本作は恋人として平穏な日常を送っていたはずの高校生の男女が、思わぬ形で性的搾取と遭遇する物語。ある夜、村木智也は路上で泣いていた女性を家まで送り届けるも「お金は払うから、抱いてほしい」と頼まれる。断れる空気ではなく、智也はやむをえず女性を抱くことに。しかし、この経験がトラウマになった智也は学校を休むようになる。恋人の早崎のぶえは彼のいない日常に孤独を募らせていく。
「犬も食わねどチャーリーは笑う」「春の結晶」の櫻井がのぶえ、「脳天パラダイス」の野村が智也に扮したほか、
櫻井、野村、遠上のコメントは下記の通り。映画監督の
櫻井成美 コメント
自分の加害性について考えると、他人と関わるのが怖くなる。
大切な感覚だと思う。
それでもやっぱり、他人と関わりたい。
どうしよう。
問いも、光も、いつも映画が教えてくれました。
「平坦な戦場で」は、私にいくつもの視点を与えてくれました。
遠上監督の社会への、そしてひとりひとりへのまなざしが、そうさせてくれたのだと思います。
そして、“らしさ”から解放されることも、“らしさ”に沿って生きるたのしさも、誰かを縛る“らしさ”を少しでも緩めることはできないだろうかという気持ちも、肯定された気がします。
たくさんの方に、「平坦な戦場で」を観ていただきたいです。
野村陽介 コメント
性は私たちに孤独を差し出す。
性と書いて、「さが」と読むような、
なぜ今自分はこうも駆り立てられているのか問われているような。
人はいつも、一生懸命に生きていただけのはずが、
すれ違ったりたまに間違ったり。
それでも、誰かとの繋がりを求め続けている。
性的に見られたくないけど、見られたい。
矛盾の中に、私たちの生存をかけた戦いがあるように思った。
遠上監督との出会いは、PFFでした。
自らの存在に対して性を皮切りに、
自分で演出と出演をしながら、現代らしく「自撮り」を互いに携えて自意識にもだえていましたね。
勝手ながら嬉しく思った事を覚えています。
戦場でできた、友達かも知れないです。
遠上恵未 コメント
私は東京・東部に位置する、都内有数の歓楽街として知られる街で生まれ育ちました。
学生時代、通っていた学習塾やアルバイト先が、まさに賑やかな街の中にあったため、当たり前のように、居酒屋やキャバクラ、風俗店の立ち並ぶ道を歩いていました。
これが世の中なんだと思っていました。
2020年の冬、渋谷区幡ヶ谷のバス停で、ホームレスの女性が襲撃されて亡くなった事件に、とても心が痛みました。私自身、コロナ禍の影響で仕事がなくなり、この先の生活をどうしていこうかと考えていた矢先でもあり、被害者の女性のことを、自分と近い存在に感じたからだと思います。
そうしてまた地元を歩いていると、地べたに横になっている人の姿を目にしました。声をかけようか迷うも、結局いつもと同じように、通り過ぎてしまいました。
こういう自分の傲慢さ、冷たさが嫌いでした。
だからせめて、自分の作る映画では、自分とは異なる環境にある他者のことを、無視せず、想像しなければいけないと思いました。
人間の、人間に対する思いやりを、描かなければいけないと思いました。
それが、これまで無視してきてしまったことへの償いであり、この社会に生きる者として、新たに映画を生み出す意味だと思うからです。
古厩智之(映画監督)応援コメント
孤独な人たちが出てくる。
ペットのウサギの死が耐えきれず、男子高校生に金を渡し、性交を迫る中年女。
お金を出せばやってあげる、と高校生たちのあいだで有名な若い女。
「性」を糸口に他人と接点を持つ女たち。彼女たちの目が、喋り方が、そこにいる居方が、とてもリアルだ。孤独が肌にしみついて、それは彼女たちを侵食し、分かち難い。歩く孤独そのもの…。
彼女たちは主役ではない。主人公のひとりである少年をさらなる孤独の「平坦な戦場」に呼び込み、並走させる者たちだ。
彼女たちの孤独が圧倒的なリアリティで少年に迫る。全ての人たちが孤独のタコツボに閉じこもっている日本が、六畳間にふいに現れる。
日本はどこに行ってもそう。出口なんてない。その中で生きて行くには…。
圧倒的な絶望の中で、小さな声で希望を呟こうとする遠上監督にやられた。傑作です。
宮崎洋平(TAMA NEW WAVE ディレクター)応援コメント
2020年代の現代社会について、人間関係の痛みと後悔とわずかな温もりとのなかで安易なジャッジをせずに描ききっているところにとても感銘を受けた。
分断が加速するこの時代において、微光のような共感のありかを信じては探し、見出した本作の眼差しはまさに映画の役割という気もして、この作品が響くかもしれない観客たちに、いますぐ届いてほしいとまで感じさせられた。
櫻井成美の映画作品
リンク
うえだ城下町映画祭 @castletownFF
第21回自主制作映画コンテストで大賞を受賞した遠上恵未監督『平坦な戦場で』が7/5から池袋シネマ・ロサで公開されます
記事中に当コンテストの審査員、古厩智之監督からのコメントもー圧倒的な絶望の中で、小さな声で希望を呟こうとする遠上監督にやられた。傑作ですー
ぜひ劇場でご鑑賞ください! https://t.co/ImY7BqliTg