ズーカラデル「バードマン」インタビュー|より素直に、より自分たちらしく

2017年にリリースされたズーカラデルの楽曲「アニー」。自主制作アルバム「リブ・フォーエバー」の中のいちアルバム曲ながら大きな話題を呼んだこの曲は、当時、北海道・札幌で活動していたズーカラデルの存在を全国に知らしめ、以降彼らの代表曲として愛され続けてきた。今年10月にリリースされた新曲「バードマン」は、そんな「アニー」を意識しながら作られた、ズーカラデルにとっての新たなアンセムだ。なぜリリースから7年が経った今、改めて代表曲に向き合い、そこから新たな楽曲を生み出そうと思ったのか。メンバー3人にインタビューを行い、「バードマン」の制作背景を語ってもらった。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 小財美香子

「もっと聴いてくれてもいいよ」

──ズーカラデルがナタリーのインタビューに登場するのは、2ndアルバム「JUMP ROPE FREAKS」リリースのとき以来で約2年半ぶりです。その間もツアーを回ったり、いろんなイベントに出たり、ミニアルバム「ACTA」やアルバム「太陽歩行」をリリースしたり、かなり精力的に活動されていたと思いますが、皆さんにとってこの2年半はどんな期間でしたか?

吉田崇展(G, Vo) その都度その都度曲を作って、レコーディングして、ツアーやって……ということ自体が生活として当たり前にあるので、それをひたすら一生懸命やっていたという感覚ですね。

吉田崇展(G, Vo)

吉田崇展(G, Vo)

鷲見こうた(B) 曲作りとライブをひたすら繰り返すというのは、北海道に住んでいたときからずっと変わらないんですけど、「ACTA」をリリースしたあとぐらいからコロナ禍前と同じ形でライブができるようになって。その影響は大きかったのかなと。ほかのアーティストと一緒にライブに出たり、そこでいい刺激を受けたり、そういう機会が増えていった2年半だったと思います。

山岸りょう(Dr) ようやくライブを堂々とできるようになり、周りからいろんな刺激をもらって、それが曲に返ってくる、という時期だったと思います。そこから「太陽」というキーワードが出てきて、「太陽歩行」が完成しましたし。

──「太陽歩行」は16曲という大ボリュームながらも、それを1時間以内のアルバムに自然な形でまとめてしまうという、かなり高度なことをしている作品だったと思うんです。その高度さを感じさせないぐらい自然にまとまっているのが、なおのことすごいというか。

吉田 ありがとうございます。僕らは常に曲を作っているので、その分アルバムに入れたい曲もどんどん増えていってしまうんですよね。それを1枚の作品として形にできるかというのは、自分たちがいつも直面する課題なので、そういう感想をいただけると「うまくいったんだなあ」と思えてうれしいです(笑)。

──アルバム発売から半年が経ち、リリースツアーで全国を回られたうえで、アルバムの届き方についてはどのような実感がありますか?

鷲見 ツアーではアルバムの曲を中心にセレクトしたんですけど、たくさん曲がある中で「あっ、この人はこの曲が好きなんだな」というのを、みんなのリアクションや表情を通して感じ取れたのがうれしかったです。リリースしてからすぐツアーを回ったので、あまり聴き込む時間がなかったと思うんですけど、「限られた時間の中でたくさん聴いてくれたんだな」と実感できました。

山岸 今の話と近いところで言うと、アルバムを聴いてくれた友人や知り合いが「この曲よかったよ」とか「あの曲すごいね」とか感想を伝えてくれるんですけど、挙がる曲がけっこうバラけていて。それがすごくうれしかったですね。アルバムの中で好きな曲って、最初の何曲かに偏ったりしがちだと思うので、曲順関係なくバラけているというのは、アルバムとしてのよさがちゃんと伝わっているということなんじゃないかなと。

──確かにこのアルバムは聴く人によってどの曲が好きか、かなりバラけそうですよね。吉田さんはいかがでしょうか。

吉田 正直なところ、個人的には「もっと聴いてくれてもいいよ」という気持ちもあります。本当に自分たちのこだわりを詰め込んだ作品だし、細部まで神経を行き渡らせることができたと思っているので「もっと聴いてもらえたら、いろんなヤバいところを見つけてもらえるはずなんだけどなあ」と思ってしまう(笑)。

──「もっと聴いてもらえたら」というのは“より多くの人に”という意味なのか、それとも“もっと深くまで聴いてほしい”ということなのか、どちらでしょうか。

吉田 うーん……両方ですかね。それらは2つとも同時に来るものだと思うので。もっとたくさんの人に聴いてもらいたいし、そうなればたくさんの人により多くのものをつかみ取ってもらえると思うんです。でもきっと、それには僕らバンド側のアピール力みたいなものが必要で。そのアピール力が強くなると、より多くの人にもっと深く聴いてもらえるようになるのかなと。

ズーカラデル

ズーカラデル

いい曲を作らないことには始まらない

──「北海道にいた頃から変わらず曲を作り続けてきた」という言葉にも表れている通り、ズーカラデルはずっと変わらず“実直にいい曲を鳴らし続けているいいバンド”ですよね。シンプルに「いいバンド」としか言いようがない、今時すごく珍しい存在だなと思います。

鷲見 そう思ってもらえるのは、3人全員の根っこに「いい曲を作りたい」という気持ちがあるからだと思います。僕らは「ライブをしたいから音楽をやっている」という感じではなく、「いい曲を作りたい」という思いが第一にあって。もちろんライブも楽しいけれど、まずはいい曲を作って、それをいい録音物にして、リリースして、みんなに聴いてもらうためにライブをしている。そういう順序で動いているから、いい曲を作らないことには何も始まらないんです。コロナ禍でイベントが中止になったりしても、足を止めずに曲を作り続けていたし、なんなら時間がある分いつもよりいろんなことに挑戦していたので。

──でも、SNSでのバズとかわかりやすいタイアップがあるわけでもなく、ひたすらいい曲を作り続けることで、一定の規模を保ち続けるのってかなり難しいことでもありますよね。それをできているのがズーカラデルのすごいところだなと感じていて。

吉田 そうですね。まあ、そもそもバズりたいとは思ってるんですけどね(笑)。「世の中に対して今我々がどういう音楽をやったら面白いのか」は結成当初からずっと考えていますし。バズってたりアニメのタイアップからヒットしたりしている人を見ると、普通にうらやましいなと思いますもん。うらやましがりながら「じゃあ自分たちなりに、世間にプレゼンできることってなんだろう」ということを常に考えてはいて。

──確かにズーカラデルはアニメのタイアップとかもすごく合いそうだし、そこからもっと世間に広がっていってもおかしくないと思います。

鷲見 それは本当にいつも思ってます(笑)。「このアニメのエンディングに自分たちの曲が合いそうだな」と想像することもよくあるし、「これもっとバズっていいでしょ」ってわりとどの曲にも感じていて。「そういう現象が起こらなくたって俺たちはバンドを続けるんだ」とも思っているけど、大きなタイアップを獲得したり、バズったりすることで、より多くの人にズーカラデルを知ってもらえるはずなので。

鷲見こうた(B)

鷲見こうた(B)

吉田 とか言いながら「太陽歩行」みたいな自己満足度が高い作品を作っちゃうあたりに、僕らのわがままさが出ているのかもしれないですけどね(笑)。

今のズーカラデルで“最高”を更新してやろう

──新曲「バードマン」は冒頭の歌詞やコーラスの重ね方、ドラムの跳ね方などいろんな要素に代表曲「アニー」とリンクする部分があるわけですが、いただいた資料には「セルフオマージュをスタート地点にした」と書かれています。なぜ今「アニー」のセルフオマージュから曲作りを始めたのでしょうか?

吉田 僕はずっと「1回やったことはもうやらなくていいかな」と思っていたので、「アニー」みたいな曲も作らないようにしていたんです。でも、得意なことをみんながやらなくなったらそれは社会にとって大きな損失だなと思い直して。AC/DCが激しい曲をやらなくなったら嫌じゃないですか(笑)。だから「一度やったから」とかそういうことは気にせず、今回は心から好きなものを曲にしようと。

──冒頭の「イヤホンは私を守るけど どこにも連れて行ってはくれない」という歌詞は、「アニー」の「唸れイヤーフォン 守れ彼女を」という歌詞へのアンサーのようでもありますよね。

吉田 そうですね。「アニー」のその歌詞については、ずっと思うところがあって。これを言われた側はどういう気分なんだろうかとか、結局ただの自己満足なんじゃないかとか、そういうことをずっと考えていたんです。「じゃあそこから一歩先に進むためにはどうすればいいのか」を考えながら作ったのが「バードマン」。だから、これが“アニー2”みたいな位置付けの曲かと言われると、別にそういうわけではなくて。「今のズーカラデルで“最高”を更新してやろう」と思って作った曲なんです。

──なるほど。ただ、少なからず「アニー」を意識していたということは、やはり「アニー」は皆さんにとって思い入れが強いというか、かなり大事な作品だということですよね。

吉田 それは間違いなくそうですね。音楽で生活していけるようになった、本当に最初のきっかけの曲なので。

山岸 バンドとしてゼロがイチになった瞬間の曲だよね。

吉田 うん。でもその分、取り扱いが難しいところもあるというか。じゃあ「アニー」みたいな曲をいっぱい作ればいいのかというと別にそういうわけではないし、かと言って「アニー」みたいな曲を作らなければいいのかというと、それもまた違う。

山岸 ある種のマジックが宿った曲だからこそ、「アニー」の意思を継いだ曲を作るべきなのか?というのは悩みどころで。「そろそろそこに向き合ってもいいんじゃないか」という話が「太陽歩行」を収録し終わった頃に出てきたんです。それがこういう形になったのは個人的にはとても満足しています。

──「アニー」リリース時、鷲見さんはまだズーカラデルに加入されていませんでしたが、この曲についてどのような印象を持っていましたか?

鷲見 当時僕もズーカラデルと同じく札幌で音楽をやっていたんですけど、「アニー」は地元の音楽仲間の間でもかなり話題になっていましたね。「こういう音楽が評価される世の中になればいいね」と話していたのを覚えています。僕がそうだからわかるんですけど、「アニー」を聴いたときの衝撃は、きっとたくさんの人の胸に刻まれているはずで。ただ「それをそのまま再現してもしょうがないよね」とも思うから、「バードマン」という新たな曲で、今この時代に生活している人たちにまた別の何かを感じてもらえたらうれしいです。あのとき自分が感じたのと同じような感動を、今度はメンバーとしてより多くの人に届けられるといいなって。