本展は互いに尊敬の念を抱いてきた、くらもちといくえみによるキャリア初の原画展。少女マンガ的なモチーフである“手紙”をコンセプトとしており、200点以上の原画やカラーイラストの一部には、フキダシのような形で自身や相手へのコメントが。創作の裏話を堪能できるとともに、お互いへの深い愛情と尊敬の念がにじみ出た、ファンにはうれしい演出だ。
まず会場に入ると、2人のこれまでの歩みを振り返る巨大パネルがお出迎え。そして「二人の始まり」と題された初期作品の展示コーナーが展開され、いくえみが「うっかりくらもち先生の作品に構図が似ちゃった」と言及するデビュー作「マギー」のページも、その元になった「スターライト」のページと共に見ることができる。またくらもちのデビュー号となる別冊マーガレット(集英社)など、当時の雑誌や応募者全員サービス、懸賞用グッズの展示コーナーも設けられ、その1つひとつに2人からの直筆コメントが添えられている。
またいくえみ作品の女子にスポットを当て、「潔く柔く」の百加や「プリンシパル」の晴歌などの名シーンを取り上げた一面も。「『天然コケッコー』の部屋」のコーナーでは、「天然コケッコー」の美麗なイラスト、モノクロ原稿が部屋一面の壁に掲出されている。
「二人の今」というスペースでは、「花に染む」や「あなたのことはそれほど」など近年の作品をずらりと展示。さらに奥に進むと、2人が互いの作品のキャラクターを交換して描いたメイキング動画が上映されている。くらもちは「潔く柔く」の清正を、いくえみは「花に染む」の陽大をスラスラと描く様子が流れ、隣には完成した原画が並ぶ。
最後には選りすぐりのくらもち男子、いくえみ男子と記念撮影できるフォトスポットコーナーも。そこでは彼らのキュンとする名シーンがフロアに投影されるという演出も繰り広げられている。また物販コーナーでは、単行本の表紙をデザインしたマスキングテープやモバイルバッテリー、ポストカード、ポスター、マグカップ、複製原画などの豊富なオリジナルグッズ、さらに2人の自画像や男子キャラクターのイラストをあしらった缶バッジが当たるカプセル自販機も設置された。
囲み取材にて、いくえみは「小学生の頃から憧れの存在だった人と二人展ができる。そのときに見ていた原画と自分の作品が一緒に飾ってある、というのが本当にうれしいです。特に『スターライト』の扉絵は打ち合わせのときも見せていただいたんですが、『うわーっ!』ってちょっと涙目になってしまうぐらい印象的でした。それだけじゃないんですけど、挙げきれないです(笑)」とコメント。対するくらもちは、いくえみについて「私よりはるかに原稿がきれいだなあと思いました(笑)。いくえみさんはデッサン力があると言いますか、どの原稿を見ても安定感を感じるんです。それは雑誌でもわかっていたことではあるんですが、改めて生で拝見すると惚れ惚れしてしまいました」と称賛する。
さまざまなコーナーが展開される本展の、注目ポイントを聞かれた2人。いくえみは「(キャラクターと)一緒に写真を撮れるコーナーがあるんです。その下(床)に、キャラクターのイチャイチャしてるところが映し出されていて、すごく楽しかったです」と答えながら、出版時にはわからない、原稿の生々しい修正箇所も見てほしいと述べる。
くらもちは「私はグッズオタクなのでグッズコーナーはイチオシです(笑)。あと、いくえみ女子のコーナー……(いわゆる)“女子曼荼羅”!(笑)は、あの小さな壁一面でキャラクターの違いが把握できるので非常に面白くなっていると思います」と来場者に推薦。また台に平置きで作品を並べる展示方法について、「普通の原画展だと壁に展示されていて厳重に柵がしてあったり、次の人のためにすぐどかなきゃならなくて、パンダを見るような感じになってしまうんですが、台に並べてあるとみんなで囲むようにじっくり見れるので、展示方法にも注目してほしいです」と微笑んだ。
展覧会タイトルの「“あたしの好きな人”へ」は、くらもちの著作「おしゃべり階段」のモノローグから。いくえみは「私がすごくくらもちさんのことが好きで。あと、いろんな“好きな人へ”っていうのも込められています」と愛情たっぷりに説明する。また互いの作品で好きなキャラクターについて質問が飛ぶと、くらもちは『潔く柔く』の萌ちゃんが女の子では好きです。男の子はいっぱいあるんですけど、テッパンなのは(『潔く柔く』の)梶間くん。あとは(『G線上のあなたと私』)の理人くんも好きです」と回答。いくえみは「好きなキャラはいっぱいいるんですけど、最近は『花に染む』の花乃が幸せになってうれしかったなあと印象に残っています。男子キャラクターは『α』のキリです。俳優さんなので、いろんな役が見られてお得な感じ」とにこやかに答える。
最後に、長く画業を続けてきた2人から“描くこと”について言葉が。いくえみは「今忙しく仕事をしていて『ああ、疲れてもうイヤだ!』『今日は描きたくない!』っていう日もあるんです。でも、いざ絵を描き始めると知らないうちに没頭してしまうので、夢中にさせられてしまう“描く魔力”みたいなものを今も感じます」と話す。くらもちは「自己表現の手段のひとつなんですけれども、しんどかったり、つらかったり、楽しかったりという感情をぶつける相手がたまたまいなかったときにマンガがその相手になってくれるという、私にとっては無二の親友です」と述べ、会見を締めくくった。
なおコミックナタリーは二人展の開催を記念し、くらもちといくえみそれぞれにインタビューを実施。二人展開催の経緯から2人の出会い、互いの作品の魅力をたっぷり語ってもらっている。関連する特集・インタビュー
くらもちふさこ・いくえみ綾二人展「“あたしの好きな人”へ」
会期:2018年2月9日(金)~25日(日)※2月21日は休館日
時間:10:00~21:00(入場は30分前、最終日は18:00閉場)
場所:パルコミュージアム
入場料:一般700円、学生600円
主催:パルコ
企画制作:パルコ/シュークリーム
協力:集英社
関連記事
くらもちふさこのほかの記事
リンク
- くらもちふさこ・いくえみ綾 二人展『“あたしの好きな人”へ』| PARCO MUSEUM | パルコアート.com
- くらもちふさこ・いくえみ綾 二人展『“あたしの好きな人”へ』| 公式Instagram
※記事公開から5年以上経過しているため、セキュリティ考慮の上、リンクをオフにしています。
Hiroshi Yamaguchi @HYamaguchi
【イベントレポート】くらもちふさこ&いくえみ綾二人展、本日から!お互いの原画を「惚れ惚れ」と称賛(コメントあり / 写真45枚) - コミックナタリー https://t.co/gTIIxue61i