berry meetの2ndミニアルバム「昼下がりの星、続く旅路」がリリースされた。
berry meetは2022年7月に結成された、たく(G, Vo)、たなかり(B)、いこたん(Dr, Cho)からなる東京を拠点に活動する3ピースバンド。昨年2月リリースの初シングル「あのさ」がSNSで人気を集め、ミュージックビデオの再生数は150万回を突破している。今年2月には東京・WWWにてキャリア初のワンマンライブ「結び」を成功させた。
ベリミの魅力と言えば、さまざまな心情をストレートにつづる歌詞と多彩なアレンジを駆使したポップサウンド。音楽ナタリーでは、ベリミの結成からこれまでをたどり、バンドの目まぐるしい進化を感じさせる「昼下がりの星、続く旅路」を全曲レビューする。
文 / 天野史彬
心の軌道を徹底的に見つめる「あのさ」
berry meetを初めて聴いたとき、「なんて絶妙なバランスで世界に立っているバンドなのだろう」と思った。緩やかな抑揚を描き出す、3人の音と声によって構築された剥き出しのバンドアンサンブルが聞こえてきたときには一瞬、「触れたら壊れてしまいそう」なんてありきたりな表現が喉元まで出かけたが、実際のところは、そう簡単に壊れるものではないのだろうと思い直した。雰囲気だけのエモさじゃない、地に足がついたバンドの精緻な演奏が描き出すメロウネス。その演奏からは“揺らぐ”ことに対しての威風堂々とした姿勢を感じた。「揺らいでみせようじゃないか、人間なのだから」と。繊細さの中に宿る自律したたくましい意志を、音から感じたのだ。
最初に聴いたのは「あのさ」という曲だった。曲のタイトルからして“答え”じゃない。むしろ予感や逡巡、他者の存在を感じさせる。berry meetが初めてのシングルとして2023年2月にリリースした曲である。「何も混ぜないで 変に象らないで」という印象的な言葉を歌うたく(G, Vo)の声は、穏やかだが、震えているようでもあった。切ないラブソングと言えばそうなのかもしれないが、そこには、そう形容して終わらせるだけではもったいない、もっと深い人間への洞察があるように感じた。例えば、この曲にはこんな問いが含まれているように感じられる。“想う”ことは1人でもできる。では“想い合う”とはどういうことなのだろうか? 誰もが安易に“共感できるかどうか”で物事を測る時代に、このバンドは「では、共感とはいったいなんなのか?」という、さらなる深みに潜っているように感じた。共感とは“お互い”の話であり、それゆえに尊く、茨の道なのだということ。それに“僕”の頭の中を駆け巡る思考をひたすら追いかける、大言壮語の教訓や飾り立てたメッセージとはまったく違う場所にたどり着く歌詞は、独白のようで、噛み締めれば噛み締めるほどインパクトがある。鎧をまとった言葉じゃない。むしろ、どこまで“脱げる”のか?を試みている言葉。“脱ぐ”というのは、何も作り手が自身の私生活を露出したり、やたらに攻撃的な言葉を吐き出したりという話ではない。人が、自分自身を掘り進め、内省を深めた先に“悲しい”とか“寂しい”という嘘偽りないシンプルな思いの形に行き着く、その心の軌道を徹底的に見つめているということ。
純粋に生きたいのだ。素朴に生きたいのだ。教訓とか正論とか言い訳じゃない、あきらめたいわけでも、ムキになりたいわけでもない。自分の“本当の心”を知りたいのだ。本当の心で、“あなた”とコミュニケーションを取ってみたいのだ。初めて「あのさ」を聴いたとき、そんなberry meetというバンドの願いに触れたような気がした。
メンバーそれぞれが作詞作曲
berry meetは、2022年7月に結成され、2023年2月に東京で活動を開始した、たく(G, Vo)、たなかり(B)、いこたん(Dr, Cho)からなる3ピースバンドである。バンド名には「たくさん会いたい」という思いが込められているという。前述した最初のシングル「あのさ」が2023年2月に配信リリースされると口コミで広がり、いきなり大きく注目された。YouTubeにアップされた「あのさ」のミュージックビデオの再生数はこの原稿を書いている2024年10月の時点ですでに150万回を超えているが、この曲だけでなく、その後リリースされた「図星」「月が綺麗だって」といった楽曲のMVもまた、昨年発表されてから1年のうちに再生数150万回を超えている。サーキットイベントでは入場規制がかかるほど観客が殺到するなど、活動を開始してからたった1年で若手バンドシーンの最前線に躍り出たバンドである。
今年1月には1stミニアルバム「夢の中で、夢から醒めて」をリリース。「あのさ」はシンプルなバンドサウンドやコーラスワークが素晴らしい楽曲だが、「あのさ」も収録されたこのミニアルバムはそんなバンドの本来的な肉体性で魅せる楽曲だけではなく、曲によってはピアノやホーン、ストリングスなどを取り入れた多彩なサウンドバリエーションで、音楽的な懐の深さも見せている。個人的には、「幸福論」で見せるボカロや歌い手文化以降のスピード感と歌謡性を咀嚼したサウンドが意外かつ新鮮だった。その音楽性の幅広さはberry meetがこの先ライブハウスやフェスをにぎわせるだけでなく、例えばsumikaや緑黄色社会のように、ポップフィールドでも大きな存在感を放つ未来を確信させるものだった。現時点で楽曲の多くはたくが手がけているが、「キリギリス」では、いこたんが作詞作曲を担当していたり、ボーナストラックとして収録された「明日」は、たなかりが作詞作曲していたりと、メンバー全員が曲作りをする点も、その表現の多彩さの所以と言える大きなポイントだ。3人全員が独立したキャラクターを持っているバンドなのだ。
「夢の中で、夢から醒めて」の本編最後に収められた「煌めき」の中で、詞曲を手がけたたくはこんなふうに歌っている。「生きていよう 手を繋ごう 忘れない 変わらない 僕を愛したい 飾らないままで 僕を生きていく」。そこには、最初のシングル「あのさ」から一貫してberry meetの中に宿っている“生きること”と“愛すること”についての思いと祈りが率直につづられている。飾ることなく、偽ることなく、僕はこの世界にたった1人の“僕”を受け入れたい。そんな僕として、恋に落ち、生きていきたい。そんな思いが。
心のざわめきを描く「青の魔法」
そんなberry meetが、新たな楽曲集「昼下がりの星、続く旅路」をリリースする。全8曲に加えて、ライブ会場限定でリリースされる詩集仕様のCDにはボーナストラックとして2曲が追加収録される。前作から1年も経っていない短いスパンでのリリースとなるが、より華やかに、より着実に、バンドがスケールアップしたことを示す充実作だ。もっともっとたくさんの人に出会いに行こう、届けに行こう。そんな意志が強く伝わってくる。今まさに、berry meetはムクムクと、目まぐるしく、進化している。そう感じさせる1作である。
1曲目「青の魔法」から、さわやかなサウンドが、吹き抜ける風のようにさっそうと響き渡る。疾走するビート、鮮やかなメロディライン……ストリングスも取り入れたなめらかでポップな楽曲だが、よく聴けば、心のざわめきを表現するように、荒々しいギターが鳴り続けている。「乾ききった私の心中 ずっと潤いを求めたまま 嫌われたくない 恥かきたくない 本当の気持ちがもう分からない 胸が痛い 吐き出したい どこに? 言えない 見せたくない 醜い自分が嫌い だけど それでも 生きていたい」──そう歌うたくは、“青”という言葉に、“青”春のきらめきと憂鬱の“ブルー”を重ね合わさせ、消えない痛みと、今感じるその“痛み”こそが、いつかあなたを救うのだというメッセージを放っている。
孤独と向き合う「紬」
続く2曲目「紬」は荒々しくアグレッシブなロックチューン。歌詞で「意味は無い」という言葉を繰り返すのは、心に根付いてしまった何かがあるから、だろう。「別れた瞬間のあなたと もう一度なんて願い下げなんで 目まぐるしく過ぎてゆく日々の中で あなたを想い続ける 余裕なんてないね 馬鹿にしないで 自惚れないでよ ただ ただ 幸せだったころの 夢に浸ってるだけ」──もはや逆ギレのように、振り払おうとしたって振り払うことのできない“あなた”の面影を夢見ながら、ドタバタ飛び跳ね、ジタバタあがくように生きる“僕”の孤独な生き様が描かれる。愚かで、恥も外聞もない、自分自身の矛盾を撒き散らす“僕”の姿は、私たち聴き手が安易にその世界観に悦に浸ることをよしとしない。「これが人間だろ。お前もそうだろ」と語りかけるようである。