「ふるあめりかに袖はぬらさじ」は、有吉佐和子が1972年に発表した戯曲。劇中では、尊王攘夷派と開国派がしのぎを削る幕末を舞台に、神奈川・横浜の遊郭を舞台にした物語が展開する。芸者・お園の旧知の仲である花魁・亀遊は、通訳の藤吉と恋仲だったが、アメリカ人との身請け話が決まってしまう。自身の恋が成就しないことを嘆いた亀遊は自害するが、その死は“異人に身体を許すならば自ら命を絶つことを選んだ攘夷女郎”と、異なる事実で尊王攘夷派からもてはやされ……。
今回大竹は、文学座での初演では杉村春子が演じ、また坂東玉三郎や水谷八重子らも演じてきたお園役に初めて挑む。さらに通訳として働く実直な青年・藤吉役に
製作発表記者会見には、齋藤、大竹、薮、美村、そして風間が出席。齋藤は本作を「社会批判的な内容を含みながら、善悪定まらない人間の深いところを描いている、名作中の名作」だと言う。齋藤は「女たちが色と芸で男たちを喜ばせる遊郭という建物の中で、登場人物たちは、みんな生き延びるために精一杯なんですね。そして彼らを追い詰めているものは、結局“男社会”。その構造自体は、幕末でも現代でもほとんど変わっていないので、この作品は現代社会を鏡のように映し出してくれるのでは」と期待を寄せ、「“時代劇”として構えすぎずに、若い方々にも観に来てほしいですね」と来場を呼びかけた。
大竹は、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」には出演が決まってから初めて触れたと話し「戯曲を読み、玉三郎さんが歌舞伎座でおやりになられていた公演を拝見しましたが、笑って泣いて考えさせられる、すごい作品だなと」と魅力を語る。さらに「芸者を演じるのは今回が初めて。三味線に初めて挑戦していますが、それも楽しくって。共演に『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に出演経験のある新派の方々がたくさんいらっしゃるのですが、皆さんが三味線だけでなく、所作や歩き方も教えてくださるんです。いろんな“先生”がいらして、稽古場に行くのがとても楽しい」と笑顔を見せた。
風間は「この作品では、恋に傷ついて自死した花魁の死を、美談に仕立て上げて利用してしまう人々の姿が描かれますが、私が演じる岩亀楼主人はその筆頭となる人。時代に流されていく商人の役です。口先から生まれたようなところは、私にぴったりな役ですね(笑)」とちゃめっ気たっぷりに話し、周囲の笑いを誘う。大竹については「普段はダラダラしているのに(笑)、いざ稽古に入るとガラッと変わる。しのぶちゃん、もうセリフが入っているんですよ」と明かす。これに報道陣が驚きの声を上げると、大竹ははにかみながら「良い戯曲だと、(セリフは)すぐに入りますね。ただ、お園さんの言葉には『ござんすよ』とか『おくんなまし』といった江戸弁が混じっているので、そういったところは覚えるのが難しい。記憶力でカバーしています」と述べた。
薮は、大竹の印象を「今回共演するのが初めてなのですが、見ての通り物腰が柔らかくて。『薮くんも今回初めてこの作品に挑戦するんだよね』と、同じ目線でいてくださるのがありがたかったです。ただいざ稽古が始まると、お園の膨大な量のセリフを台本を持たずに話されていて。稽古を通して勉強させていただきたい」と絶賛。美村は「映像では2回ほどご一緒させていただいたことがあるのですが、まさか舞台で大竹さんとご一緒させていただけるとは思っていませんでした。お園さんと亀遊さんが仲の良いシーンでは、私が大竹さんを慕う気持ちと重なって。そのシーンの間、とってもニコニコしてしまいます」と微笑んだ。
ここで話題は、前日に行われた稽古の様子に。薮は「亀遊の身請けが決まってしまうシーンで、(美村演じる)亀遊さんが、寂しさだけではなく、怒りも混じったような目で僕を見つめてきて……。そのシーンの間、藤吉の気持ちが僕の中にうずまいて、稽古が終わったあと、その場でクラクラしてしまいました。こんな状態になったのは初めてで、自分の知らない自分を発見した気持ち」と明かす。これに大竹は「今の話を聞いて、いいぞって思いました。もっとクラクラしちゃえ!(笑)」と薮に温かい視線を送った。
公演は9月2日から26日まで、東京・新橋演舞場で行われる。
新橋演舞場9月公演「ふるあめりかに袖はぬらさじ」
2023年9月2日(土)~26日(火)
東京都 新橋演舞場
作:有吉佐和子
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