第38回東京国際映画祭にて、ワールド・フォーカス部門に出品されているチリ映画「波」のアジアンプレミアが実施。11月1日に東京・TOHOシネマズ シャンテで行われたQ&Aに監督の
あの出来事は同意の上だった?主人公の心に渦巻く問い
「波」は2018年にチリの大学キャンパスで実際に巻き起こった、セクシャルハラスメントや男女差別を告発するフェミニスト運動から着想を得て作られたミュージカル。音楽を学ぶ大学生のフリアが、大学でのハラスメントへの告発を取りまとめる証言委員会に加わったことから物語は展開する。フリアの心の中には、声楽教師の助手マックスと自身の間に起こった出来事が本当に同意の上のものだったのか?という問いが渦巻く。やがて運動の中で、彼女は自分自身の言葉を見つけて声を上げ始める。
脚本はレリオが、劇作家のマヌエラ・インファンテ、映画「誰も知らない僕の歌」のホセフィーナ・フェルナンデス、映画「イン・ハー・プレイス」のパロマ・サラスという3人の女性たちと共同で執筆。音楽はイギリスの電子音楽家として知られるマシュー・ハーバート、振付はSia「シャンデリア」のMVを手がけたライアン・ヘフィントンが担当した。キャストにはダニエラ・ロペス、ロラ・ブラボ、アヴリル・アウロラ、パウリーナ・コルテスが名を連ねる。
実際の抗議活動を映画言語的に解釈
「グロリアの青春」「ナチュラルウーマン」「聖なる証」で知られるレリオは今回が初来日。彼の大ファンという観客から「今までの作風とは違うアプローチだと感じましたが、変化のきっかけは?」と聞かれると、レリオは「私自身はそんなに今までと違うとは感じていないんです。でも、より自由で遊び心のあるテイストかもしれません。政治的な背景がある作品で、シリアスさと遊び心、痛み、そしてミュージカルというジャンル。ただ中心的なものは私にとってなじみのあるもの」と答える。また「女性たちの抗議活動からは大きな学びがありました。彼女たちの活動には怒り、熟慮された思想、社会的な欲求を提示すると同時に、カーニバルの要素が盛り込まれていた。私はそれらを映画言語的に解釈したんです」とテーマに触れた。
SNSの登場を少なくした理由
作中にSNSやインターネットの描写が少ないことについて質問が飛ぶと、レリオは「このテーマにおいては、インターネットや携帯電話などを排除しないと、そういった場面だらけになってしまう懸念がありました。それにストライキが実際にあったときにもSNSメディアは使われなかったんです」「またこの作品は歴史的に起きたことを忠実に再現するものではありません。どこかファンタジー的で、『不思議の国のアリス』のような雰囲気も加えたかったので、SNSを描写するシーンは少ないんです」と説明する。
抗議後の日々まで描く
観客からは「抗議後の現実まで描かれているのがとてもよかった」「喉元過ぎれば熱さを忘れるように、ほかの人は時が過ぎれば忘れていきます。でも被害者はその経験と一緒に生きていかなくてはいけないという部分がきちんと映し出されていました」という感想も。それを聞いたレリオは「これは社会的リアリズムの映画ではありません」と前置きつつ、「私以外の女性脚本家3人がフリアに寄り添い、抗議のあとにはこういった大変なことがあると描きました。これは、あとで苦労するから声を上げるなということではありません。ただ実際には複雑なことが伴うのだということもきちんと示したいと思ったんです」と真摯に伝えた。
第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。
映画「波」予告編
セバスティアン・レリオの映画作品
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映画ナタリー @eiga_natalie
【イベントレポート】大学で起こったフェミニスト運動に着想得たミュージカル映画「波」
監督セバスティアン・レリオが来日、Q&Aに登場
「女性たちの抗議活動を映画言語的に解釈した」
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