go!go!vanillas「Lab.」特集|リスナーと共鳴し合う移籍第1弾アルバム「Lab.」

go!go!vanillasのニューアルバム「Lab.ラブ」が11月6日にリリースされた。

「Lab.」は、「FLOWERS」以来およそ2年ぶりとなるオリジナルアルバム。すでに配信リリースされている「SHAKE」や「平安」、テレ東系ドラマプレミア23「Qrosの女 スクープという名の狂気」のオープニングテーマ「Persona」などの全10曲が収録される。昨年12月にポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsに移籍したgo!go!vanillasにとって本作は移籍第1弾アルバムで、バンドの気合いが感じられる1作になっている。音楽ナタリーではメンバーに「Lab.」の制作エピソードをはじめ、11月10日に東京・両国国技館で行われるフリーライブ、11月下旬にスタートするgo!go!vanillas史上最大規模の全国ツアーへの意気込みを聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / YURIE PEPE

こんなバンド、ほかにいない

──IRORI Records移籍第1弾アルバム「Lab.」がリリースされました。研究室を意味するLaboratoryの略称Lab.と、ファンや音楽への愛を掛けたタイトルですが、制作に入ったときはどんなビジョンがあったんですか?

牧達弥(Vo, G) 「SHAKE」のレコーディングでイギリスに行ったことを起点にした形でアルバムを作りたいという考えはありましたね、最初は。自分たちが好きなイギリスの音楽のニュアンスをなるべく入れようとしてたんですけど、制作の後半になるとまた違う心境になってきて。後半に作った曲が「Super Star Child」「Moonshine」あたりなんですけど。

牧達弥(Vo, G)

牧達弥(Vo, G)

──2曲ともバニラズ本来のよさ、牧さんの根っこの部分が感じられる曲ですよね。アルバム全体で見ると、UK的な楽曲もありつつ、バンドの魅力がバランスよく表現された1枚だと思います。

長谷川プリティ敬祐(B) 録ってるときは、楽曲のバラエティの豊かさを感じていたというか、振り幅が大きいなと思っていて。でも、できあがったアルバムを通して聴いてみると、「1本の芯が通っているな」という感覚が強かったんです。全然バラバラではないし、1枚のアルバムとしてまとまっているなと。それはエンジニアの皆さんの力も大きいと思いますけど。あとは作ってる人間の匂いが全曲に入っているというか。

柳沢進太郎(G) トータルの収録時間がそんなに長くなくて聴きやすいし、曲順も絶妙な並びになっていて。どの層の音楽リスナーが聴いても楽しめるだろうし、そんなに音楽に詳しくない方にもグッとくる曲があるだろうなと思ってます。自分の日常にも根ざしている感じがあるし、個人的にもめっちゃリピートしていて。聴いていると「ライブでどうやって弾こうかな」って、ついギターを弾いちゃうんですけどね。

ジェットセイヤ(Dr) 改めて、go!go!vanillasは楽しいバンドだなと思いました。みんなが言うようにバラエティに富んでるし、個性もあって。曲ごとにテーマがあるし、ある種それを演じてるような感覚もあるんですよ。役者ですね、自分たちは。曲を聴いても、パフォーマンスを観ても楽しい。こんなバンド、ほかにいないと思います。

──牧さんとしても、さらに曲の幅を広げられたという手応えがある?

 作ってるときはそういうふうに感じていたんですけど、できあがってみると「もともと自分の引き出しの中にあったものだな」という感覚もけっこうあって。普段聴いている音楽や自分が好きなものは当然、曲に表れてくるし。ただ、もちろん新しいこともやってますけどね。「Leyline」のストリングスとか、新たなサウンドアプローチも試しているし、楽曲に一番マッチする音選びが明確になった気がします。

──音もめちゃくちゃいいですね。ミックスは小森雅仁さん、浦本雅史さん、渡辺省二郎さん、飯場大志さん、illicit tsuboiさんという日本を代表するエンジニアが担当しています。そしてマスタリングは、Aphex Twin、coldplay、ジェイムス・ブレイクなどの音楽を手がけている、ロンドンの名門スタジオMetropolis Studiosのマット・コルトンが担当していて、すごい布陣ですね。

 ホントにすごいです。エンジニアの皆さんに曲に合った形でミックスしていただいて、マットがマスタリングしてくれたことで、音のレベルみたいなものが一気に上がりました。単に音圧を上げているわけではなくて、1つひとつの音の輪郭がハッキリしているから、聴き応えがあるんですよ。耳が肥えた音楽リスナーじゃなくても、普通に街で流れていたらパッと意識を持っていかれるような音だなと思います。

go!go!vanillas

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AIでもこの歌詞は書かねえだろう

──では、先行配信された「SHAKE」「平安」「来来来」「Persona」以外の新曲について聞かせてください。1曲目の「Lab.」はインストナンバーで、アルバムの開幕に相応しい、高揚感のある楽曲ですね。

 アルバム制作の途中でインストを作りたくなったんですよ。これまでにもアルバムにインスト曲を入れたことはあって、それがツアーのSEになったこともある。今回は移籍第1弾のアルバムで、僕らにとって新たなスタートを象徴する作品になるので、それを感じてもらえるような曲を1曲目に入れたかったんです。一緒に楽しんでもらう、一緒に実験してもらうための導入でもあります。

──そこから2曲目、心地よいグルーヴの「HIBITANTAN」につながります。

 Metropolis Studiosでレコーディングしたときにワンコーラスができて。「この曲、どうしようかな」と思いつつ放置していたのですが、1曲目の「Lab.」を作ったときに、「Lab.」と「HIBITANTAN」を並べたいと思って、そこから一気に形にしていきました。

プリティ イギリスでデモを聴かせてもらったときは、もっとド派手で華やかな曲になるのかと想像していたんだけど、制作中にかなり形が変わって。めっちゃいい曲になりましたね。

柳沢 すごく情景が浮かんでくる歌詞で、個人的に好きな楽曲ですね。あと、この曲は歌入れの直前で歌詞が一部変わって。「絡めとる僕を 電脳の棘よ」の“電脳の棘よ”はもともと“電脳クソ野郎”だったんですよ(笑)。この曲に関しては歌入れに立ち会えなかったんですけど、上がってきたラフミックス音源を聴いて「うわ、歌詞が変わってる!」と驚きました。

──最後の最後まで歌詞を詰めていた?

 今回のアルバムは全部そうですね。歌詞だけじゃなくて音もそうなんですけど、ギリギリまでいろんなことをやっていました。

セイヤ 「HIBITANTAN」の歌詞は、牧と普通に飲んでいるときの感覚に近くて。ほかの曲はもっと大きいというか、全校集会みたいな感じ?

柳沢プリティ ハハハハハ。

セイヤ 全校生徒に向けて話している感じというか、広い視点で書いている曲が多いけど、「HIBITANTAN」は2人で話している雰囲気がある。普段の牧がめっちゃ出てて好きです。

ジェットセイヤ(Dr)

ジェットセイヤ(Dr)

 この曲はアルバムで唯一、自分に向けて書いていて。アルバムの全体像が見えてから書いた曲で、自分の中で1つの答えが見えた瞬間に作りました。なんて言うか、クリエイションに関わる人って、みんながんばってるじゃないですか。それはわざわざ言うことでもないんだけど、死にそうになりながらがんばって、パッと閃いて曲が生まれてきたときの快感や、アイデアを捻り出すときの苦しみとか、人間的な感情を歌ってるんですよ。

──なるほど。

 昨日、プリティと一緒に演劇を観に行ったんですけど、主役の方たちはもちろん、モブと呼ばれる人たちのプロ意識を目の当たりにして。お芝居も映画も僕らはただ完成したものを受け取るだけだけど、できあがるまでには膨大な量のギミックや工夫が隅々まで凝らされているんだなと感じました。曲も同じで、ベーシックの弾き語りから始まって、どれだけ細かいところまで丁寧に積み上げるかが大事。曲にはそういうことが全部内包されているんですよね。ただ、そのことをわかってほしいわけではなくて、むしろシンプルに受け取ってくれて、笑ったり喜んだりしてくれるほうがうれしい。「あなたの人生において、この曲がいい作用を起こしていたら、それでOK」と思ってます。

──モノづくりの本質ですね、それは。

 そう思いますし、アルバムにその思いはかなり込めてますね。あとは「HIBITANTAN」は今の新しい技術、特にAIですね。それと戦っているような曲でもあるので。「たとえAIに曲は作れても、この歌詞は書かねえだろう」みたいなことも歌ってるんですよ。

──あとはやっぱり「人間が演奏する」ということですよね。AIにはできないことなので。

 そうだと思います。曲を作って演奏して、聴いてくれる人と共鳴し合う。そこまでがセットになってるのがバンドなので。