ドラマに寄り添うシンガーソングライターの歌声|eill、野田愛実、詩羽らが歌う主題歌の魅力を紐解く

ドラマには欠かせない存在である主題歌。重要なシーンを盛り上げたり、登場人物の心情に寄り添ったりと、どのドラマでも、もはや物語の一部を担っていると言っても過言ではない存在感を放っている。ここでは今期のドラマ主題歌の中から、シンガーソングライターが歌う楽曲を紹介する。ぜひドラマに加え、楽曲の背景も想像しながら読んでみてほしい。

文 / 小松香里

eill「革命前夜」で新しい一歩を踏み出して

今期のドラマ主題歌には、フレッシュなシンガーソングライターの楽曲が多くラインナップされている。まず、フジテレビ系の月9ドラマ「嘘解きレトリック」の主題歌を担当しているeill。「嘘解きレトリック」は鈴鹿央士演じるやたら鋭い観察眼を持つ借金まみれの貧乏探偵・祝左右馬と、松本穂香演じる“ウソ”を聞き分ける奇妙な能力者・浦部鹿乃子の異色コンビが“ウソ”と“マコト”が難事件を解決していく“レトロモダン路地裏探偵活劇”だ。eillが本ドラマに書き下ろした「革命前夜」は、まさに革命を前にした期待と不安が募るようなエモーションが漂う楽曲になっており、特殊な能力が原因で周囲から疎まれ、居場所がなくなってしまった鹿乃子が、左右馬と出会ったことで背中を押され、居場所を見つけていくドラマのストーリーと重なる。心地よく柔らかな歌声で、「最終電車乗って ゆらゆらと 街頭がにじんで ゆらゆらと lazy lazy lazy 心は革命前夜」と歌うサビの絶妙な繊細さが秀逸だ。

「嘘解きレトリック」のプロデューサー鈴木吉弘は「革命前夜」に対して「この世界にはうまくいかないことも多いけれど、自分を信じて自分を愛して前に進み続ける。eillさんの多くの曲からは、そんな力強いメッセージが伝わります。貧乏探偵の左右馬も、不思議な能力をもつ鹿乃子も、どこか孤独で自分の居場所を探しています。そんな2人が、eillさんの『革命前夜』の歌にのって、大切な人を知って、自分を信じる力をもらって、明日こそ新しい一歩を踏み出すことができそうです」とコメントしている。

主人公の心情に寄り添う野田愛実の「明日」

フジテレビ系木曜劇場「わたしの宝物」の主題歌は野田愛実の「明日」。「わたしの宝物」は夫以外の男性との子供を夫との子と偽って産んで育てる“托卵(たくらん)”を題材に、“大切な宝物”を守るために悪女になることを決意した1人の女性とその夫、そして彼女が愛した彼、3人のもつれ合う感情を描いた大人の恋愛ドラマだ。

プロデューサーの三竿玲子は、「決して許されないことだけど、世界中に石を投げられたとしても私にはこの選択しかなかったという、大切な宝物を守るために禁断の選択をする主人公・美羽の心情に寄り添ってくださる主題歌を探していた時に野田さんの楽曲と出会った」と野田へのオファーの経緯を明かしている。さらに「ただきれいなだけではなくて、鬱屈とした何かを秘めた感じや、突き抜けるような伸びやかな感じなど、さまざまな歌い方をされていて、この声に主人公の美羽の心をのせていただけたら、ドラマとともに歩んでくれる主題歌になると思い、オファーした」「登場人物たちが言葉にできない心の内、表に出せないこみ上げる思いを野田さんの歌が語ってくれる…そんな曲を頂けて、本当にうれしいです」と語っている。

悲しみと力強さを兼ね備えたピアノバラード「明日」。禁断の決意を固める美羽の心情を代弁するかのように、丁寧に葛藤を紡いでいく野田の歌声。サビで明るい調子に転じるメロディに乗せて「明日 誰かを傷つけてしまっても 痛みも怖さも抱きしめて 生きていくから」と歌い、何よりも大事な宝物である我が子を守っていく決意を力強く示す。

松本若菜

松本若菜

美羽を演じる松本若菜は「明日」について、「美羽が抱える葛藤や希望に手を伸ばそうとする切迫感、そして儚さや弱さの中でも芽生えた宝物を守るための母としての強さと想いが、楽曲の細部にまで大切に描かれています。歌声、メロディ、歌詞の美しさと力強さが、『わたしの宝物』という作品の厚みを増し、私たちや見ている皆さんの心を深く突き動かしてくれます」とコメントしていたが、主題歌は役を演じる俳優にとっても大いに助けになる存在なのだろう。

痛快さを増長させる清水美依紗「TipTap」、繊細な描写が光るTOMOO「エンドレス」

フジテレビ系水10ドラマ「全領域異常解決室」のオープニングテーマは清水美依紗の「TipTap」、エンディングテーマはTOMOOの「エンドレス」だ。藤原竜也と広瀬アリスの共演作であり、身近な現代事件と人々の常識を超えた不可解な異常事件を、「全領域異常解決室」という捜査機関が解決していく1話完結型ドラマ「全領域異常解決室」。扱う事件の対象は「神隠し」「シャドーマン」「キツネツキ」といった全領域に及ぶ異常なものばかりだ。

「TipTap」はジャジーなナンバーで、アーティスト活動以外に舞台やミュージカルの場でも活躍する清水のダイナミックで豊かな歌唱力がいかんなく発揮されている。奇想天外で奇々怪々な事件に翻弄されながらも、「人生はこんなに難解で それでいて単純なのでしょう 滑稽だわ」「気ままに踊りましょう」と楽観的に生き抜くマインドを提示することで、ドラマで描かれるスリルの痛快さを増長させている。

「エンドレス」はひと言発しただけで空気を一変させるTOMOOの稀有な歌声を際立たせるピアノバラード。「たとえるなら 二つのリボン 結び合わせないままでもいい 並んでただ続いていく 螺旋を描けたなら」。事件に関わる登場人物たちの欲望や願いを紐解くような繊細な描写が光り、ドラマ本編の余韻をとても尊いものにしてくれるような楽曲である。

和ぬか「ラブトキシン」は中毒性抜群

TBSの深夜ドラマ枠「ドラマストリーム」で放送されている「毒恋~毒もすぎれば恋となる~」のオープニングテーマは和ぬかの新曲「ラブトキシン」。「毒恋~毒もすぎれば恋となる~」は濱正悟演じる天才弁護士・志波令真と兵頭功海演じる天才詐欺師・ハルトの共同生活を描いたボーイズラブコメディで、「ラブトキシン」はドラマのタイトルにちなみ、「薬も過ぎれば毒となる」ということわざから着想を得て制作された。シタールなどの民族楽器が使われており、和ぬかならではのオリエンタルな手触りと、コミカルでありながら恋愛のドタバタや切なさを高める歌詞が相まって中毒性抜群。この曲がオープニングに流れることで、ドラマ本編のドタバタや胸キュンへの期待が俄然高まる。

推し活ライフとマッチする詩羽「人間LOVER」

水曜日のカンパネラの2代目ボーカルとして知られ、今年突如ソロ名義での活動をスタートさせた詩羽が、大人気エッセイコミック「つづ井さん」シリーズを原作にしたドラマ「つづ井さん」のオープニング主題歌を担当していることにも注目したい。

オープニング主題歌に選ばれたのは、詩羽自らが詞曲を担当し、元ZAZEN BOYSの吉田一郎がアレンジとサウンドプロデュースを手がけたデビューアルバム「うたうように、ほがらかに」に収録された「人間LOVER」。アルバムの中で随一のパンキッシュなロックチューンであるこの曲は、オタク女子のつづ井さんと“前世からの友”たちが繰り広げる、なんてことはない推し活ライフの人間臭く愛らしい日常に見事にマッチングしている。「人間LOVER 愛してみれば毎日が変わるかも」というフレーズには推し活のポジティビティが凝縮されている。

このようにシンガーソングライターたちは自身の歌声や楽曲を通して、時に登場人物に寄り添い、時に画面越しに視聴者を鼓舞し、ドラマを盛り上げている。主題歌を聴いて気になったアーティストがいれば、ほかの楽曲も聴いて新たな出会いを楽しんでみてはいかがだろうか。