さとうもかの5thアルバム「ERA」がリリースされた。
さとうがアルバムをリリースするのは、メジャー1stアルバム「WOOLLY」以来。約3年ぶりのアルバムとなった本作では、今年6月に30歳を迎えた彼女の葛藤や心境の変化が、時にポップに時にヘヴィに、14曲にわたってつづられている。音楽ナタリーは「ERA」のリリースを受けて、さとうにインタビューを実施。30歳を迎えた彼女のリアルな心模様を「ERA」という作品を通じて掘り下げていく。
取材・文 / 石井佑来撮影 / 小財美香子
二十歳頃のワクワク感をまた感じている
──ニューアルバム「ERA」は「今年30才になったさとうもか自身が、今感じている葛藤や心境の変化を詰め込んだ作品」だそうですね。いきなり余談ですが、自分も今年で30歳になりまして。
へー、そうなんですね!
──しかも、さとうさんと同じ6月23日生まれでして……。
え、そうなんですか!? 双子だ。
──生き別れた双子の可能性が(笑)。なので今回のアルバムは共感するポイントがとても多かったですし、同じタイミングで30歳になった人間が、歳を重ねていくうえで感じる苦悩や葛藤を1つの作品として形にしていることに勇気付けられる部分もありました。
うれしいです。ありがとうございます。
──さとうさんがナタリーのインタビューに登場されるのは「Love Buds」のとき以来で約3年半ぶりなんですよね(参照:さとうもか「Love Buds」特集)。「Love Buds」リリース当時は26歳でしたが、20代中盤から30歳になるまでは、ご自身にとってどういう期間でしたか?
20代前半の頃は“自分が何をわからないのかもわからない”という状態で、ひたすら一生懸命に生きていたんですけど、20代中盤になったぐらいから目指すべき方向性が少しずつ見えてきて。それでもやっぱり初めてのことが毎日続いていたので「これでいいのかな」と不安になったり、戸惑ったりすることが多かったんですね。それが20代後半になり、30歳になり……と歳を重ねるにつれて、物事を冷静に見れるようになってきた。自分の行動に対して、よかったところと反省点の両方を考えられるようになったのは、20代中盤から30歳になるまでの変化として大きかったと思います。
──歳を重ねるごとに視界がクリアになっていくような感覚があるんですね。
そうですね。10年前とかは、世の中のことを何も知らないからこその面白さがあったんですよ。「全部おもれー!」みたいな(笑)。その面白さが20代前半から中盤にかけて薄れていったけど、いろんなことを経験したうえで、再びそこに戻ってきているというか。20歳ぐらいのときに感じていたワクワク感をまた感じているんですよね。
──ワクワク感を取り戻したのは、何がきっかけだったんですか?
「ERA」の制作はきっかけとして大きかったんじゃないかなあ。今年に入ってからアルバムを作ることを考え始めたんですけど、そのときに「とにかくやりたいことをやろう!」と決めて。それは自分のマインドに間違いなくいい影響を与えたと思います。
──“30歳になった”というのも、ご自身の中では大きな出来事だったのでしょうか?
もともとあまり深く考えてはいなかったんですけど、それこそアルバムを作り初めてから意識するようになりましたね。29歳から30歳に移り変わる節目の1年にしか書けない曲があると思うし、「自分がアルバムという形で表現したいものはなんだろう」と考えたときに、今改めてこの10年を振り返るような作品にしたいなと。あとやっぱり、19歳から20歳になるのと、29歳から30歳になるのでは感覚が全然違うなと思ったんです。19歳から20歳になるときのほうが、世間的には「成人する」ということでいろいろ変わることが多いけど、自分個人の内面で言うと「大人になった」という感覚がまったくなかった。そう考えると、人は30歳になってようやく“本当の大人の始まり”を迎えるのかなと思って。
──ということは、もう今は大人としての自覚が芽生えていると。
そう言われたらどうなのかわからないですけどね(笑)。でもアルバムを作るうえで10年前のことを思い出したら、やっぱり今と比べて全然違うし、10年間でいろいろ変化してきているんだなという実感はありました。
──なるほど。自分なんかは「30歳ってこんな子供みたいでいいんだっけ?」と感じてしまうことばかりなんですけど、かつて思い描いていた30歳といざ30歳になった自分の間にギャップを感じることってありません?
それはめちゃくちゃありますよ! 小学生の頃に思い描いていた30歳は、すでに自分の家を持っていて、子供がいて、毎日お弁当作りのために朝早く起きる、みたいなイメージだったんですけど、1mmもかすってないですから(笑)。人生ってわからないもんですよね。
歳を重ねることでの変化
──30歳になるという1つの節目が反映された作品のタイトルに“時代”を意味する「ERA」という言葉を冠したのはなぜでしょうか?
今年の初めに「予定」という曲を出したんですけど、サビに「幸せの定義なんて10年も経てば 地球ごと変わってしまっているのに」という言葉があって。そのフレーズからアルバムのテーマを思いついたんです。で、そのあと「アルバムにどの曲を入れようかな」と思って過去のデモを聴き返したら、「これ入れたいな」と思った曲の歌詞にちょうど「時代」という言葉が入っていて。これはもう「ERA」をタイトルにするしかないなと。
──「時代」という言葉がいろんな曲にちりばめられていたので、先にアルバム全体のコンセプトがあって、そこに向けて楽曲を作っていったのかと思っていたんですが、そうでもないんですね。
半分ぐらいは昔作った曲ですね。「時代」という言葉が入っていたのもそうだし、ほかにもたまたま人生の変わり目について歌っている曲が多かったりして。でも改めて聴くと、確かに歌っている内容に一貫性があるというか、アルバム全体に統一感があるなと思います。
──アルバム用に新たに作った曲の中だと、ご自身で「これがキーになったな」と思う曲はどれですか?
「Everyday」かなあ。この曲は「初心に返ろう」という意味も込めて、1人で宅録で作りました。「とにかく好きなことだけをやりたい」と思って自由に作ったら、それを機に脳が開いたような感覚があって(笑)。
──脳が開いたような感覚、ですか。
「Everyday」の制作をきっかけに、そこからいろんな曲が書けるようになったんです。あと表題曲の「ERA」は締め切り1カ月前に作ったんですけど、アルバム全体の“あとがき”みたいな立ち位置の曲にできた気がします。「この手の中には全てがある それが今の私ができること」という歌詞は、「自分の手の中にすべてがあるから、私はなんでもできる」というふうに解釈することもできるし、私が20歳だったら実際にそう思っていたかもしれない。でも、今の自分はよくも悪くも「自分の手の中にあることしか私にはできない」と考えていて。そういう部分にも、歳を重ねることでの変化が表れていると思います。
──確かに「ERA」は「あとがき」という言葉がしっくりきます。アルバム全体を俯瞰したうえで、それを締めくくるような曲ですよね。対して、アルバムのオープニングには「生活は大変」という、ぼやきのような言葉を冠した曲が配置されていて。“生活は大変”という感覚は、実際にさとうさんの中にあるものなんですか?
ありますね。無理ばっかりしてたらみんなの幸せを考える余裕がなくなっちゃうから、できるだけ無理しすぎず生きていたいと思っていて。でも無理をしないと逆に自分がダメになってしまうことも全然あるし、その狭間で葛藤するのが生きるということか……みたいな(笑)。そういう感覚を歌っています。いろいろ大変なことはあるけど、軽やかに生きていきたいなって。
──サウンドは、ご自身のルーツでもある1900年代中盤ぐらいのジャズっぽさがあって。飾り気のない歌詞と優雅な音のバランスが面白いなと思いました。
そのバランスは意識していました。歌詞は生活感がにじみ出たものにしつつ、曲自体は聴きながらスキップできるような軽い雰囲気にできたらなと思っていたので。あと、アルバムの1曲目がいきなり「電気」という言葉で始まるのが気に入っています(笑)。そんな言葉で始まるアルバム、あまりないじゃないですか。
──確かに、いきなり光熱費の話から始まるアルバムはそう多くないかもしれません(笑)。個人的には「ああ めんどくさい なぜか楽しいことも やりたいこともめんどくさい」という歌詞に共感しかなくて……。
ありますよね、こういうとき。自分がやりたいことのはずなのに、それすらめんどくさくて、そういうめんどくささを感じる自分も嫌で。「もう落ち込むわー」っていう(笑)。昔はもっと「ここに行きたい!」とかそういう気持ちがあったはずなのに……。
──映画「花束みたいな恋をした」で菅田将暉演じる麦が言っていた「パズドラしかやる気しないの」というセリフを思い出しました。「Love Buds」も「花恋」をヒントに作られた曲とのことでしたし。
確かに! 「あの人のことを歌ってます」というくらいシンクロしてますね(笑)。
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変わっていくのは普通のことなんだ