「花花能」では成田がメロディ(白泉社)で連載中の「花よりも花の如く」にて、主人公の能楽師・憲人が演じた演目を中心に上演。成田は1977年3月27日に初めて能を観劇し、翌28日に白泉社の花とゆめ編集部に原稿を持ち込んだため、能の鑑賞歴とマンガ家歴がほぼ同じ。「花花能」のパンフレットには「40年間白泉社だけにマンガ連載してきたご褒美として、編集部の方々が今回の『花花能』を企画してくださり、銕仙会様のご協力を得て実現しました。とてもありがたく感じております」と喜びのコメントが寄せられている。
演能集団・銕仙会の棟梁である観世銕之丞は、成田とともに舞台上に現れ「40周年、本当におめでとうございます。粘り強く世の中の流れをしっかりつかまれて、読者の心に浸透させて、さらに魅力的な絵をお描きになってきた努力は、頭が下がる思いです」と寿ぐ。成田は「(「花花能」の)お話が出たときからまさかと思っていて、現実になってしまって今日で2日目なんですけど……。お世話になっている役者の皆さんに、よりお世話になってしまってこちらこそ頭が上がりません」と恐縮しきりの様子を見せた。
司会が観客に対し「能楽堂で能を観るのが初めてという方はどのくらいいますか?」と尋ねると、多くの手が挙がる。これを受けて観世銕之丞が、「初めて能を観るときのコツ」をレクチャーすることに。開口一番、「眠たくなったら寝ていただく」と言って爆笑をさらった観世銕之丞は、続けて「もともと能舞台は屋内ではなく、つい100年ほど前は外にありました。屋内にあるのに能舞台に屋根が付いている理由は、野外にあったときの名残です。また空調も効いた屋内で、安定した照明で、寝やすい環境が整っているのでゆっくり寝ていただきたい(笑)」と話して能を初観劇する来場者たちをリラックスさせた。また「昔の言葉を使いますし、すぐにはわからない。僕らが子供の頃も、親父とか先生とかが『なんとか!』って言ってるのを、なんて言っているのかわからないけどとにかく覚えてやってみたり。でもだんだんと、能の中に入っている気持ちというのが伝わっていく。あと、装束の色の美しさや、囃子の音の面白さ、面の表情の不思議さとか、自分の見やすいところから見ていただくのが一番です」と話し、最後に「寝ていただいて構いませんけども、大いびきをかかないように。歯ぎしりのある方は歯ぎしりに気をつけて(笑)」と茶目っ気たっぷりに付け足した。
成田は自身の初観劇のときのエピソードを「高校生のときですけど、内容がわかるわからないということよりハートを鷲掴みされて。一目惚れだったんです。自分の経験から言えば、お話が一言一句わかるというよりも、感じることのほうが大事だろうと思います」と明かす。観世銕之丞は「実を言いますと、能というのは観るよりもやるほうが遥かに楽しいです。苦しいですけど」「面装束をつけて演技をして、役に近づくことによって、どんどん心の鎧が取れてきまして、自分でも知らない自分の一面がスッと出てくる。それをまたお客様がたにも、普段の日常とは違う空気でもって観ていただき、舞台で繋がっていく。だから台本があってもその通りに受け取ってもらえるということではなくて、役者と観客それぞれの人生のフィルターが通るんです」と語った。
対談のあとに演じられる2日目の題目は、狂言の「昆布売」と能の「葵上」。「葵上」は成田が初めて観た能であり、「花よりも花の如く」にも同演目を扱ったエピソードが2回登場する。司会から「葵上」のエピソードを思いついたきっかけを尋ねられた成田は、「マンガ作りは、お料理と似ているんですよ。素材がありますでしょう。この素材だったらポトフができるかしら、いやカレーができるかなとか考えて、鍋に入れるとできるんですよ。何ができるかは最後にならないとわからなくて、編集さんは毎回ハラハラしているんですけど、本人もよくわからないんです。最後に美味しいものができればいいんですけど」と、独特の表現で語る。またその“素材”はどこから得ているのかという問いには「自分の経験の引き出しすべてです。能はもちろんなんですが、いま観世銕之丞さんにお伺いした話とか、今日来てくださった皆様のこととか、全部私の経験になるんです。どの瞬間も、全部取材。こういうことがすべて鍋に入っちゃう。どれを使えるかは、そのときになってみないとわからないんですけどね」と、40周年を迎えてもなおマンガに対し貪欲な姿勢を見せる。このほか観世銕之丞により「葵上」の紹介、また3日目の13日に上演された舞囃子「天鼓」、狂言「蝸牛」、能「土蜘蛛」の解説などが行われ、対談は幕を下ろした。
なお「成田美名子画業40周年記念原画展」が、2月20日まで銀座の画廊スパンアートギャラリーにて開催中。成田がその40年の軌跡の中から自ら選んだイラスト40点と、「花花能」のために描き下ろしたキービジュアル1点の合計41点が展示されている。
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