ここでは、国際芸術祭「あいち2025」パフォーミングアーツ部門にラインナップされた9作品について、見どころなどを紹介する。オセアニア、アラブ、アジア、アフリカから集まった作品には、新作や日本初演も多く、多様な視点、身体、価値観と出会う場となりそうだ。
文 / 上條桂子(国際芸術祭「あいち2025」パフォーミングアーツコーディネーター)
バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ、バラリ、ハイカル、ジュルムッド「Enemy of the Sun(エネミー・オブ・ザ・サン)」
2025年9月13日(土)・14日(日)
愛知県 Live & Lounge Vio・CLUB MAGO
出演:バゼル・アッバス & ルアン・アブ=ラーメ、バラリ、ハイカル、ジュルムッド ほか
作品紹介
バゼル・アッバスとルアン・アブ=ラーメは、ニューヨークとパレスチナのラマッラを拠点に活動するアーティスト。消し去られ続ける危機にあるパレスチナの風景を撮影、再構成した新作パフォーマティブ・インスタレーションを名古屋のクラブ空間で展開。映像とパレスチナから招へいする3名のミュージシャンによるライブ・パフォーマンスが重なり合い、断絶された土地・コミュニティ・歴史が再び接続される。名古屋の鷲尾友公、RAZOR SHARP、狂欒が共同企画を行い、「Enemy of the Sun(エネミー・オブ・ザ・サン)」に呼応したゲストアーティストのDJ、パフォーマンスも同時開催。
(※バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメは現代美術展にも参加)
AKNプロジェクト「喜劇『人類館』」
2025年11月22日(土)~24日(月・振休)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
作:知念正真
演出:知念あかね、新垣七奈
出演:井上あすか、神田青、仲嶺雄作
作品紹介
劇作家・知念正真の代表作「人類館」(1976年初演、岸田國士戯曲賞受賞)を、娘の知念あかねが2020年に立ち上げたAKNプロジェクトにより、3度目のリ・クリエーションに挑戦。戯曲を“喜劇”として捉え直すことで、強さと弱さ、無関心と苦しみ、ゲートの内と外、国家の中心と周縁といった、沖縄・日本・アメリカを巡って今も続く歴史に“ドンデン返し”を試みる。
ブラック・グレース「Paradise Rumour(パラダイス・ルーモア)」
2025年9月13日(土)~15日(月・祝)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
演出・振付:ニール・イェレミア ONZM(ブラック・グレース芸術監督)
作曲:ファイウム・マシュー・サラプ(アノニユーズ)
作品紹介
サモアなどの太平洋の島々や、アオテアロア / ニュージーランドの先住民であるマオリなどにルーツを持つメンバーで構成されたダンスカンパニー。彼らが扱うのは、太平洋の島々の楽園としてのイメージの裏にある、差別や偏見にさらされる移民コミュニティの歴史だ。彼らが辿った道のりを「希望と抵抗」「悲しみと受容」「抑圧と解放」「信仰と危機」を象徴する4人のダンサーたちが躍動感あふれる力強い動きで表現する。
クォン・ビョンジュン「ゆっくり話して、そうすれば歌になるよ」
2025年9月13日(土)~21日(日)
10月25日(土)~11月9日(日)
愛知県 愛知県陶磁美術館 芝生広場
演出:クォン・ビョンジュン
音響・アシスタント:ユン・スヒ
ボイスパフォーマンス:金仁淑(キム・インスク)、ジョン・フランシス・キンズラー、ナンシー・エリザベス・キム
作品紹介
3Dオーディオシステムの先駆者として知られるクォン・ビョンジュンによる没入型サウンドインスタレーション。観客がヘッドフォンを装着し、愛知県陶磁美術館の広大な芝生広場を歩き回ると、瀬戸の土、水、火、植生、まちや人々から採集した音で構成する仮想世界が自然の風景と重なり、音の野外彫刻が立ち上がる。精密なGPSと立体音響技術により、現実と仮想の境界が揺らぐ特別な体験を提供する。
フォスタン・リニエクラ「My body, my archive(マイ ボディ・マイ アーカイブ)」
2025年11月28日(金)~30日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
振付・ダンス:フォスタン・リニエクラ
音楽(トランペット):ヘル・シャバカ=ラ
彫刻:グバガ
作品紹介
“身体”を生きたアーカイブと捉え、歴史の暴力性とそれが個人や共同体の記憶に与える影響を問いかけるコンゴ民主共和国出身の振付家・演出家・ダンサー。かつてコンゴの人々が記憶を託した仮面や彫刻、歌、物語は、植民地主義により破壊され、散逸してしまった。本作では征服者によって築かれた記録に抵抗し、断片化された歴史と記憶を繋ぎ直すことで、身体によるアーカイブの再構築を試みる。
マユンキキ+「クㇱテ」
2025年10月3日(金)~5日(日)
愛知県 瀬戸蔵つばきホール
10月12日(日)・13日(月・祝)
愛知県 愛知県芸術劇場 大リハーサル室
出演:アペトゥンペ(レㇰポ、マユンキキ)、西瓜兄妹(廣瀬拓音、マユンキキ)、hoshifune(小谷野哲郎、わたなべなおか)、マチュメ・ザンゴ、佐藤直子、WHITELIGHT、山田大揮
作品紹介
マユンキキがこれまで共演・共作を行なってきたミュージシャンや影絵ユニットとともに、奥三河の天竜川流域や北海道石狩川上流域でのリサーチを重ねた本作。タイトル「クㇱテ」とはアイヌ語で「(場所に)~を通らせる」という意味の他動詞。出演者であるマユンキキとレㇰポの祖父であり、日本の鉄道敷設史上最大の難所の一つと言われた奥三河の三信鉄道(現JR 飯田線)の開通に大きな功績を残した測量士、そして旭川アイヌのリーダーである川村カ子トの軌跡をたぐり寄せながら創作する。
(※マユンキキは現代美術展にも参加)
オル太「Eternal Labor(エターナル・レイバー)」
2025年10月10日(金)~19日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
脚本:メグ忍者
演出:Jang-Chi
出演:安藤朋子、鄭亜美、三ヶ尻敬悟、太田恵以、井上徹、斉藤隆文、
メグ忍者
作品紹介
近代から現代へとつながるイデオロギーの問いを追究し続けるオル太による最新作として、展示とパフォーマンスを発表。日本列島から朝鮮半島にいたるリサーチを経て、大日本帝国時代と現代の分断・連続性、経済発展の裏で行われた搾取と労働を、現代女性の身体と重ねながら描き出す。見世物化された女性、妊娠できる身体、性差別と権力構造など社会に潜む問題を軸に、展示と公演の両面を通して、オル太ならではの時空を越える重層的な視点とユーモアで、無意味な労働や消費的な生の根底に迫る。
セルマ & ソフィアン・ウィスィ「Bird(バード)」
2025年11月14日(金)~16日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
演出:セルマ & ソフィアン・ウィスィ
出演:ソフィアン・ウィスィ、ジヘッド・クミリ、鳩
作品紹介
振付や映像、インスタレーションなど多様な方法で身体や記憶、社会的関係性をテーマにした作品を発表する兄妹ユニットが、廃墟となった元映画館を棲み処とする鳩との出会いから着想を得た作品。舞台上では、ダンサーと鳩が共演者として、互いの存在を尊重しながら身体による予測不能な対話を紡ぐ。その詩的で繊細な表現は、世界各地で「共に生きること」の本質を問い直し、人間中心の視点を超え、偶発的で不確かな存在との新たな関係を切り開く。
(※セルマ & ソフィアン・ウィスィは現代美術展にも参加)
態変「BRAIN(ブレイン)」
2025年9月26日(金)~28日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール
作・演出:金滿里
システムアーキテクト:時里充
出演:金滿里、小泉ゆうすけ、下村雅哉、渡辺綾乃、井尻和美、池田勇人、向井望、山崎ゆき
作品紹介
金滿里率いる態変の表現は、地面に這いつくばる圧倒的な存在感の身体によって、観る者の美意識や価値観を強く揺さぶる。今回のテーマは「脳」。コラボレーターにメディア技術を用いた作品を制作する時里充を迎え、人工知能(AI)が生活の隅々にまで影響を及ぼしつつある近年に応答し、脳による制御から外れる彼らの身体で、脳と身体のねじれた関係を考察する。いかに私たちの存在(生命)への尊厳は保たれるのか―態変が社会に問う挑戦的新作。