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第3回コミナタ漫研レポート(ゲスト:相田裕)【2/5】

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タテ位置のコマ割りだからグイグイ読める

唐木 群像劇のひとりひとりがモノローグを喋りだす。これがまず、「ちはやふる」の面白いところで、それはかるた競技の特性から出てきたものかもしれないと。ほかにはどんな特徴を感じましたか?

相田 末次先生ってタテのコマ割りが得意技で、決めゴマはタテに割る傾向があるんです。

決めゴマはタテ

唐木 おおー。このページもコマはすべてタテ位置です。

相田 タテに割ると、どんないいことがあるかと言いますと、視線を右から左にさーっと流すだけですんなり読める。普通に段組みがあるコマ割りだと、1段目を右から左に読んで、また右に移動して2段目、また3段目、と視線の移動距離が長いんです。その分、じっくり読めるというメリットもあるんですが。

唐木 なるほど。この見開き、一直線にひと目で横断して読めちゃいますもんね。

相田 たぶんみなさん「ちはやふる」を読むと、ガーッと読めると思うんですよね。僕もグイグイ読めました。グイグイ読めるから、感動が冷めないんです。僕「ちはやふる」読んでる間、ずっと目がウルウルしてましたもん。

唐木 盛り上がりから次の盛り上がりへ、目が乾く間もないので、ずっとウルウルしてるというわけですね。

相田 そうなんです。だからたとえモノローグの話者が切り替わっていっても、感情の高まりが途切れないんですよね。それにはコマ割りの技法が大きく作用していると思います。

境界線を限界まで弱めると、心象風景に近づいてく

唐木 ではここでひとつ、そんなモノローグで構成された見開きを見てみましょう。

内面世界の描写

相田 これ、いかに上手く内面世界を描くかという、その特徴が出ている画面です。

唐木 どこら辺が特徴的なんですか?

相田 まずコマとコマの境界が弱いですよね。かなり限界まで弱くしています。

唐木 普通はまず枠線があって、コマとコマの間に空間がありますよね。

相田 枠線の太さとコマ間を何mm取るかっていうのは、マンガ家はみんな考えるところなんですよ。3mmがいいとか、5mmがいいとか。枠線もコマ間も、細ければ一連の流れが出せますし、太くすればシーンの切り替えだったり、時間経過とかが表現できる。

唐木 でも「ちはやふる」の場合、コマ間何mmとかいう次元じゃなくて……これ隙間ないですよね。

相田 ないです。そうすると、もはや現実的な風景というよりは、キャラクターの主観的な風景、内面世界が前面に出てくるんです。

唐木 コマ間が消失していると、そのシーンは精神世界の風景ということですか?うーん、ちょっと難しいので、もうひとつ例を見ながら教えてください。ちなみにこれもまたタテのコマ割りです。

コマが消え、自由自在にキャラの内面を描き出す

コマ消失

唐木 さっきはコマが割ってありましたが、これはとうとう、コマという概念すらなくなってきています。このコマ割りが消えていくというのは、実際にはどういった意図の表現なんでしょう。

相田 コマ割りっていうのは基本的にカメラのファインダーなんです。現実世界から映像を切り取る際の、客観的な枠組みとしてコマが割られているんですけど、それが消えていくということは、現実よりも心の中の世界、心象風景を表しているんですね。

唐木 カメラフレームのない画面というは、内面世界、精神的イメージを表している、と。

相田 そうですね。末次先生は、その限界に挑戦しているんじゃないかと思います。まあ、私が門外漢なだけで、少女マンガの世界でこんな指摘は当たり前なのかもしれませんけど。独特の進化を遂げてるジャンルですよね。

唐木 なるほど。しかしこうやってお話を伺ったあとで見返すと、ペ―ジ下段のほうに突然顔が割り込んできたり、手だけいきなり生えてたり、この画面、まったくもって自由自在ですね。完全にこれは現実の風景じゃなくて、心象風景を描いているんだと理解できます。

相田 この見開き、千早の顔の表情、手、全身の絵、すべてをまとめてひとつの絵として読めますよね。映像でもこういった心象風景って撮れるには撮れるとは思うんですが、どうしても時間が流れてしまいますから、なかなかこうひと目で見せる表現にはならない。こういうのってマンガならではの表現だと思いますね。

唐木 あとこのページ、千早が「自由になりたい」って言ってますが、描いてる末次先生がもはや、コマ割りから自由になってますもんね。

相田 ええ。これは5巻のカバー折り返しで、末次先生本人がおっしゃってるんですよ。「『競技線のなかで自由になりたい』と千早が思うように、私も『まんがの中で自由になりたい』」とコメントされてる。(つづく)

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