“INSIDE(内部)”を表現する舞台
約5年ぶりとなるニューアルバム「HYDE [INSIDE]」を携え、兵庫・ワールド記念ホールで2DAYS公演を行ったあと、幾度となくライブを行なってきた、自らもホームと認める幕張メッセに戻ってきたHYDE。過去のアリーナ公演は近未来の東京をイメージした架空都市「NEO TOKYO」を舞台に展開されていたが、今回はゴージャスな天幕とHYDEの文字を象ったレトロな電飾をメインにした、サーカスや見せ物小屋の内部を思わせるセットに。取りも直さずHYDEの“INSIDE(内部)”を表現するのにふさわしい舞台が用意された。
不気味さをたたえた高揚感たっぷりのEDMが高らかに鳴り響き、ミラーボールがギラギラとした光を落とす中、観客の目の前に広がる幕では開演時刻向けてカウントダウンが進んでいく。1秒ごとに場内の熱気は高まっていき、幕に「16:66(17:06)」の数字が並んだ瞬間、メッセ内に歓声が爆ぜるように響いた。サーチライトのように照明が行き来し、音割れしたピアノが不気味さを醸す「INSIDE HEAD」と「Ladies and Gentlemen」の英語による口上がショーの始まりを宣言したのを口火に、観客の前に演説台がお目見え。HYDEが観光大使を務めるオーストリアのブランド、スワロフスキーから贈られた特注の軍帽を被り、サングラスにミリタリー風のジャケットをまとったHYDEは、その頂から姿を見せるとオーディエンスの抑圧された感情を解放させるように「LET IT OUT」を絶唱。序盤からアジテーターとしての強烈な存在感を放ち、これから展開されるライブが激しいものになることをオーディエンスに予感させた。
「現実を楽しもう」
「Here's HYDE. Are you ready?」と口にしたHYDEは、コロナ禍前よりライブの定番曲として披露してきた「AFTER LIGHT」、獣のごときグロウルを轟かせる「I GOT 666」を投下して、オーディエンスを狂騒へとかり立てていく。ライブ開始20分弱にして、むわりとした熱気が渦巻くフロアを前にHYDEは「よく来た。アルバムを頭に叩き込んできましたか? あのアルバムはGoogle Mapみたいなもの。世界中に行けるけど、実際に行くのとは違う。ようこそ、『HYDE [INSIDE]』へ……現実を楽しもうぜ」と肉体を駆使して楽しむ生身のライブの醍醐味をアピール。吐息混じりの艶かしい声を聴かせつつ、サングラスを外しカメラに視線を向けたのち「DEFEAT」を熱唱し、「HYDE [INSIDE]」からの楽曲を次々と披露した。自分自身を解き放ち、思うがままに暴れるHYDEに感化されるように、スタンディングエリアにはサークルが発生し、フロアのあちこちで観客がヘッドバンギングを繰り返し、あっという間にカオスな空間を構築。その光景を前にHYDEはもちろん、バンドメンバーも気迫たっぷりのプレイで応戦し、一帯の熱狂を加速させた。
苛烈を極める楽曲が作り出した空気は繊細でロマンチックなピアノの旋律によって解け、オーディエンスに息を吐く時間を提供。しかしその音色には徐々に憂いとノイズが混じり始め、幸せが音を立てて崩れ落ちていくイメージを描き出す。不穏なムードが会場を支配する中、低く狂おしいHYDEのボーカルが観客の耳にひたひたと忍び込み、「THE ABYSS」の深淵な世界へと誘った。深い悲しみがにじむ歌声と、長い睫毛を伏せ絶唱するHYDEの姿に誰もが釘付けになっていると、ステージに点在していたトーチに炎が灯る。そうして始まったのは、テレビアニメ『鬼滅の刃』柱稽古編のエンディング主題歌である「永久 -トコシエ-」。梶浦由記節とも言える、起伏の激しい甘美なメロディをHYDEはなめらかに歌い上げ、その豊かな表現力を証明した。
幕張メッセに広がったカオス
「幕張メッセではこれまでたくさん(ライブを)やってきたけど、今日はその中でも一番のカオスが見たい」というHYDEの言葉から「6or9」でなだれ込んだ後半戦は、ライブの序盤同様、血がたぎるような楽曲が連なる展開に。「HYDE [INSIDE]」の収録曲の中でも一際激しさを打ち出した「SOCIAL VIRUS」では、スタンディングエリアにウォールオブデスが作られ、重厚なバンドサウンドを凌駕するほどのHYDEのグロウルとともに、肉体がぶつかり合う混沌とした景色が幕張メッセ内に広がっていく。
さらに「MIDNIGHT CELEBRATION II」のイントロが鳴り始めると、スクリーンには頭から鮮血を滴らせ、血で赤黒く染まったシャツブラウスをまとったHYDEの姿が。この曲では血に飢えた吸血鬼のようにオーディエンスの声を求めてシンガロングを巻き起こし、クラウドサーファーも次々と生み出したHYDEだったが、まろやかな鍵盤の音色が聞こえた瞬間に表情を一変。頭部から首にかけ血糊を流しながら、潤んだ瞳で「HYDE [INSIDE]」のラストナンバーである「LAST SONG」をゆっくりと歌い出した。「LAST SONG」はHYDEが「自分がやりたい理想のライブを想像したときに最後に歌いたい曲」として制作した1曲。始まりこそ穏やかだが、サビで壮絶な歌声が感情を揺さぶるロックバラードだ。真っ赤な紙吹雪が天井から降り注ぐ中、HYDEは体の力を振り絞るように絶唱を繰り返し、クライマックスでは泣き叫ぶような声を響かせて床に倒れ込む。強烈な演出にオーディエンスが息をのんでいると、ステージの光がゆっくりと消え、緩やかに幕が下ろされた。
マイファスHiroとの「夢幻」生デュエット
しばしのインターバルを挟み、ギタリスト2人による火花を散らすギターバトルや、フロート上でドラムソロが披露される演出を経て、舞台は客席中央に設けられたサブステージへと移る。ステージには髑髏を描いた箱が置かれており、ギターの轟音とともにその中からHYDEが飛び出すサプライズが。ナポレオンジャケットにストライプのパンツに着替えた彼は、「PANDORA」「INTERPLAY」の2曲をサブステージで披露。歌い終えたあとは、観客とコミュニケーションを取りながら、バンドメンバーとともに客席エリアを縦断してメインステージへと戻った。
「ホントひとつになってる。うれしいね」と観客の熱烈な盛り上がりにうれしそうな表情を浮かべたHYDEは、「安心してください、あれは血ではなくケチャップです(笑)。僕、おいしそうでしょ?」とおどけながら「MIDNIGHT CELEBRATION II」「LAST SONG」で見せた衝撃的な姿について説明。「残りの人生、やりたいことをやりまくりたい。そういうワガママを言ってもいいのかなと。忖度とか関係なくやりたいな。ついてこれる人はついてきてください」とこれからの活動について宣言すると、会場のあちこちから同意するような歓声が沸く。HYDEはオーディエンスの反応に「ホントかわいいね、君たちは」と相好を崩すも、次の瞬間には「世の中つらいことばかりじゃないですか……幸せオーラに包まれたい」とカメラに向かって目配せ。「ここで幸せオーラを呼んでいいですか?」のひと言で現れたのは、先日結婚を発表したばかりの
「BELIEVING IN MYSELF」の余韻が残る中、HYDEは「狂った芸術を愛してくれてありがとう」とファンに向かって感謝の言葉を口にする。そして今やすっかりライブアンセムと化したセルフカバーバージョンの「GLAMOROUS SKY」、そして単独公演の最後に据えられることの多いパーティチューン「SEX BLOOD ROCK N' ROLL」でオーディエンスのボルテージをピークに導き、「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」に幕を引いた。なお去り際にHYDEが放ったのは「また一緒にはっちゃけよう。次会うまで、首洗って待ってろよ!」というおなじみのセリフ。未来を約束する言葉に同意するような大歓声が沸き、場内には彼とオーディエンスの揺るぎない連帯感がいつまでも漂い続けていた。
セットリスト
HYDE「HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-」2024年10月27日 幕張メッセ国際展示場9~11ホール
01. LET IT OUT
02. AFTER LIGHT
03. I GOT 666
04. DEFEAT
05. BLEEDING
06. TAKING THEM DOWN
07. ON MY OWN
08. THE ABYSS
09. 永久 -トコシエ-
10. 6or9
11. MAD QUALIA
12. SOCIAL VIRUS
13. MIDNIGHT CELEBRATION II
14. LAST SONG
15. PANDORA
16. INTERPLAY
17. 夢幻(with Hiro from MY FIRST STORY)
18. BELIEVING IN MYSELF
19. GLAMOROUS SKY
20. SEX BLOOD ROCK N' ROLL
L'ArcInfo(unofficial) @LArc_Info
【ライブレポート】HYDEが“INSIDE”をさらけ出した狂騒の幕張公演、マイファスHiroとの「夢幻」生デュエットも(写真8枚) https://t.co/MODYoU81oa