2022年5月にスタートした笑福亭鶴瓶の「無学 鶴の間」(U-NEXT)は、大阪・帝塚山にある寄席小屋「無学」を舞台にした配信番組。毎回、シークレットゲストと鶴瓶がトークを展開している。お笑いナタリーではその第1回から、配信後に番組の様子をオフィシャルレポートとして掲載中。ゲストの魅力を引き出す鶴瓶の話術を楽しんでほしい。
文(レポート) / 川口美保
「無学 鶴の間」第29回レポート
「無学 鶴の間」
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コカドの実家、「無学」から歩いて5分
「誰が来るか皆さん知らないでしょう? 今日はコントです。これからコントを見せつけられるんです。ふふふ。まさか家から出てくるときにコント見せられると思ってないですよね?」
鶴瓶のその言い方に会場から笑いが起きた。と同時に、今日のゲストがコント師であることを察した観客は、その後に続いた「ご紹介します、ロッチの2人です」という鶴瓶の言葉に歓声を上げた。大きな拍手の中をうれしそうにコカドケンタロウと中岡創一が登場する。「うわ! 大歓迎」とほころぶ2人の顔に、「すごいやん! 俺、もっと沈むんかと思った」と鶴瓶がうそぶく。
しかもこの「無学」は「シークレットゲスト」が基本。だからこそ観客は期待して待っているわけだが、コカドは第一声で、「ちらっと中岡くん言っちゃいましたけどね」と言い始める。「でも知らないですよね?」と確かめるも、観客が1人、手を挙げた。
「あ、知ってた!」とコカド。「あ、ごめんなさい!」と咄嗟に中岡が謝った。
訊けば、毎週月曜日の夜に生配信しているYouTube番組「ロッチナイト」でのこと。
「僕ら、終わりに、今週はこんな番組出ます、と発表するんですよ。そしたら、中岡くん、なんか知らんけど、『あ、無学は? え、言っていいんやったっけ?』とか言い出して」とコカドが暴露。
それを聞いた鶴瓶、ニヤニヤと笑いながら中岡に詰め寄り、胸ぐらを掴んで頬を叩くような素振り。
「暴力や! ヤバイ!」と中岡が助けを求める叫びに、コカドが「この時代に暴力!」と間に入ると、中岡、「すぐ電話してください!」。もうそれ自体がコントのような展開で、観客は大笑い。
鶴瓶 アホか、お前。え!? YouTubeで言うほうが暴力やわ。
中岡 すんませんすんません(笑)。
鶴瓶 誰が来るのかわからないのがこの人ら(観客)の楽しみや。それが、「え? ロッチ!?」ってなるやろ。
中岡 (笑)。でもそれをわかって応募してくださったんですか?
観客 はい。
鶴瓶 え、わかったのに応募したん?
観客 はい。
鶴瓶 アホちゃうか!
コカド え、アホちゃうよ!
鶴瓶 ワハハ! でもコカドなんか、ものすごいラクやで、ここ来るの。家、そこやもん。
コカド そうそう、僕、今は住んでないですけど、実家がそこで。
鶴瓶 母さん、いてはるやろ。そこに。
コカド はい。ほんま歩いて5分で着きました(笑)。
コカドはここ「無学」がある大阪市住吉区の出身。鶴瓶が修業時代に住んでいたアパートからも近いと、しばしご近所話に花が咲く。
「このへんに住んでいる人も多いんですか?」と観客に訊ねるも、近所の人はいない。では、なぜ「無学」に来たか、一番前に親子で座っていた中学生男子に話を聞くと、「落語好き」で、母親と一緒に鶴瓶の落語にも行っているという。
「うれしいなあ、この年で落語好きなんて」と鶴瓶。そして唐突に、ロッチの2人に向かって、「俺、落語やで」。
中岡が「いや、わかってますよ」と返すも、鶴瓶、「いまだに一般の人からは落語してるの?と言われる」そうだ。
テレビやラジオのレギュラーだけでなく映画にも出演するなど、多忙な鶴瓶だが、今年はすでに約200回以上高座に登り、700席ほど落語をかけている。その精力的な活動に、ロッチの2人もあらためて驚嘆。一方、鶴瓶も、ロッチの活躍はうれしいようで、以前、ロッチが「無学の会」に出演した2011年のことを振り返る。
「『爆笑レッドシアター』とか出させてもらっていた頃です」とコカド。テレビにも出始めていたが、それでも今ほど世間に知られてはいなかった時期。「だから前回はあんな拍手なかったですもん(笑)。ちょっとだけ、お客さん、ハズレ回や、みたいな感じだった」と中岡が笑う。それが今、「見てみいな、ウワーッていうこの大歓声!」と、「無学」を長く続けてきたからこそ、こうして、より人気者になった彼らを、再びここに呼べることは、鶴瓶の誇りでもあるのだろう。
その流れも踏まえ、よかれと思って、鶴瓶、落語好きという中学生に、「コントも好きやんな?」と訊く。しかしその中学生は頭を捻って言葉に窮している。その姿に、「正直者やなあ!」とロッチの2人。
中岡 (中学生に向かって)コント嫌い?
中学生 観たことない。
コカド え! 観たことないの?
中学生 生では。
コカド あ、生でか。じゃあ今日、我々のコント観て、コントが好きかどうか決まるってことね。
中岡 責任重大やで。
鶴瓶 落語は想像の世界やんか。ここらのコントは、不思議なコントしよんねんな。不思議というか、そこ来るか!という。
中岡 クスクスってくるような感じ。
鶴瓶 (中岡を見て)お前、ネタ作ってないやんな?
中岡 作ってないほうなんで(笑)。
鶴瓶 そこイジんの?っていうのがオモロいねん。
中岡 僕もそう思ってます。一緒ですね。
コカド (中岡に)何、共感してんのよ。今からコントやるから、どんどん緊張してきましたわ。
鶴瓶 この子がこれからコントを観てくれるかどうか。
コカド コントのすべてを背負ってるってことですからね。
鶴瓶 これから落語にそのまま来てくれるか。
中岡 コントのほうに来るか。
鶴瓶 お前(中学生)がコントのほうに行ったら、俺もコントするわ。
コカド なんで? なんで? まだいろいろやるの? いや、もうそんな時間ないですよ。
鶴瓶 どういうことや、ひどいこと言う。時間ないって!
コカド そういう意味じゃない、そういう意味じゃない! さっきの話の流れ!
鶴瓶 泣きそうなるわ!
中岡のリクエストでコカドがいろんなコントを作ってくれる
そして1本目のコント「ハワイアンショップ」を披露。コカドがオーナーのハワイアンショップに、フラダンスの発表会用に新しいレイを買いに来た中岡。試しにレイを首にかけて、1つひとつその揺れを確かめるため、鏡を見ながら踊っていく。しかもなかなか本格的な腰の動きと振り付けなのだ。しかし、優雅に踊っているのは「中岡」である。見れば見るほどに面白く、レイを取っ替え引っ替え、何度もしつこく踊り続ける気持ち悪さに、じわじわ笑いが込み上げてくる。
終わったあと、鶴瓶、ニヤニヤ笑いながら登場。中学生も、初めて生で見たコントは「面白かった」ようで、その感想を聞いて、2人もほっとした様子。
中岡 作ってくれたんですよ、このネタ。僕がフラダンスを習っていたんで。
コカド 福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズで習ってきた、って言って。
鶴瓶 ああ、ハワイアンの人いてはるよね。
中岡 その人たちが教えてくれる体験コースみたいなのに3回ぐらい行ったんです。
鶴瓶 番組で?
中岡 違う。プライベートで。
鶴瓶 ちょっと待って。そのほうが気持ち悪いわ。わざわざいわきまで行って?
中岡 特技がほしくて。フラダンスええんちゃうか思って体験コース行かしてもらったから、「コカドくん、フラでコント作ってくれ」って言ったら、このコントができました。
鶴瓶 すごいな、この動きでコント(笑)。
コカド 動きを見てるだけでも面白いから。
鶴瓶 オモロいな、それは。お前(中岡)も何か降りたの? ほんまに霊が降りたんちゃうか。
コカド レイだけに。
観客 おお!
コカド 「おお!」ちゃうねん。
中岡曰く、コカドに注文したら、いろんなコントを作ってくれるという。ロッチの代表的なコントのひとつ「試着室」も、中岡の注文から生まれたネタだった。通常、単独ライブは、10本ほどのネタを披露する。しかし中岡は、結成1年目にして、「俺、セリフ、ある一定の量超えたらもう覚えられへん。それはわかってくれ!」とコカドに訴えた。それを受けて、コカドは、手紙や作文を読むだけで成立するネタなど、中岡がセリフを覚えなくてもできるコントを作り始めたというのだ。
感心して鶴瓶「だったらできるやろうな」と言うと、コカド「いや、できないんです。手紙持った手、ブルブルブルブル震えてるんです。こんな手震えてたらウケへんって。ほんで、手紙読んだら、同じ行とか読むんですよ。読むこともできへんかった」と振り返る。鶴瓶も中岡のダメぶりに苦笑い。中岡は自分で可笑しそうに笑っている。
しかしそうしていくうちに、「僕がお尻出すだけで成立するコントを作ってくれたんですよ」と、「試着室」が生まれ、これが「キングオブコント」で大きな評価を受けることとなったというのだ。
「だから僕のおかげでもあるんです」。
そう言いながら、また自分で大爆笑。
コカド、ミシンに夢中「2年半ずーっとやってる」
そして話題は、コカドが最近夢中になっているミシンの話へ。
しかしなぜ「ミシン」なのか。コカドがその経緯を鶴瓶に話し始める。あるロケ番組で、アイドルと仕事をしていたとき、そのアイドルの追っかけの人たちと会う機会があった。
「他人の目を気にせず、熱狂的にその子を応援する、その夢中な感じを見て、人生がなんか豊かやなと僕は思ったんですよ」
鶴瓶も「おお、おお」と真剣に聞いている。コカドは続ける。
「人生に張りがあるというかね。僕はお笑いは夢叶って満足してるけど、毎日こんなふうに夢中になれるといいなと思って、夢中になれることを探し始めたんですよ」
ゴルフ、料理、ギターといろいろ試し、どれも楽しいが、それほどには夢中になれず、そういう中で辿り着いたのが「ミシン」だった。もともと洋服が好きで、もの作るのが好き、機械も好きというコカド。中古で買ったミシンで、布の端切れをダダダと縫った瞬間、「これや!と思った」のだ、と。
コカド そこから2年半、ずーっとやってるんです、僕。
鶴瓶 え!? (中岡のほうを向いて)お前、それ知ってんの?
中岡 はい。あの、コカドくん、ミシンの話なったらあんまオモロなくなるんですよ。
鶴瓶 ワハハ!
中岡 師匠、コカドくんの話聞きながら、どこにオチあんのやろってずっと探ってたでしょ? でも、ミシンのことになったらお笑い忘れちゃうんですよ。
コカド 僕ね、ミシンじゃボケないから。
中岡 いや、ほんまに困るんですよ。
コカド ミシンじゃボケない!
中岡 ここはお笑いの場所やから、コカドくん。
鶴瓶 (コカドを指差し)目おかしなってるもん(笑)。
中岡 (鶴瓶に)長い間、オチあるのかな、と思ったら、ないでしょ?
鶴瓶 フフフ(苦笑)。
コカド そんな、オチとかいいねん。面白いにもいろんな種類があるから。笑い声があるだけが面白いじゃないですからね。
朝からミシン作業をはじめ、気づいたら暗くなっていることもしばしば。最初はバッグを作り、今は洋服も数多く制作していて、この日、履いてきたパンツも自分で作ったものだと披露する。中岡が骨折したときは、ギブスのカバーを作ってくれたそうだ。
中岡の頭髪事情「伸びる前に抜ける」
鶴瓶 すごいな。お前、そうやってひとつのことに入り込むんやな。
コカド だから夢中になるものを探した、ということですね。
鶴瓶 (中岡に)お前はそういうのないんか?
中岡 僕はお笑いに夢中なんで。
鶴瓶 ネタ書いてない、セリフ覚えられない、で、何が夢中やねん(笑)。
中岡 「イッテQ」という番組もそうですけど、一生懸命やるだけで、知らんうちに笑いになってるところがあるんです。
鶴瓶 ああ、それはあるよな。
中岡 だから「素材」として。
鶴瓶 それはわかるけれども、お前、キューティクルがないで。
コカド 急に!
鶴瓶 お前(コカド)、散髪にも興味持ったれや、こいつの。
中岡 美容師さんが、「中岡くん、もう前髪伸びてないよ」って言うんですよ。
コカド え?
中岡 抜けるねんって。伸びる前に抜ける。だから前髪がもう伸びないよって言われた。
コカド え、陰毛のやつやん、それ。伸びる前に抜けるって。
鶴瓶 ワハハ! でもお前らまだええわ。俺、週1回散髪行ってるけど。
コカド え、週1!?
鶴瓶 何が情けないかというと、切ったあとに床に落ちた毛が、チョボ髭みたいや。
コカド ワハハ!
鶴瓶 係の人が後頭部も鏡見せはるねん。「どうですか?」って。ハゲしか見えへん(笑)。
しかし中岡の髪の毛事情、本人にとっては深刻な問題。「どうしたらいいんですかね」と言うと、鶴瓶「もうそのままでええねん。だんだん抜けていくことを楽しんだらええやん」とアドバイス。
「行く末は、もう、はるかかなた師匠しか見えないですもん」と中岡は言うも、実はこの髪型もメガネの形もコカドのプロデュースなのだという。存在としての中岡のポテンシャルの高さを見い出していたコカドは、髪の毛を伸ばさせ、今の形のメガネをかけさせた。実際、その形格好がウケ、さらに中岡のリアクション芸にもますます磨きがかかり、水の中に入ったり、風に吹かれたり、動物と戯れたり、裸になったり、そういう役割はもっぱら中岡が担当しているわけだが……。
ドッキリを本当に嫌がるから面白い
鶴瓶 でもお前(コカド)は、そっちには行かへんやんか。自分は自分の形を持ってるからな。
コカド でも最近、ドッキリちょこちょこかけられるんですよ。
鶴瓶 どんなドッキリかけられるの?
コカド 普通に、子供に股間に水鉄砲かけられたりするんですよ。僕、「イヤや」って言って、毎回「やらない! NGや!」って言い続けているのに、めっちゃやられるんです。
鶴瓶 なんでやねん。リアクションがオモロいの?
中岡 リアクションをせえへんことが面白いみたいなことになってるんですよ。
コカド (本当にイヤそうな顔で)「ほんまにイヤやからやめて」って言うてるんですよ。
中岡 これ(このイヤそうな顔)がみんなオモロいって言ってる(笑)。
コカド めちゃめちゃドッキリかけてくる。
中岡 ヒハハハ。
鶴瓶 それはオモロいな。ほんまにイヤやねんから。
コカド 「ほんまにイヤや」って言ってるんですよ。「ほんまにイヤや」って言うたびに、ニヤニヤして近づいてくるんですよ。
鶴瓶 ふふふ。
コカド ほんまにイヤなんですよ。日々の生活でこれもしかしてって思うのがイヤなんですよ。わかるでしょ? イヤでしょ? どこか食べ物屋に行って、店の扉開けて、「ここ何かあるんじゃないか」って思うの、イヤでしょ? だから俺、イヤや!って言ってるんですよ。
鶴瓶 ウハハハハ!
中岡 ウハハハハ!
鶴瓶 めっちゃオモロいな。「イヤや」って言うの(笑)。
中岡 めっちゃオモロくなってくるんですよ。イヤやイヤやって言うのが。
鶴瓶 だからお前はもうほかが見えなくなるくらい夢中になるタイプやからね。ミシンもそうやんか。ミシンの話、すごいやんか。中岡もこの話、聞いてるのか?
中岡 はい、この笑いの少ない話、5、6回聞いてます、僕。
コカド 笑いなんかいらんのや! なんでミシンの話に笑いを求めんのよ!
サーフィンやフィールドホッケーの話も真剣
さらに中岡、鶴瓶に「師匠、ミシンだけやったらいいんですけど、サーフィンも同じようなことになっているんですよ」と言いつける。コカドがサーフィンの話を始めると、「また笑いの薄い話始める!」と中岡が警告。鶴瓶もコカドの話を聞きつつも、コカドに見えないように、観客に向かい、手で「ごめん」と謝るジェスチャー。
それでもコカドは一度話し出すと止まらない。その真剣さに、鶴瓶、たまらず、中岡のほうを振り返ってニヤリ。その顔に、中岡がブフヮッと笑い出した。
コカド 何してんのよ! 俺がサーフィンの話してんのに。どうしたんですか。誰が悪いの、これ。
中岡 お前やろ。どう考えても!
コカド なんで俺が悪いんよ!
鶴瓶 悪ない、悪ない。
コカド だってさ! (鶴瓶に)本気で聞く目じゃなかった! さっきのミシンは本気で聞いてくれたけど、今度は上の空で。
鶴瓶 こいつ(中岡)がいらんこと言うたんや。「ここから笑いのない話になるよ」って言うたから、えっ!と思ったんよ。
コカド 笑いの話なんかやないねん。
鶴瓶 (コカドに味方するように)笑いなんかいらんねん、サーフィンになんで笑いがいんねん。
中岡 ひひひひひ。
鶴瓶 (コカドに乗って)サーフィンのいいところは何やの?
コカド (真剣に)サーフィンのいいところは、やっぱ自然と一体になれるっていう。同じ波はないですから。
中岡 (コカドの話を聞かず、メガネを取って、目をこする)
コカド 今、メガネ取るとこちゃうねん!
中岡 ワハハ! すみません、今、休憩時間になってました。
コカド 休憩時間ちゃうよ!
鶴瓶 ワハハハ!
中岡 (鶴瓶に)どうします? まだ、手作り味噌の話もありますけど(笑)。
そうして今度は味噌作りについて語るコカド。同じく話にオチはなく、そのコカドの姿にまたニヤニヤする鶴瓶。この流れに横で爆笑している中岡、さらに、「早朝散歩の話」と次の話題を振ると、「散歩ってすべてにいいから」と、今度は散歩について語り出すコカド。またもや続く同じ展開に、中岡は始終爆笑している。
ミシンにサーフィン、味噌作りに早朝散歩。コカドの趣味の多さに、「そんな時間あんの?」と鶴瓶が言うと、「だから僕、めっちゃ忙しいんですよ」とコカド。しかしそれだけ真剣にやっていることが仕事にもつながり、今、ミシンの本を制作中なのだという(※)。
それを聞いて驚く鶴瓶、中岡に「お前もなんかせいや!」。
訊くと、中岡は今、フィールドホッケーにハマり中。今度はフィールドホッケーとは何かと語り出す中岡に、コカドが言う。
「師匠、ホッケーの話、オモロないですよ」
その返しに、鶴瓶大爆笑。
「お前らオモロないの多いなぁ!」
※編集部注:「コカドとミシン」のタイトルで2024年11月に発売。
小学生新聞を読み続けて「オールスター感謝祭」優勝
ここで2本目のコントを披露。タイトルは「透視」。超能力者として有名になるために会社を辞めた中岡。カードの裏にコカドが書いた絵を当てるため、顔を真っ赤にしてカードを睨みつける。めちゃくちゃがんばって時間かけるとようやくその絵が透けて見えてくるというネタなのだが、なにせ中岡の顔の力み具合が最高に面白い。そしてネタだとわかっているのに、絵を当てた中岡に、観客から大拍手が起こるのだ。そして、当たったときの決めゼリフ、「スケルト~ン!」。
見終わったあとの鶴瓶の第一声、「ほんま、アホなコントやなあ! やっぱこいつ必要やな」。「そうですね。ほぼ、中岡くんの顔芸ですからね」とコカドが笑う。
しかも本気で力むから、「このコント、終わったあと、めっちゃ疲れるんですよ」と中岡の息が上がっているのもなんとも面白い。
しかしこうして側から見ると、明らかに中岡のダメさ加減が目立つ。しかし中岡、「どっちもなんすよ」と言う。
コカドが続ける。
「あんまり勉強してこなかったから、僕のほうがダメなんですよ。漢字も数学も。僕がネタ作ってるから、デキる奴やと思われるんですけど、クイズ番組とか出たら、もうなんにもわからないんです」
テレビに出るようになったのが30歳の頃だったが、その年齢であまりにも物事を知らないのはヤバいと思ったコカドは、まず新聞を読むことから始めたと続けた。
「だけど、わけわからないんですよ。ニュースが書かれているけど、その土台を知らんから」と、改めていちから基礎を知るために小学生新聞を毎日取って読むことにしたそうだ。
コカド 小学生新聞はニュースが4個ぐらいしかないですよ。毎日そこから6年間読み続けたんですよ。そしたら、4年目ぐらいかな、「オールスター感謝祭」に出て、そのときは今よりももっと時事ネタのクイズがいっぱいあって、「小学生新聞に載ってたことばっかり出てる!」って驚いて。
鶴瓶 ワハハ!
コカド いや、ほんまに。それ全部。
鶴瓶 答えたん?
コカド はい。ほんで、優勝したんです。
鶴瓶 ワハハハ!
中岡 車もらったんですよ。TOYOTAの車。
コカド びっくりした。
鶴瓶 すごいよな、だからコカドは入り込むねん。でも、優勝したのすごいな。
中岡 優勝しました。
鶴瓶 (中岡に)どない思うた?
中岡 いや、小学生新聞って効果あんねやって思った。
鶴瓶 ワハハ!
「お前ら、それぞれの面白さがあんねんなあ」、2人のやりとりに、そう鶴瓶は感心したように言葉を漏らした。確かに、どちらともに、違う、人間としての面白さ、可笑しみがあって、だからこそ2人になったとき、ロッチのコントにはこの2人にしか醸し出せない独自の雰囲気があるのかと、深く納得する。「中岡ありき。ロッチのコントしか書けない」と言うコカドと、その上で書かれたコントでの役割を果たし、それ以上に面白いものに引き上げていく中岡のポテンシャル。それが2人の関係性の中で生まれていることを、トークを込みで、しっかり見せてもらった1時間半だった。
鶴瓶はうれしそうに続けた。
「俺、昔から2人のコント観てる。今日ありがたいなと思ったのは、こいつら、鶴瓶が見てないものをやりたいって言ってくれたんよ。だから俺も、今日観たコントは初めてで、すごく面白かった」
「無学 鶴の間」29回目のゲストは、コント師、ロッチ。コンビとしての魅力と同時に、2人の個性がより表に出た回となった。だから、より、ロッチを好きになる。テレビでは知り得ないこういう発見があるから、「無学 鶴の間」は面白い。
プロフィール
笑福亭鶴瓶(ショウフクテイツルベ)
1951年12月23日生まれ。大阪府出身。1972年、6代目笑福亭松鶴のもとに入門。以降、テレビバラエティ、ドラマ、映画、ラジオ、落語などで長年にわたって活躍している。大阪・帝塚山の寄席小屋「無学」で、秘密のゲストを招いて行う「帝塚山 無学の会」を20年以上にわたって開催してきた。
ロッチ
コカドケンタロウと中岡創一が2005年に結成。「爆笑レッドカーペット」への出演で知名度を上げ、2009年4月スタートのコント番組「爆笑レッドシアター」のレギュラーメンバーに選ばれ、人気に火がつく。「キングオブコント」では2009年、2010年、2015年に決勝に進出。2022年4月には冠番組「ロッチと子羊」がスタートした。それぞれがバラエティなどでも活躍しながら、コントにこだわってネタを作り続け、毎年単独ライブを開催している。また、コカドの趣味が高じて生まれた書籍「コカドとミシン」発売中。
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