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第54回大鐘賞で5冠を獲得し、韓国での動員235万人を記録した本作は、大正期の日本で活動した朝鮮人アナキスト・朴烈(パク・ヨル)と思想家・金子文子の運命を描いた歴史映画。唯一無二の同志、そして恋人として生きることを決めた2人だが、関東大震災をきっかけに政府によって投獄されてしまう。獄中でも闘うことを決意した2人は、国家を根底から揺るがす歴史的な裁判に身を投じていく。
現在開催中の大阪アジアン映画祭の審査員として来日しているチェ・ヒソだが、この日は映画のプロモーションのため東京、愛知、京都の3カ所を回る弾丸舞台挨拶ツアーを敢行。これまで日本でも20社以上のマスコミから「金子文子と朴烈」に関する取材を受けたことに触れ「ほとんどの方が手記を読んで勉強してくれていたのが感動的でした」とインタビューを振り返る。そして「日本で公開できたことが夢みたいです。配給していただいた会社に感謝しています。それに、今日は平日なのに満席。ありがとうございます」と客席に語りかけた。
小学2年生のときから5年間大阪に住んでいた彼女は、劇中で金子役としてよどみない日本語を披露している。役作りでは日本語を勉強し直したことを話し、「けっこう関西弁が残っているので(笑)、改めて練習もしました。水野錬太郎役のキム・インウさんから指導していただきました。それでも関西弁に聞こえるところは、あとから直してるんです」と裏話を明かす。
金子は朝鮮人虐殺事件隠蔽のスケープゴートとして逮捕された朴烈とともに投獄され、のちに大逆罪で起訴された人物だ。著作「何が私をこうさせたか──獄中手記」で知られる無政府主義の思想家で、1926年7月に獄死している。チェ・ヒソは金子を演じることに大きなプレッシャーを感じたが、同書を5度も読み込んで徹底的に役作りを行った。「彼女はこう動くだろうな、こういう言い方をするだろうなと、監督、脚本家とよく相談しました」と、チェ・ヒソは役作りの一端を明かす。
手記の感想を問われると「自伝なので、彼女の書き方とか言い方、母への言葉や父から聞いた言葉、朴烈と初めて会ったときに言われた言葉とか、それらがセリフみたいに書かれていて。(自分の中で)生き生きとした彼女の人物像を描くことができました」と答えるチェ・ヒソ。金子を題材とした小説もすべて読んでいるそうだが、「ほかの人が書いた小説だけだと(役作りは)難しかったかもしれません。本人の手記のほうが、自分とどこか通じ合っているような気持ちで読めました」と語った。
23歳という若さで亡くなった金子について、チェ・ヒソは「この手記そのものが、彼女の子供のよう。未来の日本人と韓国人に向けて遺した、ある意味でギフトのようなものです。彼女もたぶんそのような思いで書いたと思います」とコメント。その題材から日本公開が危ぶまれていた本作だが「(日韓関係が)難しい時期とはわかってるんですが、今だからこそ公開できてよかった。この映画は決して“反日映画”ではないと私たちは考えています」と強調する。さらに「権力に立ち向かう金子文子と朴烈の共闘を描いた映画だと思います。国境を越えたラブストーリーであり、闘いでもある。そのテーマが観客の皆さんにも伝わればうれしいです」と語りかけた。
もう1つ、チェ・ヒソが役作りで参考にしたのが、朴烈が生まれ育った韓国・聞慶(ムンギョン)の朴烈記念館に1つだけ保管されていた日本語の裁判記録だ。「記念館の方々は日本語ができないので誰にも読まれていなかったんです。それをお借りして家で読み、監督のために翻訳もしました」と語るチェ・ヒソ。話し言葉とは異なる裁判用語の文書だったため、「最初は1日1枚読むのがやっとでした」と理解するのにも苦労したそう。チェ・ヒソは本作の演技で大鐘賞の主演女優賞、新人女優賞のダブル受賞を果たしたほか、数々の新人賞を獲得している。
朴烈役のイ・ジェフンとの共演については「ラブストーリーなのに、一緒にいるシーンがとても少ない」と、獄中で闘った2人の特殊な状況を説明。「何か2人だけのシグナルみたいな合図があったらいいなと思い、一緒にアイデアを作りました。それが(顔を)クシャッとする表情です。その表情が『アイラブユー』であり、『信じてるよ』でもある。監督に見せたら、いいねと言ってくださって」と振り返った。また脚本にはほとんどセリフしか書かれておらず、表情や仕草といった演技は役者の想像から生まれたものであるという。
舞台挨拶の最後、観客へのメッセージを求められたチェ・ヒソが、感極まり言葉を詰まらせる一幕も。客席からの「がんばって」「ファイティン!」といった応援の声に、彼女は「言われたらもっと泣きます」と笑い泣き。「これが日本で日本語で話す生まれて初めての舞台挨拶。本当にありがとうございます。たぶん一生覚えていると思います。考えてみれば監督なしで、1人で来るのも初めてです。まだ近くに映画を観てない方がいたらオススメしてもらえるとうれしいです。観てくださってありがとうございました」と涙ながらに挨拶し、イベントの幕を引いた。
「金子文子と朴烈」はシアター・イメージフォーラム、大阪のシネ・ヌーヴォX、京都・京都シネマ、愛知・名古屋シネマテークで公開中。全国で順次ロードショーとなる。「王の男」「ソウォン/願い」「空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~」で知られるイ・ジュンイクが監督を務めた。
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