映画「
「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」について
スイスの山中にある小さな町を舞台に、亡き母から継いだ刺繍店を営む主人公バーバラのある1日を描いた本作。店は倒産寸前、相談できる友人や恋人もおらず“人生崖っぷち”な彼女はある日、麻薬取引の現場に遭遇する。売人の男たちは血まみれで倒れ、道には破れた白い粉入りの紙袋と、拳銃や大金の入ったトランクが。「完全犯罪(横取り)」「通報」「見て見ぬふり」という3択が頭によぎったバーバラは、商売道具である針と糸を駆使し、自らの運命を切り開いていく。
主人公バーバラをアイルランド出身の
奇想天外さに「ガツンと頭をたたかれた気分」
登壇した矢崎は、手仕事にまつわる書籍の編集・執筆をはじめ多方面で活動中。2005年にカフェで刺繍を楽しむ「刺繍CAFE」をスタートし、東京を中心にさまざまな場所でワークショップを重ねている。奇抜な発想と手芸ならではのディテールが融合した世界観に、矢崎は開口一番「観れば観るほど好きになる、今一番好きな刺繍映画」と絶賛。「普段の自分の頭の中がまったく奇想天外じゃなかったことにショックを受けました。奇想天外に考えることって、いい作品を作ることにも自分自身の自由ににもつながるんだと思い出させてくれて、刺激を受けました」と語る。この日は、バーバラの愛車や店に使われたミントカラーに合わせ、手作りのピアスを着けて登壇。「今朝作ってきました」と明かすと、客席から驚きの声が上がった。
本作の監督を務めたのは、19歳で制作した原題と同タイトルの短編が映画監督のジョエル・コーエンに絶賛された
「糸は切れないの?」に作家目線で回答
本作ではスイスの糸のメーカー・メトラーと組んで、映画のためにさまざまなアイデアが生み出されている。また、予告編にもある“糸を銃に結んで車で引っ張る”シーンについて、東から「糸が切れるんじゃないんでしょうか?」と質問が出ると、矢崎は「私は普段、機械刺繍ではなく手でチクチク縫うので、糸の強度について考えたことがありませんでした。でも糸の製品説明を読んでみたら、ちゃんと“何kgまで耐えられるか”まで書いてあるんですよ。納得がいきました」と作家らしい視点で応じた。
さらに矢崎は「縫うより“結ぶ”シーンがフォーカスされていて印象的でした。“結ぶ”って奥が深くて。誰でも知っている蝶々結びや片結びだけじゃなく、結び方をちゃんと理解することで日常にも応用できるんです。バーバラは縫う技術だけじゃなく、結び方にも長けているんだと思います」と、主人公のスキルに独自の視点を寄せた。
本作は刺繍映画の異色作
バーバラのキャラクターについては、矢崎が「最初は私とまったく違うタイプだと思っていたのに、観ているうちになぜか自分と状況が重なってくる。人生に困ったり、一生懸命あきらめずに突き進む姿が、自分のように見えてくるんです。彼女がどうしたら幸せになるかも考えたり……最後には自分がバーバラになったような感覚でした」と共感を寄せる。東が「“特技を磨き続けたら人生を切り開く武器になる”みたいなのも描かれている映画ですよね」と語ると、矢崎はうなずきながら「奇想天外なあり得なさと、人間的な感情が同居しているのも本作の魅力」と分析。最後にお薦めの刺繍映画を問われた矢崎は、同じくスイスの山中が舞台の「マルタのやさしい刺繍」や「クレールの刺繍」「キルトに綴る愛」を挙げつつ、「今回の作品は“お裁縫映画”の中でも異色の存在」と改めてアピールした。
「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」は、12月19日より東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国で公開される。
東紗友美(映画ソムリエ) @sayumisaaaan
特技を極めたらそれは運命を切り開く武器にもなる🪡
いまだみたこともない針と糸をつかった驚愕の裁縫クライムサスペンスにあらたなドキドキをもらって欲しいです!!
@SYNCACreations https://t.co/SPO2biBvuG