成田美名子 画業40周年|“遠く”を描き続けたマンガ家の、これまでとこれから

1976年に創刊された花とゆめLaLaが、LaLa(ともに白泉社)と名称を改め月刊化した77年、17歳でデビューを飾った成田美名子。成田は「みき&ユーティ」を皮切りに、「エイリアン通り」「CIPHER」「ALEXANDRITE」「NATURAL」と2001年までLaLaで活躍し続けてきた。発表の場をメロディ(白泉社)に移し、2002年にスタートさせた「花よりも花の如く」は現在まで15年間にわたり連載。同作は成田自身の最長連載作品となった。

コミックナタリーでは、画業40周年を記念して成田にインタビューを実施。累計発行部数200万部を突破した「花よりも花の如く」と、“40年間を全部詰め込んだ”と言う「成田美名子アートワークス」についてたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 小田真琴

能歴とマンガ歴がたったの1日違いなんです

──17歳でデビューして、長いことLaLaでお描きになっていらっしゃいましたが、「花よりも花の如く」(以下、「花花」)からはメロディへと活躍の場を移しました。刊行ペースが月刊から隔月刊になりましたが、生活のリズムに変化はありましたか?

「花よりも花の如く」の主人公・憲人。

それはもう遊ぶ時間が増えまして(笑)。おかげさまで人間的な生活が送れるようになりました。LaLaの時代は大変でしたよ。もしもデビューしたのが月2回刊の花とゆめだったら、1年たたずにマンガ家を辞めてたと思います。でも隔月刊の今も結局は単行本を直したりカラー原稿を描いたりしているから、それなりに忙しくはあります。

──執筆には時間がかかるほうなんですね。

そうですね。特に「花花」は取材に出ることが多いんです。これまでは、能のようにきっちり検証しなければいけないものはそうそう描いてこなかったんですよね。

──取材では日本中を回っていらっしゃるご様子ですが。

楽しいですよ。「年間100番は観なくちゃ!」と思って、あちこち出かけてるんですけど、広島や仙台だったら日帰り。九州くらいになると、さすがにもったいないから泊まってきます。例え仕事じゃなくても、時間があったら一番にやりたいのはやっぱり能を観ることなんです。「花花」を描いてる今なら、こんなに好きなものを「仕事です」って堂々と観られる(笑)。

──そもそも能を好きになったきっかけは?

「花よりも花の如く」より。

16歳のときに受けた古文の授業で、教科書に能の「羽衣」が載ってたんです。でも舞台の写真は1枚もなくて……それがむしろよかった。舞台の上の天女さんはどんな姿なんだろうって想像しちゃって。田舎ですから情報が何もないんですよ。書店に行っても本もない。「羽衣」ってどんなんだろうと思って、どうせ東京にマンガの持ち込みに行くなら、そのときついでに能を観ようって。忘れもしません、初めて能を観たのは白泉社にマンガの原稿を持ち込む前日です。能歴とマンガ歴がたったの1日違いなんですよ、私。

──そこからどんどん好きになって……。

ええ、「能は何を言ってるかよくわからない」という意見をよく耳にするのですが、言葉だけのわからなさで言ったら歌舞伎だってそんなに変わりありません。私はわからないから好きになったところがあります。あまり説明してくれないので、自分で想像できるんです。そこには自分にしかわからない世界、自分にしか見えない風景があるはずなんです。同じものを見ていても、違うものを見てるかもしれない。そういう楽しさがあるんですよね。

今の日本人にしてみたら、アメリカよりも能楽堂のほうが“遠い”

「CIPHER」の舞台はニューヨーク。

──成田先生は「エイリアン通り」「CIPHER」「ALEXANDRITE」とアメリカを舞台に物語を描いてきましたが、前作「NATURAL」以降、舞台を日本に移しました。

描く場所は変わりましたが、人間を描いてるという点では同じなので大きくは変わらないんです。取材する対象がアメリカから神社や能楽堂になっただけ。それに今の日本人にしてみたら、アメリカよりも能楽堂のほうが“遠い”のではないでしょうか? 「アメリカ人ってこういう考え方するんだ」って不思議に思ったりすることもありますけど、初めて能の取材にお伺いしたときもその感覚がしました。「そうか、私は“よそ者”なんだ」って、本当に思ったんです。能の世界を描いている今も外国を描いてるような気がします。

──日本を舞台にする、具体的なきっかけはあったのですか?

確か「ALEXANDRITE」を描いていた頃だと思うのですが、取材でロサンゼルスを移動中に宮家準さんの「宗教民俗学への招待」という本を読んで、これがめちゃくちゃ面白かったんです。験を担ぐとか、お正月のいろいろなしつらいやら作業とか普通に日本人がやってるようなことが、すべて宗教観に基づいてたんだってことが目から鱗でした。「ああ、私やっぱり日本好きだわ」って思っちゃって。たぶん一番大きなきっかけはそれです。女巫子の話も出てくるし、「NATURAL」の設定にはかなり反映されていると思いますね。

──ロサンゼルスという日本の外にいるときに、日本の民俗学の本を読んで、日本を外から見るようになったんですね。

「エイリアン通り」より。

ええ。改めて日本を外から見てみると、外国のように新鮮だったんですよ。私は、例えばアラブを描くんだったら衣食住とコーランを見る、アメリカを描いたときも衣食住と聖書を見る、という感じだったので、日本を描くとなれば衣食住と神社・寺は勉強しようと思って。その流れで、日本的な能の世界にも近づいていった気がします。

──そして能を題材に「花花」を描こうと思ったわけですね。先ほど初めて能会に入ったときの感覚を“よそ者”と表現されましたが、「自分はよそ者である」という感覚は成田先生の作品に共通してあるような気がします。

そうかもしれませんね。でも「花花」では、主人公の榊原憲人は最初から能の世界の人なんですよ。そのせいか物語が進むうえで、途中からぽこっと異邦人として出てくる人が現れた。それが森澤楽。彼も子方から舞台に立っていた人ではありますが、ある意味異邦人。おそらく楽はなくてはならない存在だったんです。憲人も本人的には自分だけが内弟子をしていないし役者の家にも育っていないために、異邦人感覚を持っている人かもしれない。

見たものはなんでもかんでも、聞こえたものもみんな描く

──取材はどのようになさるのですか?

能を見ながらメモをいちいち取るんです。今日、そのメモ帳を持ってきたんですけど……能の最中って写真は撮れないし、メモするしかないんですよね。

成田の取材ノートより。成田の取材ノートより。

──すごく細かく書かれていますね……!

これは薪能のときですね、野外の……ああ、これ苦労したんだ、チケットが取れなくて……(笑)。能だけじゃなくて、いろんなものをメモします。これは新幹線のお掃除の人ですね。なんでもかんでも描きます。写真は禁止って言われても、メモは禁止のところってないんです。だから全部描く。これはニューヨークのときの楽屋。見たものはなんでもかんでも、聞こえたものもみんな描く。機会は無駄にはしない。何をしていても取材になるから、生活全体が仕事と言えば仕事になっちゃう。たまに母を温泉に連れて行っても、「ここで能をやるのもいいかも」と思ったり。

──学生時代からノートはきちんと取るタイプでしたか?

うーん、授業中はマンガのネームをたくさん書いてました(笑)。

──あはは(笑)。以前からメモ魔だったんですか。

そうです。「エイリアン通り」の頃は映画のメモ魔でした。当時はテレビで1日3本くらい映画をやっていたので、それを片っ端から観て全部こんな調子で描いてました。「何月何日にこれを観た」とか、使えそうなセリフも書いておいて。あのときは映画が“取材先”だったので、むちゃくちゃ観てました。

──今でもマンガを描く方法論は変わっていないんですね。

特に誰かに教わったわけではないんですけどね。まあでも外で見慣れない花とか虫とか見たらすぐ調べる、っていうのをうちの親たちから習慣として身に付けさせられました。うちの父、理科の先生だったんですよ。今も能楽堂でチラシとかプログラムとかもらうじゃないですか。そこに直接描いていくことも多いです。だから私のプログラムはいっぱい描き込まれてるので汚いですよ。間違ったものをマンガに描けないですからね。でも楽しい作業です。とっても好きです、こういう作業。

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青年能楽師・憲人の、恋と日常のストーリー。子供能「土蜘蛛」の稽古に大忙しの憲人、恋人の葉月とケンカになる。そんな中、子供能で後見を務める渚ちゃんのお母さんが、本番を見に来れなくなり…!? 巻末には能ガイドの番外編&描き下ろしの「玉よりも玉の如く」も収録。

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成田美名子のデビュー時から現在までのさまざまな仕事を網羅。精緻で美しいカラーイラストが、未発表イラストを含め多数収録されるほか、全作品のカラー扉、「エイリアン通り」「CIPHER」「ALEXANDRITE」「NATURAL」のモノクロ扉ページ、雑誌表紙コレクションをコンプリート。さらに全サ、ふろく、懸賞、白泉社キャラグッズの全リストが掲載される。語り下ろしインタビュー、成田自身が語る作品とカラーイラスト解説に加え、カラーイラストが出来るまでも公開! 見応え、読み応えたっぷりの1冊。

成田美名子(ナリタミナコ)
成田美名子
1960年青森県生まれ。1977年に花とゆめ(白泉社)に掲載された「一星へどうぞ」でデビュー。繊細なタッチの画風に定評があり、イラスト集を数度にわたって発表している。現在メロディ(白泉社)で「花よりも花の如く」を連載中。代表作は「エイリアン通り」「CIPHER」など。