鈴木勝吾・平野良が新たな伝説を作る「ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise」

三好輝のマンガを原作とした「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」(以下モリミュ)の5周年を記念した「ミュージカル『憂国のモリアーティ』コンサート」が2024年に開催され、盛況のうちに幕を閉じた。あれから約1年、新たなモリミュが始動。2020年に上演された「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2 -大英帝国の醜聞-」が、「ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise(リプリーズ)」として蘇る。

「大英帝国の醜聞 Reprise」には、モリミュ「Op.1」からW主演を務める鈴木勝吾と平野良、そして廣瀬智紀、百名ヒロキら新キャストが出演する。ステージナタリーでは、最初期からモリミュを支えてきたウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木、シャーロック・ホームズ役の平野にインタビュー。「Op.2」のナンバーを高らかに“思い出し歌い”しながら取材現場に現れた鈴木と、「わー、懐かしいねー!」と鈴木の歌声に耳を傾ける平野に、新たなモリミュを立ち上げる思いを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / ヨシダヤスシヘアメイク / 趙英スタイリスト / 吉田ナオキ

すべての始まりのような作品

──原作「憂国のモリアーティ」第1部のクライマックスを描いた「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-」が2023年に上演され、翌2024年には、モリミュシリーズの5周年を記念した「ミュージカル『憂国のモリアーティ』コンサート」が行われました。新キャストを迎えて送る「ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise」は2020年に上演された「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2 -大英帝国の醜聞-」を再構成した作品です。先ほど鈴木さんが取材現場にいらっしゃる際、「Op.2」のナンバーを歌唱されているのを聴き、非常に懐かしい気持ちになりました。

平野良 やっぱり曲を聴くと記憶が蘇ってきますね。「Op.2」の公演から5年が経ち、年齢を重ね、当時の自分とはもはや別人になっているので、台本を覚え直せるか不安なところもあります。でも、一度ついた筋肉は筋トレによってまた取り戻すことができるらしいので、頭の中のマッスルメモリーが機能してくれることに期待します(笑)。

鈴木勝吾 そんなこと言って、稽古に入ったら「あー、なんとかなったわ!」って言ってる良くんの姿が目に浮かびますよ(笑)。

「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2 -大英帝国の醜聞-」より、左から平野良演じるシャーロック・ホームズ、鈴木勝吾演じるウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。©三好 輝/集英社 ©ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト

「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2 -大英帝国の醜聞-」より、左から平野良演じるシャーロック・ホームズ、鈴木勝吾演じるウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。©三好 輝/集英社 ©ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト

平野 ははは! 勝吾くんは俺が「Op.2」に出ていた頃と同じくらいの年齢になったんだね。今、俳優として一番脂が乗ってる時期だから勝吾くんはきっと大丈夫でしょう(笑)。

鈴木 「Op.2」のとき、僕は三十代になったくらいだったかな。そう考えるとかなり前のことのような気がしますね。

──「Op.2」は、第一楽章「バスカヴィル家の狩り」、第二楽章「二人の探偵」、第三楽章「大英帝国の醜聞」から成り、「バスカヴィル家の狩り」では、ロンドンの貧民街で発生した子供の誘拐事件に関する内容が展開します。「二人の探偵」では、ヨークからロンドンへ向かう汽車の中で“犯罪卿“ウィリアム・ジェームズ・モリアーティと“名探偵”シャーロック・ホームズが再会し、「大英帝国の醜聞」では、ウィリアムとシャーロック、バッキンガム宮殿から機密文書を盗み出した“美貌の悪女“アイリーン・アドラーによる奇妙な三角関係が描かれました。「Op.2」を改めて振り返ると、どのような印象の作品でしたか?

鈴木 2019年の「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.1」は、世界観や各キャラクターの紹介に重きを置いていたと思うんですけど、「Op.2」は「憂国のモリアーティ」という作品の根幹にある大きなテーマを提示した公演でした。「大英帝国の醜聞」というタイトルにも表れているように、「僕たちウィリアム・ジェームズ・モリアーティの陣営は、腐敗した大英帝国に対してこういう動きをしていきたい。その中で、ウィリアムはシャーロック・ホームズという特別な存在を見付けた。さあ、ここから物語が動いていくよ。ゆくゆくは、僕は死ぬけどね……」といったことを匂わせる、すべての始まりのような作品だったんじゃないかなって。

平野 「Op.2」はいろいろな要素がてんこ盛りな、幕の内弁当みたいな作品だったね。シャーロック視点で考えると、「Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-」「Op.4 -犯人は二人-」以降はずっとダウナーだったから、「Op.2」が一番活劇していたかな。

鈴木勝吾

鈴木勝吾

平野良

平野良

鈴木 「Op.2」のシャーロック、めっちゃ探偵してましたよね!(笑) 走る! しゃべる! 変装する! 揉める! 歌う!みたいな。

平野 全部やろうとしてるじゃん!っていうくらい、やんちゃしまくってたね(笑)。

鈴木 「Op.2」のウィリアムは、言うなればディーバかな。モリミュシリーズでおなじみの劇中歌「I hope / I will」が初めて登場したのも「Op.2」だったし、音楽面で最もチャレンジングだったのが、実は「Op.2」だったんじゃないかと思うんです。加えてオペラの要素もあるから、壮大なミュージカルとして楽しむことができる作品だなって。個人的には、ウィリアムとシャーロックが列車の中で対峙する場面が印象に残っています。あの辺りで、シャーロックはウィリアムが“犯罪卿”なんじゃないかと気付き始めたけど、まだ半信半疑……という感じですよね?

平野 「そうだったら良いな」と思ってるぐらいかなあ。

鈴木 (「大英帝国の醜聞 Reprise」の台本をパラパラとめくりながら)多少構成の変更があるにせよ、やっぱりウィリアムは説明ゼリフが多いなあ! 説明ゼリフが多いシーンを演じるのは大変ではあるんですけど、一緒にお芝居をする俳優さんが感情の流れをしっかり作ってくれたら、そこまで苦労することはないですね。

左から平野良、鈴木勝吾。

左から平野良、鈴木勝吾。

心機一転、ゼロから立ち上げる“Reprise”

──「大英帝国の醜聞 Reprise」では、鈴木さんと平野さん以外のキャストが一新されます。アルバート・ジェームズ・モリアーティ役を廣瀬智紀さん、ルイス・ジェームズ・モリアーティ役を百名ヒロキさん、セバスチャン・モラン役を佐々木崇さん、フレッド・ポーロック役を横山賀三さんが務め、ジョン・H・ワトソン役で橋本真一さん、ミス・ハドソン役で能條愛未さん、マイクロフト・ホームズ役で伊藤裕一さん、アイリーン・アドラー役で彩凪翔さんが出演します。

鈴木 これまでのモリミュとはまた異なる、パラレルワールドのような位置付けの作品になると思うので、心機一転、ゼロからウィリアム像を作っていきたいですね。以前と同じイメージで演じると、自分だけ浮いてしまって、お芝居が成立しなくなってしまうかもしれないし、いつまでも元カノが忘れられない人みたいになっちゃうから(笑)。まずは俳優・鈴木勝吾としてフラットな感情で舞台に立ちたいなと。

左から平野良、鈴木勝吾。

左から平野良、鈴木勝吾。

平野 俺も勝吾くんと同じで、新たな作品として臨みたいと思っています。芝居でご一緒するのが初めてなのは、ちゃんとも(廣瀬)、佐々木くん、橋本くんかな。そのほかの皆さんとは共演していますね。マイクロフト役の伊藤さんとは何度もご一緒させてもらっているから、良い兄弟感が出せそう。何のためらいもなく「クソ兄貴!」って言える気がする(笑)。

鈴木 ウィリアムチームだとヒロキしか知らないので、僕にとってはすごく新鮮な座組ですね。ヒロキにとってルイスのような役は良い挑戦になると思います。

平野 今回、アンサンブルが半数は続投するんだね。ただ、振付が新しい方(広崎うらん)になる。モリミュの世界観を構築するうえで、“景色”を作るアンサンブルの方々は欠かせない存在だから、彼らのパフォーマンスがガラッと変わるということは、作品全体も違うテイストになるんじゃないかな。あと、女性キャスト2人のバトルも楽しみ! アイリーンは手の上で人を転がすのがうまいキャラクターだけど、翔ちゃんは「The いい子!」というイメージだから、翔ちゃんがどんなふうにアイリーンを立ち上げるのか、まだ想像がつかないところがある。能條は本当に面白い子だよ(笑)。アイドル時代、「可愛いね」って言われる数じゃなく、笑いを取った数を数えてたんだって。「よし! 今日は何個笑いを取ったわ!」って。

鈴木 ははは! 良いエピソードですね。僕は佐々木さんのモランがどうなるのかが特に気になります。これまでは井澤(勇貴)の“熱血漢モラン”と対峙してきたから(笑)。

平野 原作最新話のモラン、服を脱いだりして、なんとなく井澤っぽいところがあるなあと思いながら読んでたよ(笑)。もともとのモランは無骨でボケの役回りをするキャラクターだから、佐々木くんがどう演じるか楽しみだね。

左から平野良、鈴木勝吾。

左から平野良、鈴木勝吾。

鈴木 アルバート役の廣瀬くんとくぼひでさん(久保田秀敏)は性格が似てると聞いたんですが、良くんから見てもそうですか?

平野 そうだね。あの2人は雰囲気がよく似てる。くぼひでのほうが狂気を孕んだイメージで、ちゃんともは穏やかな感じかな。ジョン役の橋本くんはケンケンさん(鎌苅健太)と仲が良いみたいだから、もしかすると関西出身のポップなノリが似てるかもしれないね。そう言えば、今回の楽屋は静かそうだな。前はみんなで身体を鍛えたり、ゲームをしたり、大喜利をしたり……(笑)。

鈴木 ははは! 確かに(笑)。すごくにぎやかだったですもんね。

平野 でも、そのギャップも面白そうだよね。

平野良

平野良

鈴木勝吾

鈴木勝吾

“ベスト・ウィリアム”を目指して

──「大英帝国の醜聞 Reprise」には、これまで鈴木さんや平野さんと共にモリミュの世界観を作り上げてきた、脚本・演出の西森英行さん、音楽を手がけるただすけさん、ピアノとバイオリンの生演奏を担当する境田桃子さん、林周雅さんが引き続き参加します。

鈴木 桃ちゃん(境田)はめちゃくちゃタフになりましたよね。

平野 うん。シリーズの途中からピアノの音が明らかに変わって、力強い“桃色”になった感じがする。桃ちゃんと林くんは俺らのことを熟知してくれていて、本当にありがたいよね。「Op.3」「Op.4」「Op.5」を経て、「Op.2」のときよりもさらに、俺らキャストの歌声とピアノ・バイオリンの音色の親和性が高くなってると思う。

鈴木 「Op.2」が始動したときは、まだ「最後の事件」の結末も知らなかったし、キャストもスタッフもみんなどこへ向かえばいいか探っている段階でしたもんね。「Op.2」が終わった頃に音楽性の方向性が見えて、「Op.3」の頃にはかなりコンセンサスが取れた状態になっていたと思います。

──ご自身が演じるウィリアムやシャーロックのキャラクターをしっかりとつかめたのはいつ頃だったのでしょうか?

平野 それも「Op.2」が終わった頃かな。

鈴木 そうですね。ウィリアムに関して言うと、「Op.4」で少しいじったけど、「Op.3」が“ザッツ・ウィリアム”だった気がします。でも「Op.2」を経たからこそ、“ザッツ・ウィリアム”に至ることができました。今回の「大英帝国の醜聞 Reprise」では、“ベスト・ウィリアム”をお見せできると思います。

──「Op.2」がさらに進化した「大英帝国の醜聞 Reprise」を楽しみにされている観客の方に向けて、最後にメッセージをお願いします。

平野 「Op.2」が上演された2020年はちょうどコロナ禍で、いろいろな理由で来られなかった方がたくさんいたと思うんです。そんな方々にはぜひ今回の「大英帝国の醜聞 Reprise」を観てもらいたいですし、今までBlu-rayやDVDでしか観られなかった人たちも劇場に来てもらえたらうれしいですね。より一層良いものを作る気持ちで臨むので、ぜひ劇場へ遊びに来ていただければ。全公演満員御礼を目指します!

鈴木 モリミュは、肌で感じられるほどに、たくさんの方から愛していただいている作品だと思っていて。お客さんが熱狂の渦を作り出してくれたからこそ、僕たちキャスト・スタッフ一同、シリーズを続けてくることができました。「大英帝国の醜聞 Reprise」は新旧問わず、ファンの皆さんに愛される作品に仕上げたいですし、またここから新しい伝説を作っていきたい。皆さん、ぜひとも勇んで劇場に来てもらえたらうれしいなと思います。

左から平野良、鈴木勝吾。

左から平野良、鈴木勝吾。

プロフィール

鈴木勝吾(スズキショウゴ)

1989年、神奈川県生まれ。俳優。2009年に特撮ドラマ「侍戦隊シンケンジャー」のシンケングリーン / 谷千明役で俳優デビュー。近年の主な出演作に、Theatre Polyphonic 第7回公演「ミュージカル『翼の創世記』Genesis of Wings」、「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」シリーズ、「舞台『鋼の錬金術師』」シリーズ、初脚本・演出を手がけた「饗宴『世濁声~GOOD MORNING BEAUTIFUL MOUSE』」などがある。今後、「ミュージカル『東京リベンジャーズ』#2 Bloody Halloween」、ミュージカル「SPY×FAMILY」に出演予定。

平野良(ヒラノリョウ)

1984年、神奈川県生まれ。俳優。テレビドラマ「3年B組金八先生」(第5シリーズ)で映像デビュー。2008年に「ミュージカル『テニスの王子様』1stシーズン」に出演。近年の出演舞台に、舞台「文豪とアルケミスト」シリーズ、舞台「時をかけ・る~LOSER~」、舞台「黒蜥蜴」、舞台「羽州の狐」などがある。ミュージカル「インサイド・ウイリアム」に出演中で、ハジケ・る ポップコーン一座「『テイ・る オブ ナイトメア』~不思議の国の給仕係~」の公演を控えている。