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映画と決算 第3回 [バックナンバー]

ディズニープラスはNetflixを超えた?

狙うは次なる「イカゲーム」? ディズニーの配信戦略を読む

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米ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子が映画の未来を占う連載。第3回ではローンチからわずか3年でNetflixを追い上げるほどの急成長を成し遂げたディズニープラスに注目。最新決算からエンタテインメント業界の王者として君臨するディズニーのストリーミング戦略を読み解く。

/ 平井伊都子

ディズニープラスはNetflixを超えた?

8月10日に第三四半期決算を発表したウォルト・ディズニー・カンパニー。発表直後、「ディズニーの有料会員数がNetflixを超える」との衝撃のニュースが報じられました。この第三四半期中に新規会員1440万人を追加し、合計は2億2110万人。一方のNetflixの第二四半期発表の会員数は2億2070万人で、サブスクリプションサービスとしては後発のディズニーが、わずかながら上回る結果となりました。でも、この数字には少し注意が必要なのです。「映画と決算」第3回目では、劇場配給モデルから消費者に直接作品を届けるストリーミングサービスへと舵を切ったウォルト・ディズニー・カンパニーの戦略を見ていきます。

「ディズニープラス」プロダクトイメージ

「ディズニープラス」プロダクトイメージ

2019年11月に北米・カナダなどで開始したディズニープラスは、2021年に日本を含む海外市場でのサービス提供を本格化し、全世界で1億5210万人の会員を集めました。アメリカとカナダのHuluが4620万人、ESPN+が2280万人とし、合計2億2110万人。日本ではディズニープラス単体のサービスですが、先発のアメリカやカナダでは、ディズニープラスに併せて、主に旧FOX作品(現20世紀スタジオ)や、4大ネットワーク(ABC、NBC、CBS、FOX)の見逃し配信サイトという成り立ちから継続中のライセンス作品を扱うHuluと、スポーツ専門局のESPN+の3つのサービスを併用できる“バンドル”があります。ディズニープラス単体は月額7.99ドル(年間79.99ドル)、Hulu(広告付きプラン)とESPN+が各6.99ドルですが、3つのサービスをバンドルする(まとめる)と月額13.99ドルになり、単体でそれぞれ契約するより約8ドルの節約になります(2022年9月現在)。ディズニーはバンドル契約者数を明かしていませんが、消費者のコスト意識を考慮するとかなりの世帯がバンドル契約をしているのではないかと思われます。対するNetflixの契約者数は、単体の数字。ただし、NetflixがオンラインDVDレンタルからストリーミングサービスへと舵を切った2007年から15年かけて積み上げてきた数字なのに対し、発足からわずか3年弱で追い上げたディズニーのインフラ整備とコンテンツ力には目を見張ります。

広告モデルの導入とライバル削減

第1回で報じたNetflix同様、ディズニープラスも今年中に広告モデルを導入します。2022年12月に北米市場で開始後、2023年に海外市場へも拡大予定。同時に、ディズニープラス、Hulu、ESPN+の値上げを行い、バンドル価格の調整も予定されています。子供向け(幼稚園以下)の作品には広告をつけないなど、ディズニーらしい規定もあるそうです。ディズニーのサービスでは、HuluとESPN+で既に広告モデルが導入されているので、データや営業面の知見があるのが強み。決算発表後のインタビューで、ディズニー社のボブ・チャペックCEOはこう述べています。

「ディズニープラスの立ち上げ以来、ストリーミングサービスを通じて消費者と繋がりたいという広告主からの要望を多く受けています。当社にはHuluでの実績があり、広告つきモデルの加入者数は、全体の2/3以上を占めます。ディズニープラスとHuluでは視聴者層が違うのでまったく同じ動きになるとは限りませんが、重要な指標となりました」。広告モデルは、ユーザーのコスト負担とクライアントの要望の双方を兼ね備えた、ウィン(消費者)ウィン(広告主)ウィン(ディズニー)の動きだということがわかります。

2020年2月からウォルト・ディズニー・カンパニーの最高経営責任者(CEO)を務めるボブ・チャペック。(写真提供:Castel Franck / ABACA / Newscom / ゼータ イメージ)

2020年2月からウォルト・ディズニー・カンパニーの最高経営責任者(CEO)を務めるボブ・チャペック。(写真提供:Castel Franck / ABACA / Newscom / ゼータ イメージ)

もう一つの大きな動きは、サービス統合です。8月の決算発表以降、ディズニープラスとHuluの統合を検討しているという報道がありました(*1)。前述のとおり、Huluはネットワーク各社が共同で立ち上げたプラットフォームで、ディズニー社は2024年に残りの株式を取得する権利を得ています。第三四半期決算でも、番組制作のコストがかさみ、ディズニープラスなどのコンテンツ消費者直販部門は業績が落ちているとの報告がありました。ディズニープラスとHuluが統合すれば、サービス維持のためのプロダクトコストは軽減されるばかりか、視聴者にワンストップのサービスを提供できるようになります。米資本ストリーミングサービスの統合ブームは既に起きていて、ワーナー(の親会社のAT&T=当時)はディスカバリーを買収し、HBO Maxの世界戦略に充てました。パラマウントには、Paramount+と傘下のShowtimeを1つにする計画があります。サービスがどんどん増えても、1日は24時間以上にはならないし、人間の目と耳はふたつずつしかない。まずは自社内でライバルの数を減らす動きは、とても合理的です。

韓国コンテンツの充実
狙うは次なる「イカゲーム」?

日本でディズニープラスを利用している方は、韓国コンテンツの充実度にも驚いたのではないでしょうか? STARブランドのないアメリカではそのうちの一部のみ、観ることができます。先日配信が始まったBTSのLAでのコンサートを収録した「PERMISSION TO DANCE ON STAGE -LA」や、メンバーのVが出演するバラエティ番組のほか、2023年にもドキュメンタリーを配信することを発表しています。

決算報告後のインタビューでボブ・チャペックCEOは「国際的な音楽センセーションを巻き起こしたBTSをディズニープラスに迎え入れ、コンサート番組とドキュメントシリーズを独占配信します。KPOPというジャンルとBTSは、世界と親和性のある大きな魅力があり、グローバルなファン層へのリーチをさらに拡大することができると考えています」と語りました。2022年中に20本の韓国ドラマ・バラエティ番組を配信し、そのうち12本はディズニープラスのオリジナル作品で、独占配信となるようです(*2)。その中には、日本でNetflix韓国作品ブームを巻き起こした「愛の不時着」の製作会社、スタジオ・ドラゴンと日本の三池崇史監督が組んだ「コネクト」も含まれ、来月の釜山国際映画祭でお披露目されます。チャペックCEOの視線の先には、「イカゲーム」が見えているはず。先日行われたアメリカのテレビ番組の最高賞である第74回エミー賞で、「イカゲーム」が監督賞や主演男優賞を含む6部門で受賞したことも記憶に新しく、来年以降は賞レースにディズニープラスによる韓国作品が参戦することも充分考えられるでしょう。

*1 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN152U80V10C22A9000000/
*2 https://www.hollywoodreporter.com/tv/tv-news/disney-new-korean-series-1235104236/

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