ばってん少女隊の5thアルバム「九伝」(きゅうでん)がリリースされた。
2020年にプライベートレーベル・BATTEN Recordsを発足して以降、九州の歴史や伝統をモチーフにした先鋭的なダンスチューンを発表し続け、「OiSa」や「でんでらりゅーば!」のヒットなどによって、ローカルアイドルとして新たな境地を切り開いているばってん少女隊。この“古来”と“未来”をつなぐ方程式はニューアルバム「九伝」でも健在で、2022年発表の4thアルバム「九祭」の路線を踏襲しつつ、強力な作家陣とともに楽曲の独自性とクオリティをさらに高めている。
メンバーの瀬田さくらが12月7日に行われる福岡でのライブをもってグループを卒業することが決まっているため、「九伝」はばってん少女隊にとって現体制最後の作品となる。なお、彼女たちはオーディションを行い、新メンバーを迎える予定で、今後は東京も活動拠点に加えるという。結成10年目にして大きな転換期を迎えようとしている状況の中、今回音楽ナタリーでは結成時からのオリジナルメンバーである瀬田、希山愛、上田理子、春乃きいなにインタビュー。瀬田の卒業を目前に控えた心境、ニューアルバムの新録曲の印象、そしてグループの変化 / 進化に対する率直な思いを語ってもらった。
なお、特集の最後には「九伝」に新曲を提供したPARKGOLF、ASOBOiSM、渡邊忍(ASPARAGUS)、Daoko、GuruConnectのコメントも掲載する。
取材・文 / 近藤隼人
当たり前の日常が続いている
──ニューアルバム「九伝」は、ばってん少女隊にとって現体制最後の作品になります。瀬田さんの卒業を目前に控えた今、それぞれどんな思いを抱えて日々活動しているのでしょうか?
瀬田さくら 実感が湧かないというか、自分自身ですら「私、本当に卒業するのかな」と思っちゃうくらい、本当にいつも通りの日常を過ごしています。でも今、卒業ライブの準備を少しずつ進めていて、その中で「本当に卒業するんだ」「ファンの方にもっとこういうところを見せたいな」と感じる瞬間があって。卒業のギリギリまでいろんな思いが巡っていると思います。
上田理子 さくらの口から卒業について聞いたのが6月くらいで。そのときと比べると卒業が本当に目前に迫っているんですけど、実感が湧かないですね(笑)。
春乃きいな たぶん、私たちよりも隊員(ばってん少女隊ファンの呼称)さんやスタッフさんのほうがいろいろと感じているんだろうなと、そう思う場面がけっこうあって。例えば6人での最後のレコーディングのとき、長く携わってくださっているディレクターさんから「今日がさくらちゃん最後のレコーディングだね」と声をかけていただいたんですけど、私たちメンバーは言われて初めて「あ、確かに!」と気付いたり。日常では、さくらが卒業することをあまり意識していないんですよね。
上田 最後のジャケ写撮影とかミュージックビデオ撮影とか、6人での“最後”の経験が増えていって。そういうときはさくらの卒業を実感しますが、油断していたら忘れちゃいます。
春乃 本当に当たり前の日常が続いてるよね。
上田 さくらから卒業の話を聞いたあと、わりとすぐに結成9周年記念ライブがあって。隊員の皆さんにまだ言える段階ではなかったんですけど、私たちとしてはそこで一旦感情を外に出し切った感覚があったんですよね。
希山愛 私は、この間までやっていた全国ツアー(「BATTEN GIRLS TOUR 2024 -TRY-」)が終わったときに「あ、これが6人での最後のツアーだったんだ」としみじみしました。あと、ライブで隊員さんが泣いてる姿を見たときに、さくらの卒業を実感して寂しくなります。でも私も普段は実感が湧いていなくて、この先もずっと一緒にいるんじゃないかなと思っちゃいます。
春乃 卒業を実感するタイミングになんだか波があるんですよね。最初は9周年ライブのときに「このメンバーで周年ライブをやるのはこれで最後なんだな」と思ったりして。そのあとはツアーの初日にすごく感じるものがありました。
瀬田 えー、そうだったんだ。
春乃 うん。そのあとはツアーをやる楽しさが寂しい気持ちを上回っていったんですけど。
希山 やっぱり、さくらから卒業の話を聞いたときが寂しくて悲しい気持ちが一番ありましたね。そのあとは「残りの時間を思い切り楽しまないと」とか、「一緒にたくさん思い出を作れたらいいな」と考えるようになりました。
──12月7日の福岡での卒業公演当日を迎えたとき、もしくはそのライブを終えたときに多くの感情が押し寄せてくるのかもしれませんね。オリジナルメンバーである瀬田さんの卒業は、気持ちの面以外でもグループに与える影響が大きいように思います。端正な顔立ち、そのビジュアルとのギャップを感じるオタク気質なキャラクターなどでファンを惹き付け、パフォーマンス面でもばってん少女隊に多大な貢献をしてきたと思いますが、瀬田さんの魅力を改めて言葉に表すとしたら?
上田 さくらは声にすごく特徴があるよね。ロングヒットした「OiSa」とかはさくらの声で多くの方を惹き付けることができたと思うし、昔から歌が上手やったけん。メンバーみんなに歌を教えてくれている印象もあるし……だから、やっぱりさくらがいなくなるのが想像できない。この4人はそれぞれ性格が全然違うんですよ。正直に言うと、もともとは「心の底から仲良し!」という感じでもなかったし、「青春! 絆!」みたいな関係性ではないんですね(笑)。だからこそ一緒にいて心地いいし、その中からさくらがいなくなるのは不思議な感覚です。
春乃 4人ともそれぞれ違う考えを持っていて。その中でさくらは「アイドルとしてこうありたい。隊員さんにこういうものを届けたい」という思いをすごくはっきりと表現してくれるメンバーで……私もさくらがいない日常の風景が想像できないです。ばっしょーにとってさくらの存在はすごく大きいので。
上田 ファンの方のことを「隊員さん」と呼ぶようになったのがわりと最近で。私はつい癖で「ファンの方」と普通に言ってしまうことが多いんですけど、さくらは絶対に「隊員さん」って言うんですよ。それは隊員さんにとってもすごくうれしいことだろうし、さくらが発信し続けてくれたことでこの呼び方が浸透したところもあると思います。
──アイドルとしてのプロ意識が高いんでしょうか。
瀬田 照れますね(笑)。
上田 コロナ禍でライブがなくなって個人で配信をやり始めたときも、私とかは何を話したらいいのか全然わからなかったんですけど、さくらはプロでしたね。
──瀬田さんのSHOWROOM配信がきっかけで隊員になった方も多いのでは? 距離感が近く感じられるトークは瀬田さんならではですよね。
上田 コロナ禍以降、さくらの配信がきっかけでばっしょーのことを知ってくださった方はすごく多いと思います。画面の向こう側まで引き付ける力があるんですよね、きっと。
瀬田さくら&上田理子の10年間の変化
──ばってん少女隊は現在結成10年目になりますが、結成当初の瀬田さんと現在の瀬田さんを比べて、一番大きく変わった部分はどこですか?
瀬田 10年前、私はかなり小生意気な性格で……(笑)。事務所に入ったのがほかのメンバーよりもちょっと遅かったし、この4人の中では一番年下ですし、すごいガキんちょでした。自分が好きなことばかり楽しんでという感じだったんですけど、みんなと活動していくうえでいろんなことを学んで、ちょっとは大人になれたんじゃないかなと思います。
上田 見た目とのギャップがたくさんあるんですよね。昔はステージ上で暴れるというか、弾けることが一番多いメンバーでした。
瀬田 パワータイプだった(笑)。
希山 もう、地面が割れるんじゃないかと思うくらいの暴れっぷりで(笑)。
春乃 ジャンプの高さもすごくて、身体能力の高さが前面に出ていました。
瀬田 初期の頃はロックな楽曲が多かったから(笑)。グループが進化してダンスミュージックに挑戦していく過程で、その時々の“見せたい自分の姿”やパフォーマンスのスタイルも変わってきました。
上田 でも、根本の部分は変わってないと思います。
希山 ライブのMCでふざけたりすると必ずノッてくれるから、うれしいです。
──ほかの3人についても、10年前と現在を比べて変化したところを聞かせてください。まずは上田さんから。
上田 えー、なんだろう……!? 自分自身で感じる変化がほとんどなくて……ある?
瀬田 初期の頃は、理子が自信満々な感じに見えてました。ライブのMCが上手で、グループとしての目標を自分から語ってくれたりして。その自信がある感じがいいなと思いつつ、一緒に活動していく中で、実はグループの細かいところまで考えて行動してくれていることがわかってきました。その姿には憧れています。
上田 昔はあまり深く考えていなかったかも。ステージの立ち方とかインタビューの答え方とか、先輩たちの真似をしていたというか、無意識に教科書的なものに沿って話していた部分が少なからずあって。年齢を重ねるうちに、ちゃんと自分で考えられるようになったと思います。でも、10年前と今を比べて大きく変わった部分はないような……。
希山 理子はいっぱい変わったよ。
上田 え、本当!?
希山 ステージでの表現力がすごいなと初期の頃から思ってたんですけど、それにもっと磨きがかかったと思います。MCの面も同じで、みんなを引っ張ってくれるし、ほかのメンバーの話にツッコんでくれるし。ばっしょーってツッコミ役がほとんどいないから、助かっています(笑)。
上田 昔はメンバーがそれぞれ違う方向を見てしゃべってた感覚がありました。みんな子供だったし、同じことを言ってるのになんだかちょっとずつずれているという。その中で私は「自分が全部しゃべらなきゃ」と思っていて、考えるより先に口が動いていた時期があったんですけど、メンバーのキャッチフレーズが変わるタイミングがあり、それと同時に私がMC担当になって。そこから、メンバーに話を振ったほうがいいのかなと考えるようになりました。歌っていない時間、MCの時間もお客さんに楽しんでもられたらいいなって。
希山愛&春乃きいなの10年間の変化
──希山さんの変化についてはどうでしょう?
希山 えー、私は変わってないと思います。
上田 自分のことってわからないよね。
希山 最初の頃は「最年長だからしっかりせんと」って考えてました。でも、メンバーと過ごしていくうちに、ほかのみんなのほうがしっかりしていると思えてきて。前は「私がみんなをまとめないと」と気負っていたんですけど、いつからかそういう考えはなくなって、純粋に活動を楽しめるようになりました。
春乃 そうは言っても、やっぱり愛ちゃんがみんなをまとめて引っ張ってくれる場面は今でもたくさんあります。大きく変わったところはないかもしれないけど、ばっしょーの柱というイメージで、グループを支えてくれている感じがあります。
上田 愛は昔からダンスが上手なんですけど、前は「ダンスがうまくて激しい!」みたいなイメージだったんですよ。最近はそれに加えて、いい意味でふざける部分が出てきて、ばっしょーの面白さにつながっていると思います。
──続いて、春乃さんについてはいかがですか?
春乃 私が一番何も変わってないと思ってるんですけど……。
瀬田 確かに(笑)。髪が伸びた以外の変化が見つからないかも。
上田 正直に言うと、さくら以外は変化があまりないんですよね(笑)。きいなはいつも裏で支えてくれているというか。表立って意見をたくさん言うのではなく、全体を俯瞰で見てくれるタイプなんですけど、なんなら中学生の頃からそういう性格だったんですよね。
春乃 さくらが一番変化しているのは間違いないとして、愛理子(上田と希山)はステージ上ではあまり見えてこない部分が変わったんだと思います。同じメンバーだからこそ気付くところ。その中で、やっぱり私は何も変わってないですね(笑)。
瀬田 もともとダンスもできてたからね。
上田 昔からきいな独特の踊り方があったし。
希山 それにプラスして、年齢を重ねるにつれてセクシーな感じも出てきたんじゃないかな。
瀬田 確かに。前は声を張るパートをきいなが担当することが多かったけど、最近はアンニュイな感じの歌い方をすることもけっこうあります。
春乃 前はパワーだけで歌っていたんですけど、大人になるにつれて出せる声が変わってきて。ばっしょーの音楽性が移り変わるのに合わせて、歌における役割が変化してきた感じはあります。
上田 歌に関しては、中学生の頃と比べると音域的な変化は確実にありますね。
瀬田 もう“少女隊”ではないかも(笑)。
──音域が変わり、大人びた歌い方ができるようになったと。
上田 プライベートレーベルができて以降、楽曲の曲調がダンスミュージック寄りに変化してきましたが、メンバーの年齢と照らし合わせるとすごくいいタイミングだったんだなと思います。「OiSa」を最初に聴いたときは歌い慣れてない曲調だったので、戸惑いもあったんですけど(笑)。
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この音楽のよさを多くの方に味わってほしい