撮影現場となった同市内の旧体育館には、めしやとその周辺を街ごと表現した巨大なセットが。林立する居酒屋やスナックの看板、オダギリジョー演じる警官・小暮が詰める派出所などが街を形作るほか、無造作に捨てられた吸い殻やポストのダイレクトメールなど、細部にまでこだわられていた。「めしや」と書かれたのれんをくぐり、コの字型のカウンターが設置された店内に足を踏み入れると、作品世界に入り込んだような錯覚を覚える。
この日は主に、マスターが池田と平岩演じる夫婦に鮭の塩焼きときのこのバター炒めを提供するシーンが撮影された。撮影の合間には、小林らキャストが劇中のマスターと常連客さながらに和気あいあいと言葉を交わす様子も。松岡は撮影について「のーびのびとやってます(笑)。4月1日にクランクインして、1カ月近く撮影しているのでキャストやスタッフにチームワークができてきましたね。めしやのセットは意外と狭いのでスタッフが一度に動くことができないんです。各々だんだん所作がわかってくるので、連携がよくなりますね」と語る。
セットの側には松岡のデスクと、セット内のカメラ位置を細かく記入した大きなホワイトボードが置かれていた。めしやのセットはカウンターに座る人物を撮影するため、窓や壁を取り外すことができる。松岡は「めしやは、人の出入りはあるけど基本的に店内で客が動かないんです。座っているキャストをどう撮るのかはこの作品を通して勉強になりました。ちょっとしたニュアンスを出すためにどう撮っていくか、1つひとつ手間はかかりますが、こうしてスタッフと葛藤して作っていくことがこの作品に深みを持たせているんだと思います」と述懐。「撮影位置の変化によって不自然に見えないように、箸の長さが変わっていたり、キャストに空気イスで演技してもらったりするシーンもあります」と細かな工夫も明かす。セットの中では、カットがかかるたびにスタッフが数人がかりで店内の様子を変更する様子が見られた。
また、撮影には「かもめ食堂」などで知られ、本シリーズに長年協力しているフードスタイリスト・飯島奈美も参加。セット脇のテント内にはガスコンロや調理台が置かれ、飯島とアシスタントが撮影シーンに合わせて調理を行う。鮭を網で焼き上げる、きのこにバターを絡めるなど、飯島の調理が進むごとに周囲にはかぐわしい匂いが漂い始める。劇中で軸となる食事シーンの演出について松岡は「このシリーズに関わり始めた頃、料理のアップは必要なのかと悩んだんですが、完成品を観たときに、すごく料理がおいしそうに見えて、おろそかにしてはいけないことなんだなと学びました。このアップがあることで、観ている人がスッと物語に入っていける作用があると思います」と述べた。
松岡は、2009年に放送された第1シリーズから参加しており、10年の「付き合い」となる本作について「『仕事終わりに観るとよく眠れる』『酒飲みながら観ると最高なんだ』という意見もあり、どんな作品なんだ!と思います。でも先日、『深夜食堂』とはどういう作品なのかを改めて振り返るために見返したときは、気付いたら自分も酒飲んでましたね」と笑う。「そのときに、作り手が作品を作るんじゃなくて、作品が作り手を作るんだなと思いました。当初は1つの物語を描くときは90分ぐらいほしいと思っていたんですが、10年もやってると約20分の作品を作るエキスパートになってきている。制限があると我々が学習しなければならないので、そういう意味で作品が自分を作ったんだと思います」と意図を述べた。
最後に、松岡に今シリーズのテーマを問うと「数年前までは脚本チームに『これは地べたではいずりまわってる人たちに対する応援歌なんだ』と言っていました。でも人生はさまざまですから、一言で表せるような大きなテーマは考えていません。強いて言わなくちゃいけないとしたら『人に対する思いやり』とか当たり前のものになってしまうので」と苦笑した。
関連記事
松岡錠司の映画作品
関連商品
リンク
- 深夜食堂: Tokyo Stories | Netflix
- 深夜食堂 オフィシャル (@meshiya) | Twitter
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
福原希己江 (ふくはらきみえ) @noronora
松岡錠司監督のインタビューです!
(*´-`)
深夜食堂の製作についてお話しされてますよ♪
https://t.co/z4Wrp9mOw6