コントグループ・
年末から年始にかけて、気持ちがどんよりしがちだったという神谷の心を救ったのは、プラ板作りだった。自身が敬愛する鳥山明のマンガ「ドラゴンボール」のトレスに始まり、海外で見つけた看板の写し絵まで、さまざまなプラ板を量産。今回のコラムでは、神谷が発足させたプラ板倶楽部の活動内容と、年末年始に制作したプラ板の数々を紹介する。
ロゴデザイン:神谷圭介
お餅を食べなかったお正月
画餅というプロジェクトを主宰している神谷圭介と申します。にもかかわらずお正月だというのにお餅は食べませんでした。お餅は食べ物として好きなわけではなく言葉の響きが好きなのです。頭に丁寧に「お」をつけられ有り難がられている感じも好きです。
お餅は実に「お」が似合う食べ物です。
これが中東の人気屋台フードのケバブならどうでしょう。「おケバブ」です。似合いません。今やどの街にもあるケバブ屋ですがケバブに「お」は全く似合いません。
ある殺し屋が組織に追われ殺されるも、前世の記憶を持ったまま赤ちゃんに生まれ変わる。そんな人生2周目ハードボイルド赤ちゃんを主人公にしたアニメがあったとします。ひょんなことから銀行強盗に巻き込まれる母親と赤ん坊。銃を突きつけられた母親。ベビーカーにいたはずの赤ん坊の姿がありません。いつの間にか強盗の背後からすっと忍び寄り喉仏にナイフを突きつける赤ん坊。予期せぬ事態に唾も飲み込めず硬直する強盗。眼光の鋭い赤ん坊が強盗の耳元で囁きます。
「おケバブ」
言われるままに銃を床に置く強盗。すぐさま警備員たちに取り押さえられます。
ナイフかと思っていたものは赤ん坊のおしゃぶり。前世殺し屋の放つとんでもない殺気が、おしゃぶりの先端をまるでナイフのように鋭利な物に感じさせていたのでした。多分これが第1話です。
ケバブに「お」をつけるとこういう妄想をするほかなくなります。それもまた画餅です。
最高に画餅な趣味
お正月はずっと家にいました。
昨年末あたりから気持ちがずっとどんよりしています。年が明けても世界は理不尽な暴力に溢れています。おぞましい社会の歪みが次々と露わにされ、ただただ心がどす黒くなるような日々が続いています。そのうえ風邪をひいて寝込むことで一気にどんよりとしてしまいました。そんなずっと家に篭っている中、私が何をしていたのか発表させてください。
プラ板作りです。
プラ板と言われてピンとこない方。あれです。プラ板に絵を描いてオーブントースターの熱でグニャっと小さくするやつです。小学生の頃に誰もが経験してるのではないでしょうか。
今これが楽しくて仕方ありません。きっかけは鳥山明先生の訃報からでした。
昨年、鳥山明先生の悲報を聞いてから「ドラゴンボール」のアニメを1話目から見返していました。小学生の頃の記憶が蘇ります。勢いそのままにコミックを購入。あらためて鳥山明先生の描くキャラのポップさとデザインされた作画に心踊らされました。
思い返せば、自分達が小学生の頃は「ドラゴンボール」の写し絵をすることが能動的に絵を描くきっかけだったように思います。
ここです。ここであのプラ板です。透明のプラ板を漫画の上に置き、鳥山明先生の絵をそのままなぞるのです。絵の得意不得手は関係ありません。鳥山明先生が描いた線をしっかりなぞるだけで見事なイラストが出来上がることが約束されています。素晴らしいイラストを自分の手で完成させたような充実感を得られると同時に改めて「鳥山明、絵うめ~」と先生をめいいっぱい敬服できるのです。
プラ板作りに没頭しているとどす黒くなっていた心が救われます。プラ板作りを大人が本気でやってみることはとても良い趣味になると思いました。
私はひたすらにプラ板作品を作り続けました。
アクリルスタンドがグッズとして当たり前になっている昨今、これはまさに手作りアクスタとしてとても愛着が持てます。キーホルダーにもできます。
線だけではなく色も塗ります。
昔のアニメのセル画のように、線を描いた表ではなく裏面から着彩するようにしました。そのアナログ感も楽しめます。透明の透け感をどう残すかも重要です。またフルカラーで塗るのではなく、色数を絞るのもお薦めです。「週刊少年ジャンプ」の巻頭カラー2色刷りのように色を絞ります。線の黒と黒ベタ+2色か3色にしても楽しいです。
描いたプラ板にオーブントースターで熱を加えると1/4ほどの大きさに縮小され、描いたイラストがぎゅっと濃縮され厚みのあるプラ板が完成します。これが堪りません。
何より絵を写しているだけなので創作の苦しみは一切ありません。ただただ楽しい。創作の苦しみはないのに、何か作ったかのような気分だけが味わえる。ついに完全なる趣味を見つけてしまいました。これは最高に画餅です。
プラ板倶楽部の活動内容
最初は鳥山明先生のキャラクターを抜き出して描いていましたが、そのうち漫画の1シーンをそのままプラ板に収めたくなりました。
そして、主要キャラの居ない風景描写のページを描くようになりました。コマ割りされた1ページをそのままプラ板にします。例えば、雨が降る中、観客たちがざわざわと行き交う天下一武道会の会場の前。3年ぶりに再会する仲間たちが集合する直前のシーンです。この風景にこれから始まる激闘に期待感をふくらませるのです(このあと身体が大きく成長した悟空が現れ当時の全国の子どもたちの度肝を抜きます)。
待ち合わせの時間にいるのは亀仙人とランチさん。いつもの装いではなく他所行きのスーツで決めています。そこにタクシーが停まります。降りてきたのはヘアスタイルも変わり少し大人びたブルマ。
徐々に仲間たちが集まる場面。そんなシーンをあえて吹き出しは描かず、サイレントなシーンとしてプラ板にします。バトル漫画のバトル要素がない叙情的なシーンを切り取るのです。好きだった漫画の好きなシーンを好きなように切り取ることもできる。プラ板倶楽部の可能性を感じます。急にプラ板倶楽部と言い始めましたがもう倶楽部活動としてやっていきたいと思っています。
「ドラゴンボール」のプラ板をお見せしたいところですが権利関係上写真を掲載できません。これも完全なる趣味らしいところです。見たいひとは声をかけて下さい。見せたいです。
大人のプラ板作り「おプラ」
そして、ここでもお見せ出来るものを描いてみようと思い始めてみたのが、看板の写し絵プラ板です。
以前から自分が写真に収めがちなものの1つに看板があります。渡航先の文化圏で目にした気になる看板や文字やマークの写真をよく撮っていました。特に自分は透明なガラスなどに印字されている文字が好きでした。それを再現するのにプラ板はとても合っています。熱で縮小したプラ板は、透明感や表面の凹凸に若干のムラがあります。それはまるで昔のガラス窓のようで、そこもヴィンテージ感があって素敵です。業者に発注したアクスタとは違う味が出て、とことんアナログなことをやっているなという気持ちになります。厚みがあるので少し角度を変えると、表面と裏面の色面がズレて見え、昔の印刷物の版ズレのようなものが立体的に楽しめます。
街で見つけたレトロな看板をキーホルダーにすること。これに挑戦してみて、プラ板倶楽部の新たな可能性を感じました。
スリランカの廃墟みたいなホットスナック屋さんのガラスに印字された店名なのかメニューなのかわからない文字。見慣れたロゴだけど文字に馴染みのないファストフード店の看板。台湾のマッサージ屋さんの足つぼや、獣医さんの看板。スマートフォン以前の携帯電話禁止のマーク、夜の露店街の看板などをプラ板にしてみました。
不完全燃焼であった看板の写真集めも、最終的にプラ板にすることで実物としてコレクションすることができますし、キーホルダーにしたミニチュア感も可愛らしいです。どす黒く沈んでいた心が、このプラ板作りのおかげでかなり救われました。
やるほどに、次はもっとこうしてみようというアイデアも湧いてきます。
頭に「お」をつけて「おプラ」と呼び有り難がたがりたい気持ちです。
「おプラ」は大人のプラ板作りの略称のようにも思えて良いかもしれません。
なんの役にも立たない物が増えていきますが、えも言われぬ充実感があります。これこそが完全なる趣味であり、それもまた画餅です。
神谷圭介 プロフィール
千葉県生まれ。コントグループ・テニスコートのメンバーで、ソロプロジェクト・画餅の主宰。玉田企画、ブルー&スカイ、犬飼勝哉、東葛スポーツの作品や、NHK大河ドラマ「青天を衝け」などに俳優として出演するほか、マレビトの会の「福島を上演する」に作家として参加。ダウ90000の蓮見翔を作・演出に迎えた公演「夜衝」を玉田企画の玉田真也と共同企画した。
東京・アップリンク吉祥寺で開催される「MOOSIC LAB 2025(YASSA MOSSA)」で画餅「ウィークエンド」が上映され、1月27日の舞台挨拶には神谷とレ・ロマネスクのTOBI、31日の舞台挨拶には神谷、東宮綾音、生実慧が登壇する。また3月には、
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神谷圭介(テニスコート/画餅) @kamiya_keisuke
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