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押井守&石川浩司がつげ義春を語るトークライブ、エロティシズムや“引用”の話も

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「つげ義春全集」の刊行を決定したトークライブの様子。

「つげ義春全集」の刊行を決定したトークライブの様子。

つげ義春全集」の刊行を決定したトークライブが、去る11月8日に東京・六本木ヒルズ 森タワーのアカデミーヒルズにて開催。押井守石川浩司が登壇した。

本イベントは、つげ義春の全集が来春に講談社より刊行されることに併せて始動した「つげプロジェクト」の一環として実施されたもので、トークの司会・進行は「ひなびた温泉研究所」の岩本薫が務めた。つげのファンとして知られる3人は、さまざまな切り口からつげ作品とつげという作家の特異性について90分以上にわたりトークを繰り広げた。

まずは忘れられない“つげ体験”のエピソードを披露。ガロ(青林堂)の創刊号から作品を見てきたという押井は、「高校生ぐらいだったと思うんですけど、(ガロの中でも)つげさんには強烈な違和感があった。『面白かった』とかそういう感じとは違いますよ。でも70年代前後って、妙に間延びした部分と切迫した部分が共存している時代で。あの時代だったからこそ成立したんだと思います」と振り返る。さらに「つげさんのマンガって、自分の中での置き場所が変わらないんです。あれから40年以上経ってるけど、僕の目から見たら全然変わってないですから。珍しい人ですね」と語った。

一方の石川は「中高生の頃に古本屋で見かけたのがきっかけ。当時は群馬にいて、マンガといえば赤塚不二夫、藤子不二雄、手塚治虫しか目に入らない状態で、アンダーグラウンドな作品を見る機会はほぼなかった。でも偶然古本屋で見かけて、『これは今まで見たことないものだ!』ってなって」とつげ作品との出会いを明かす。また「初めて、親が普通に見せてくれるものじゃないものを見れた。親は陰陽の陽しか見せてくれないけど、陰の部分をバッと見せられたのがショッキングで。こういう世界もあるんよなって」と、つげ作品が当時の自分にどれだけのインパクトを与えたかを述べた。

続くトークテーマは“名バイプレーヤー”。押井が「つげさんのマンガって主役は目立たないんですよ。基本的に主人公は何もしないですから」と語ると、石川も「パッとしない主人公が多いですからね」と同意する。主人公よりも、主人公が出会う脇役が面白いと話す押井は、「沼」「紅い花」「もっきり屋の少女」といった作品に繰り返し登場する“おかっぱの少女”が気になる存在だと吐露。「ちょっと特異な存在。繰り返し出てくるキャラクターというのは何かがあるんでしょうね。ほかのアニメでも映画でも、特異な存在が少女の形をしているのは伝統ですが、不思議なものだったり理解できないもの、美しいもののイメージなんでしょう。ご本人が意識されているかわかりませんが、頭の中に住んでいる女の子がひょっこり顔を出すんですね。まあカッコよく言っちゃえばアニマ」と持論を展開する。さらに「男はどうしても女性に対して公平になれない。例えば石ノ森章太郎さんはずっとヒロインがお姉さんで、ある時期から奥さんに変わるんです。しかもどこで変わったかもわかる。それは絵の世界、映像の世界では起きちゃうことなんですよ」と続けた。

また“おかっぱの少女”とは対象的に、「ねじ式」や「ゲンセンカン主人」に登場する肉感的な中年女性についても話が及ぶ。押井は「極端ですよね(笑)。でも無意識のうちにそういうタイプの人を選んでるんでしょうね。生活感のある太めのおばさん、めちゃくちゃエロいんですけどね」と話すと、石川も「『夢の散歩』に出てくるおばさんはエロい。でも顔はわからないんですよね、身体だけで」と回想する。さらに「チーコ」に出てくる女性が好きだという押井は「つげさんの中では珍しいキャラですよね。10代の頃に読んだけど、『ソーセージともやしを炒めて食べてね』っていうセリフが忘れられない(笑)」と楽しそうに話した。

女性キャラクターについて語られた流れで、トークは“つげ的エロティシズム”にも話が及ぶ。司会の岩本が「(つげ作品は)兄貴の本棚から抜き出して初めて読んだんですが、のっけから『ねじ式』や『やなぎ屋主人』『ゲンセンカン主人』(笑)。当時、雑木林に落ちてたエロ本を回し読みしたことはありましたけど、『やなぎ屋主人』のエロさって特別で」と振り返ると石川も「エロ本は作り物のような感じがあるけど、(つげ作品は)もっとリアル。うちの親父とおふくろも……っていう想像してしまうような、生活の中にあるエロスですよね」と続ける。すると押井も「つげさんの描くエロいおばさんに興奮した少年はかなりいるはず。邪なリビドーというか、子供にとっては強烈ですよね」と述べた。

さらに押井が、自身の手がけたアニメ「うる星やつら」で、「ねじ式」を彷彿とさせる描写や表現を使ったことについても言及。「僕は引用って呼んでるんですけどね(笑)」と笑う押井は「あの回は人の絵コンテだったんですけど、直しはじめたら止まらなくなっちゃって。スタッフも誰も気付かなかったからオンエアされた(笑)。でもリスペクトとかオマージュとか言いますけど、作品を作ること自体が引用ですよ。自分がかつて観た作品の記憶で作ってるだけ」と述べ、「『ねじ式』はすべてのシーンが引用できる。こんなに引用しやすい作品はないです。支離滅裂で、だからこそロジックを見つけ出したいという欲求がそそられる作品」と分析する。その言葉に、石川は「作品の解釈っていうのは難しいですよね。僕たちも『さよなら人類』という曲がヒットしたときにすごい深く解釈をする人がいて(笑)。作詞した柳原(幼一郎)もそんなに深い意味なく、言葉の面白さで書いた歌詞だったと思うけど『世界の滅亡のことを歌ってる』とか、勝手に解釈が進んでいく。でも解釈の余地があればあるほど作品が広がりますから」と自身の経験を明かした。

石川は好きな作品として「ヨシボーの犯罪」をピックアップ。「全体的にシュールさユーモアさが好きなのもあるんですけど、わざと下手な絵で描いてるじゃないですか。ちょっと狂ったデッサンや物の大きさのアンバランスさはまさに夢の世界。夢ではよく見たことがあるシーンなんですけど、あれをよくマンガとして描いてくれたなと」と絶賛する。そんな石川に対し、押井も「あれは絵と言葉がセットになっているマンガならではの表現。言葉の持っている力を使えますからね。映画では無理。音声は目に焼き付けることができないんです。絵と言葉の力ってすごいですよ」と映画監督ならでは意見を披露した。

そしてつげ自身の印象について問われると、石川は「直接話したことはないんですけど、至近距離で見たことがありまして。竹中直人さんが『無能の人』を映画化したときに打ち上げに参加させてもらったんです。僕のすぐ横につげさんがいて。映画が完成してみんなで乾杯する場面なのに、つげ先生だけビールを置いたまま無表情で座ってて、これがつげ義春だなと思いました(笑)。不思議な感覚でしたね」と述懐。また押井は「世の中の表現する仕事で、何が一番しんどいかって間違いなくマンガ家だと思うですよ。すべて1人ですから。僕は今までいろんなマンガ家さんに出会いましたが、こんなしんどい仕事よくやるなと。映画監督って楽ちんだなって思ったもん(笑)」と観客を笑わせる。さらにつげが近年撮影した動画を観たことを明かすと、「こういう作品を残したつげ義春が、どんな晩年になるかが気になっていて。もう僕が若いときに作品を観てきた人たちで生き残ってる人ってほとんどいないんです。だからつげさんがご健在であること自体もうれしかったけど、動画を観たときに非常に穏やかそうな顔をされてたのでホッとしました」と、笑顔を浮かべていた。

最後、押井は「つげさんみたいな人、もうマンガの世界では出てこない気がする。表現と名のつくものは溢れかえってるけど、これだけ質量のある作品はそんなにないと思う。だからせめて、何らかの形でいいものを見せてくれた人たちに恩返しをしたいと思っていて。それは語ることなんですよ。映画やマンガは個人で完結するものじゃなくて、誰かと語り会うことが大事」とこの日のトークライブに参加した理由にも繋がる思いを語った。なお「つげプロジェクト VOL.1 ねじ式展」は12月1日まで東京・六本木ヒルズ 森タワー52階の東京カルチャーリサーチにて開催中。

「つげプロジェクト VOL.1 ねじ式展」

会期:2019年10月30日(水)~12月1日(日)
時間:10:00~22:00(最終入場21:30)※不定休
場所:東京都 東京カルチャーリサーチ
料金:無料(※展望台・森美術館の入館料が必要)

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