶴房 このモニター(音量や音質が波形状に映されている)も細かすぎますよね。ずっと見てたら目痛くなりそう。
大寺 でもまあ、これを365日中300日ぐらいイジってるからね。アシスタントでもだいたい1年ぐらいで機材の使い方を覚えてレギュラーの仕事を持つようになりますよ。
鶴房 1年か。でも万が一こっちがミスってもう1回やり直しとかなったら……。
大寺 それがね、誰でも意外とやっちゃうんですよ(笑)。緊張感あるシーンは「絶対ミスんない」って思ってるからか大丈夫なんだけど、なんてことないシーンだと「あっ……」みたいなことがたまに(笑)。そういうときは素直に「もう1回ください!」って声優さんたちにお願いしてます。
やり直しを伝えるときは柔らかく
調整室での音は通常、アフレコブースには聞こえません。音響監督はトークバックというボタンを押し、アフレコブースにいるキャストたちに指示を送ります。
大寺 テストをしたら声優さんに一旦待ってもらって、監督にフィードバックをもらうんです。その後に演出さんやプロデューサーさん、シナリオライターさん、原作者さんにもそれぞれ意見を聞いて。それを集約して、音響監督はわかりやすい言語に変換して声優さんに伝えます。声優さんの気持ちを乗せるのも仕事の1つなので、こっちでは「うーん、あまり声出てないなあ……」なんて渋い感じで言ってたとしても、向こうには「さっきのもよかったけど、もうちょっと明るく元気にいってみようか!」みたいに柔らかく提案するようにしてますね。
鶴房 確かに歌のレコーディングのときもそうです。「次はこういうふうにやってくれるか?」って優しく言ってくれます。
アフレコは長丁場なのでカフェインは必須。どのレコーディングスタジオにもコーヒーマシンは必ず置いてあるという話で盛り上がります。奥のほうには、J.C.STAFFのプロデューサー・松倉友二さんの私物が。これはキャストやスタッフにプレゼントされた健康グッズで、松倉さんはいつもアフレコを見ながら使っているそうです。
プロのお仕事を目の当たりに
ここで調整室にぞろぞろと人が集まってきました。というのも、今日は「ミュークルドリーミー みっくす!」第48話の収録日。音響監督の明田川仁さん、監督の桜井弘明さん、プロデューサーの松倉さんらが席につくと、現場の空気が一気に引き締まります。鶴房さんも見学させてもらうことになりましたが、関係者以外の会話は厳禁のため静かに見守ります。
まず、ゆに役の釘宮理恵さん、つぎ役の久野美咲さん、はぎ役の藤原夏海さんによるAパートの収録からスタート。3人が息を合わせる一言目のセリフを聞いた瞬間、鶴房さんは「……!」と目を見開きます。修正もほとんどなくテンポよく収録は進み、次はBパートへ。今度はアフレコブースにオモロー役の高橋美佳子さんがやってきました。
みんなをワクワクさせたいオモローと同様、明るく親しみやすい人柄の高橋さん。ディレクション中、高橋さんの「ひゃー!」という叫び声が突然聞こえてきました。即座にトークバックボタンを押して何が起こったのか聞くと、どうやらお茶をこぼしてしまったようです。幸い機材にはかかってなかったため「大丈夫でーす!!」と言ってスタッフを安心させようとする高橋さんですが、調整室のスタッフから「大丈夫かどうかはこっちが決めるよ(笑)」とツッコミをくらっていました。
約15分でAパートとBパートの収録が終了。鶴房さんの感想は……?
鶴房 初めての経験でびっくりでした。セリフの言い回しもすごかったですけど、「はーい」とか「わかりました!」とか指示に対する返事も役柄の声が入ってたのが面白かったです。
音響監督についてもっと深く学んでみよう
音響監督のお仕事は、アフレコでキャストにディレクションを行うだけではありません。その具体的な仕事内容について、アシスタントミキサーとして業界に入り、10年以上の経験を積んで音響監督となった大寺さんへ、ナタリースタッフが聞いてきました。
──音響監督とはどんなお仕事なのか教えてください。
最初から最後まで音の責任を持つ立場ですね。まず会社に音響の依頼がきたら、声優さんのオーディションをかけてキャストを決定します。次はスタッフを選んでいくんですけど、「あの人が作るバトルものの音はカッコいい」とか「この人は日常ものの音付けが繊細だ」とか各々の得意分野がありますから、それによって誰にお願いするかを決めて作品に合うようなチーム作りをしていきます。あと、一番苦労するのは作曲家さんへの音楽発注ですね。作曲家さんが決まったら、音響監督が必ず行う“音楽メニュー出し”っていう作業があるんですよ。
──音楽メニュー出し?
サウンドトラックを見てもらうと、TVアニメだったら1クールで30曲から50曲ぐらい曲数がありますよね。あれって音響監督がシナリオを読んで、どんな曲が欲しいかっていうのを決めていきます。主人公がトラウマを思い出すシーンに合う曲とか、劇的な復活を遂げるシーンに合う曲とか、劇中に必要になるだろうなと想定される音楽のバリエーションをリストアップし、最終的に監督や作曲家さんとすり合わせて音楽メニューを作り上げます。
──それは責任重大ですね……。
そうなんですよ。音楽メニュー出しの時期が近づいてきたときの(明田川)仁さんの疲れっぷりと言ったらもうね……(笑)。
──あはは(笑)。
ここまでのはアニメが動き出すときの仕事ですね。アフレコでは、取材で見ていただいたように演技に対するディレクションを行います。監督のやりたいことと、役者さんがやってくれたことのズレを埋めていく作業ですね。アフレコが終わると、TVシリーズの場合は“選曲”という作業に入ります。どのカットにどの楽曲を使うかを作曲家さんから上がってきた劇伴音楽の中から選ぶんですけど、曲と映像の尺がピッタリ合うことはないので「イントロとサビとアウトロだけを合体してほしい」といったようにエディットしてもらったりなんかもします。その後に“ダビング”という、セリフと音楽と効果音をミックスする作業に進みます。ミキサーや音響効果さんに「ここのセリフが聞こえづらいかも」とか「この効果音はもうちょっと目立たせたい」と調整してもらったり、監督から「ここにもう1曲ほしいな」などリクエストを受けたりと、ディスカッションを繰り返して音を固めていきます。
──お話を聞いてると、音響監督のお仕事って実はかなり多いんですね。その中でも、力を入れる作業というとどれになるんでしょう?
やっぱり、アフレコのディレクションと選曲ですかね。僕はそこが音響監督の個性が一番出る部分だと思ってます。選曲は音響監督がそのシーンをどう見せたいかっていう思いが直結しますしね。
──なるほど。アフレコのディレクションについても伺っていきたいんですが、OKテイクとNGテイクの判断はどういう基準で行われているのでしょうか?
これ、説明が難しいんですよね(笑)。実際にアフレコ中、セリフ1つひとつについて「今のよかったな」とか「これはダメだった」ってじっくり考えてるかというとそうではないんですよ。たぶん台本を読んで自分の中である程度ストライクゾーンができてるので、そのストライクゾーンを通ったか外れたかっていうのを瞬時にチェックしてるというか。まあ、誰でも何回もアフレコを見たらどこが悪かったのかなんとなくわかると思うんですよ。それを音響監督は通しでパッと1回見ただけで即判断できるようにしなきゃいけない。
──お芝居の良し悪しを即判断するという点では、音響監督には演技力も必要だと思いますか?
演技力はいらないと思いますよ。声優の養成所が0のものを1、2、3までに育ててくれるところだとしたら、僕らって役者さんが8、9まで仕上げてきてくれたお芝居を10にする仕事なんです。必要なのは分析力と調整力。監督からこうしてほしいという注文があったら、役者さんにお芝居をどう変えてもらったらそこにフィットできるのかを考える。ちなみに僕は元々ミキサーというエンジニア畑の出身ですけど、音響監督の6、7割ぐらいは声優のスケジュール調整や、スタジオのブッキングなどの業務を行う音響制作という職種出身なんですよ。エンジニアから音響監督になるのは2割ぐらいで、残りの1割は声優とか音楽畑の人かな。そういう意味でも音響監督に一番求められる能力って、制作的な調整能力が大きいのかなってなんとなく思います。逆に僕はエンジニアの中ではべしゃりができるほうだったのでね(笑)。そういう意味でも、音響監督って司会業だと思ってやってるんですよ。違う意見を持った人同士をつないでいく職業。「〇〇さんのご意見は? じゃあ〇〇さんのご意見は?」「ああ、でもここはちょっと違ってますねえ。さてどうしましょうか?」みたいな。もちろん専門的な知識も重要ですけど、意外と回しが肝だと思ってます(笑)。
──なるほどですね(笑)。最後に、大寺さんが音響監督の仕事をやっていて一番達成感を感じる瞬間を教えていただけますか?
ああ、それはダビングですね。すべての揃えた音を組み上げて完成させる作業ですから。アフレコも楽しいんですけど、アフレコで泣いたことって10年以上やってて実は1回しかないんですよ。
──ええっ。逆にその作品も気になりますが(笑)。
それは秘密ですけどね(笑)。でもダビングだと、映像と声優さんのお芝居と音楽と効果音の相乗効果で感情が高まってけっこう泣いちゃうんですよ。自分で選曲して、映像に曲貼り付けてるときも「あー、決まったあ!」って。
──想像してたものがバチっとハマる瞬間ですね。
その感覚を味わうと病み付きになっちゃいますね。昔、映像系の学校に行ってたときに「映画とかアニメっていうもんは、絵半分、音半分だ」って教えられたんです。音もそれだけ作品に与える影響は大きいってことですよね。それを僕は誇りに思いながら音響監督という仕事を日々やらせていただいております。
次回予告
鶴房さんのアフレコレッスン編は次回へ持ち越し。鶴房さんはどのキャラクターを演じたのか。そしてお手本を見せてくれるゲスト声優さんは誰なのか……? バレンタインデー付近に更新予定です。今回の感想もハッシュタグ「#鶴ぼ~P」でお待ちしております。
鶴房汐恩(ツルボウシオン)
2000年12月11日生まれ、滋賀県出身。サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」にて約6000人の応募者から視聴者投票で選ばれ、世界的な活躍を目指すボーイズグループ・
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