イラスト / 徳永明子

映画と働く 第21回 [バックナンバー]

物書き:SYO / 仁義の世界で書いて、書いて、書き続ける表現者の心構え

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異なる意見を刺激として歓迎できるか

──SYOさんは1年兼業ライターをやったうえで独立されましたが、いきなり専業ライターとして生計を立てるのは厳しいのでしょうか?

もともと自分は編集者として発注する側で、独立してからもいろいろな仕事を受けてきたので料金体系はだいたい知っているんですが、正直難しいと思います。先ほど話したように僕はたまたまコロナ禍で仕事が増えましたが、それは再現性のないことだし、であるならば無責任にライターになることを勧めることはできません。映画も書くことも好きなのであれば仕事は本当に楽しいと思いますし、面白い出会いにあふれてもいるので、勧められない理由はお金の面だけですね……。

──最初は会社員として働きながら、副業としてライターをやってみるのがいいでしょうか?

そうですね。まずは専業ライターになるためのフィールドワークを安全な形でやってほしいです。もしくは、評論家ではなく映画ライターになるのであればおそらくインタビューは避けて通れないので、映画系のマスコミや編集プロダクションで学ぶのもいいと思います。僕自身、編プロにいたときはいろんなライターさんにくっついて行って、インタビューのノウハウを学びました。会社によってはライターを立てずに編集者がインタビューするところもありますから、いいシミュレーションになるはずです。ちなみに自分は1発目のインタビューがケイト・ブランシェットさんでした(笑)。嘘みたいですが、本当です。そういう意味では夢のある業界だと思います。そのうえで独立してチャレンジしてみたいという気持ちがあるのであれば、コツコツ準備をしていくのがいいかなと。

──仕事内容的にはどんな人が向いていると思いますか?

こだわりは持っているけど、意固地ではない人ですかね。映画ってチームで動いているものなので、当たり前に話が噛み合わない瞬間もあります。藤井さんが言っていてすごく素敵だなと思った言葉があるんですが、「映画を悪くしようとしている人は1人もいなくて、みんながそれぞれの立場でいいものにしようとしている。そこでずれが生じるだけ」という。なので他者を排斥するレベルのこだわりを持っていると、自分もつらくなるというか、楽しむのは難しいかもしれません。異なる意見を刺激として歓迎できて、みんなでいいものを作っていきたいという人はぴったりですね。あとはシンプルに映画自体が三度の飯より好きであるということ。僕の周りで長く仕事を続けられているのは、映画が大好きな人か、映画をビジネスとして割り切って考えている人のどちらかです(笑)。

撮影現場でのSYO

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映画業界全体が潤うように

──ご自身の原稿料についてはどう考えていますか?

会社員時代も含めてもう10年以上映画の仕事をしているので、業界のお金がどういうふうに回っているかのシステムもある程度は見えてきます。1つの作品の宣伝費用がどれくらいなのか、同業者がどんな仕事をしていくらもらっているかもだいたいは見当が付く。そういう視点で考えたとき、自転車操業であろう企業に原稿料を上げてもらうのは現実的ではないと思うことはあります。ただ幸運なことに買いたたかれるという経験はしたことがないですし、実際には「当初の予定よりも仕事量が増えちゃったのでギャラを上乗せさせてください」ということのほうが圧倒的に多い。自分の原稿料を無理やり上げるというよりは、信頼できる人たちと気持ちよく仕事を続けていくためにも、映画業界全体が潤うように努力していきたいですね。いろんな人がいて、いろんな会社があるので、きれいごとと思われるかもしれないですが、でも目指すべきはそっちかなと。

──心の豊かさを感じました。

いやいや(笑)。自分みたいな人間を拾い上げてくれた恩を返さないといけないと思っているだけです。先に手を差し伸べてくれた方々がいたからこそ、そうした意識になりました。ありがたいことに今現在、困窮しているわけではないから言えることなのかもしれませんが。ギャラのアップの方法としては“文化人枠”ではないタレント方面を目指して活動する手もありますが、そうすると今のように身軽には動けなくなりますし、たぶん仕事量は減ってしまうんですよね。僕はいろんな仕事をしたいタイプで、量は多いですが今の働き方が最適だと思っているので、不満は一切ないです。

愛猫家でもあるSYO

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こなす仕事はしない

──尊敬している映画人はいますか?

尊敬で言うと杉咲花さんですね。花さんはご自身の立場に非常に自覚的で、発する言葉がどういう影響を与えるかということまで考えていて、ただいい作品を作りたいという次元ではない。1つひとつの言葉に対する責任感が桁違いで、彼女に会ってから自分の意識は変わりました。2023年12月公開の「市子」からご一緒しているんですが、花さんの言葉の裏にはいつも他者への配慮や気遣いがあって、自分をよく見せようとすることが決してないんです。

──杉咲さんが主演し、SYOさんがオフィシャルライターをやっている「ミーツ・ザ・ワールド」も楽しみです。最後に、仕事をするうえで守り続けていることを教えてください。

自分が楽になるための“こなす仕事”はしないということです。僕らの存在意義は作品のためであり、観客や読者の皆さんに届ける目的を見失わないようにしたいなと。例えば100文字くらいの映画推薦コメントってやろうと思えばさっと書いてしまうこともできますが、めちゃめちゃ時間掛けるんですよ。印刷されて劇場に貼られたとき、ちゃんと美しく見えるレイアウトで、誰かの心に届くものになっているだろうかというところまで考える。時間を掛けすぎて、そのあと別の仕事もしないといけない自分を苦しめることもあるんですけど(笑)。でも自分の雑な仕事を見たときに、藤井さんはどう思うだろう? 花さんはどう思うだろう?と。やっぱり「そっちもがんばってるんだな」と思ってもらいたいですし、どんな仕事も手は抜きたくないですね。

SYOプロフィール

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。「ヴィレッジ」「パレード」「青春18×2 君へと続く道」「正体」「イクサガミ」ほか映画監督・藤井道人の作品に多数協力するほか、昨今はオフィシャルライターとして「カラオケ行こ!」「Cloud クラウド」「世界征服やめた」「ガンニバル」「近畿地方のある場所について」「ひゃくえむ。」「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』」「愚か者の身分」「ミーツ・ザ・ワールド」「兄を持ち運べるサイズに」などに携わる。舞台挨拶のMCや映画番組のナビゲーターも務めている。

SYO (@SyoCinema) | X

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