フランスの映画監督
恐怖とユーモアが共存する作品を数多く手がけてきたシャブロル。本特集では、1960年代後半から1970年に発表され、当時シャブロルの妻だった
まずラインナップされたのは、オードランが
加えてオードランがフランス南西部の片田舎で働く小学校教師を演じた「肉屋」もスクリーンに。劇中では、主人公のエレーヌが
映画評論家・山田宏一はこのたびの上映作品を「クロード・シャブロルの一九六〇年代から七〇年代にかけての“ブルジョワ・シリーズ”の代表的な三作である」と称し、「ブルジョワ出身のクロード・シャブロルがいわば近親憎悪をむきだしにして執拗に描きつづけたブルジョワジー破局の密かな黙示録的三部作とも言うべき作品群なのである」とつづった。
「クロード・シャブロル傑作選」はマーメイドフィルムの提供、コピアポア・フィルムの配給により実施。なお本特集に先駆け、1月16日から東京の東京日仏学院エスパス・イマージュにて「クロード・シャブロル特集2026 女性形のサスペンス」も催される。
山田宏一(映画評論家)コメント
不敵な怪力のシネアスト
ヌーヴェル・ヴァーグはクロード・シャブロルとともにはじまったのだという神話など今となっては生まれる前に消え去っていたようなものだから、あえて思い出そうとしたりすることもないくらいだ。どんな映画も臆することなく不敵な面構えで勢力的に撮りつづけてきた怪力のシネアストだ。
「女鹿」「不貞の女」「肉屋」はクロード・シャブロルの一九六〇年代から七〇年代にかけての“ブルジョワ・シリーズ”の代表的な三作である。当時シャブロル夫人で最も美しく官能的な女優だった、ステファーヌ・オードランがヒロインを演じる三部作と言ってもいいかもしれない。
クロード・シャブロルにとってブルジョワとは何か?──それは「資本主義社会の寄生虫」で、「嘘と美食と姦通と殺人にしか生き甲斐を見出せない」男と女である。金には困らないが、欲望と狂気は抑え切れないという厄介な存在だ。ブルジョワ出身のクロード・シャブロルがいわば近親憎悪をむきだしにして執拗に描きつづけたブルジョワジー破局の密かな黙示録的三部作とも言うべき作品群なのである。
舗道に鹿の絵を描いていた美少女(ジャクリーヌ・ササール)を誘惑したブルジョワ女が逆に身も心も男(ジャン=ルイ・トランティニャン)も奪われてしまう「女鹿」。自己の心の問題を嘘で表現しつつ、互いに助け合って危機を克服するブルジョワ夫婦を静かに描く「不貞の女」。夫(ミシェル・ブーケ)にとって、殺人はブルジョワ的鬱屈の爆発にすぎないのだ。肉切り包丁ならぬ飛び出しナイフで女たちを血祭りに上げる肉屋(ジャン・ヤンヌ)に愛された美貌の女教師は……と戦慄のシャブロル的サイコドラマは果てしなくつづくかのようである。
佐々木敦 @sasakiatsushi
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