「バックホームブルース」1巻

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「バックホームブルース」破天荒にもほどがある! 長尾謙一郎が描く“時代遅れのポンコツ”と家族の人情物語

PR長尾謙一郎「バックホームブルース」

長尾謙一郎の最新作「バックホームブルース」は、すべてがデタラメな、時代遅れのポンコツ男・青空柑二郎が主人公。ベテランプロ野球選手で、3人の子供を持つ柑二郎は、万年最下位の湘南シーガルズに移籍し、海辺の町で心機一転、新生活を始める。スクラップ寸前の“代打屋”が新たなホームグラウンドで嵐を巻き起こす、笑いと人情の家族コメディだ。ビッグコミックオリジナル(小学館)で連載されている。

/ 岸野恵加

長尾謙一郎「バックホームブルース」1巻
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長尾謙一郎「バックホームブルース」3巻
長尾謙一郎「バックホームブルース」3巻
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“時代遅れのポンコツ” 青空柑二郎の破天荒ぶりに励まされる

乱闘による退場回数が歴代第1位、女性スキャンダルで警察沙汰4回、引っ越し早々に町内会長とケンカ、2軍落ちに腹を立て監督の部屋のドアにバットで殴りかかる……ぶっ飛んだ紹介文が並ぶ中年男。もじゃもじゃ頭に口髭、サングラスがトレードマークの彼こそが、主人公の青空柑二郎。25年目の大ベテラン野球選手だ。

「バックホームブルース」第1話より。

「バックホームブルース」第1話より。

「年俸250万+ホームラン1本30万円の出来高払い」という崖っぷちの条件で、万年最下位の湘南シーガルズに移籍した柑二郎。妻を2年前に亡くし、高校生の長女・甘夏、小学生の長男・八朔、幼稚園児の次女・デコという3人の子供を連れて、海辺の街へ移り住む。新居は築80年のボロ家で、貯金はまったくなし。前途多難な新生活に、子供たちは途方に暮れる。挙句の果てに柑二郎は海辺で魚を盗んで走り去ろうとし、子供たちに怒られてトボトボと戻しにいく始末だ。

第1話のタイトルは「時代遅れのポンコツ」。もちろんほかでもない、柑二郎のことである。世間で価値観のアップデートが猛スピードで進む中、そこについていけない時代遅れは、どんどん特異な存在となっている。昨年話題を呼んだドラマ「不適切にもほどがある!」でも、阿部サダヲ演じる昭和のダメ親父が令和にタイムスリップして古い価値観を撒き散らし、現代人にドン引きされていた。

「バックホームブルース」第3話より。町内会長の看板を蹴り破る柑二郎。

「バックホームブルース」第3話より。町内会長の看板を蹴り破る柑二郎。

もちろん誰かを傷つけるような、理不尽な常識や思想は淘汰されていくべきだ。しかし、いつでも品行方正でいなければならず、間違った言動や行動をしたら袋叩きに遭うというムードが息苦しく感じられることは、きっと誰にでもあるはず。本作は、そんな生きづらさを感じている人にはうってつけ。柑二郎のハチャメチャぶりを見ていると、小さなことで悩んでいることがバカらしく思えてくる。

日々大暴れの父に呆れる子供たち。しかし内心では……

物語が進むにつれて、柑二郎がただの破天荒な男ではないことが、次第に明らかになっていく。序盤で「主人公が時代錯誤すぎてついていけない」と感じた人も、ぜひ第14話「柑二郎の秘密」まで読んでほしい。実は柑二郎は朝からトレーニングをする努力家で、野球への情熱も人一倍なのだが、「努力ってもんは、わざわざアピールするこっちゃねーんだよ……」と、なぜか家族にもチームメイトにもその素顔を見せないのだ。「だから誤解されるんだよ!」と突っ込みたくなりつつ、不器用で、まさに“ロンリーブルース”というニックネームがぴったりな彼を、応援したい思いが募っていく。

「バックホームブルース」第14話より。

「バックホームブルース」第14話より。

また随所に現れる家族愛にも、ほろりとさせられる。第3話でデコが行方不明になってしまった際、柑二郎は岩場に取り残されていると考えて沖まで泳いで救助に向かい、第6話では、転校先での人間関係に悩み「もうこんな家うんざりだ!」と飛び出した八朔を、密かに心配して探しに行く。言動はぞんざいでも、本心では家族への深い愛情を持っていることがよく伝わってくる。

「バックホームブルース」第6話より。同級生に暴力を受ける八朔を目にした柑二郎だったが……。

「バックホームブルース」第6話より。同級生に暴力を受ける八朔を目にした柑二郎だったが……。

そして甘夏、八朔、デコは、どこまでもボールが飛んで行きそうな柑二郎の見事なバッティングを「お父さんの打つ打球って、なんか見とれちゃうんだよな~」と惚れ惚れ見つめる。問題行動に呆れながらも、柑二郎を誇りに思い、心の底では応援しているのだ。

アバンギャルドな長尾謙一郎ワールドから一変

作者の長尾謙一郎といえば、「おしゃれ手帖」や「ギャラクシー銀座」「クリームソーダシティ」など、独特でアバンギャルドな作風のイメージが強い人も多いはず。長尾は前作「三日月のドラゴン」を、自身の息子が空手を習い始めたことに着想を得て執筆。空手少年を主人公とした正統派な青春物語を展開し、それまでとがらりと作風を変えて読者を驚かせた。「バックホームブルース」もその系譜を引き継いでおり、破天荒でありながら、幅広い読者層にとって読みやすい構成となっている。これまでの長尾ワールドをよく知っている人も、今作が初めてとなる人も、どちらも楽しめること間違いなしだ。

「バックホームブルース」第5話より。

「バックホームブルース」第5話より。

最新3巻では試合のシーンが多く登場。柑二郎が失点して落ち込むルーキーを励ましたり、助っ人外国人選手を支えたりと、チームメイトとの人情劇も描かれる。さらにホームランの最長飛距離208mの記録保持者で、「ホームランは本数じゃねぇんだ。飛距離だろ?」と独自のロマンを語る柑二郎にとって、一打逆転のビッグチャンスも到来。スカッと気持ちいいホームランを見せてほしいところだ。

“バックホーム”とは、本塁を狙う走者を刺すために、野手が本塁へ送球するプレーを指す野球用語。また英語をそのまま直訳すれば、「家に帰る」を意味する。不器用ながら自分なりに家族を愛し、選手として奮闘する柑二郎の生き様に触れてみてはいかがだろうか。

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