社長就任から10年で売り上げは倍以上に
社長の交代に伴ってぴえろの経営方針は大きく変わる。就任にあたり、本間氏が強く抱いていたのは「お金」に対する思いだった。
「カッコ悪いけど、一番考えていたのはお金のことです。アニメ業界はずっと貧しかった。会社もそうだし、僕たち社員もそう。報酬は少なく、残業が多い。汚い、きつい……そんな世間のアニメ業界に対するイメージ通りだったのが悔しくて仕方なかった。でもアニメ業界に夢を持って入ってきてくれる社員や手伝ってくれるクリエイターに対して、経営者としてちゃんと返さないといけない。僕も含めて、誰もがこの業界にいて、そしてこの会社にいて自分が望む人生をまっとうするビジョンが見えずらかったけど、そんな当たり前ができるようにしたい。経営者になって最初に考えたのはそのことでした。
幸い、ぴえろにはこれまで培ってきた作品作りの力だけでなく、作ってきた作品という大きな資産がある。それを最大限に活用し、10年間で年間の売り上げを倍増しようという目標を設定しました」
そして本間氏は、ぴえろの売り上げを2012年からの10年で倍以上まで伸ばすことに成功する。
「決して僕が経営者として優秀だったわけではありません。社員が丁寧なアニメ作りをしてくれたおかげで数々のヒットが生まれたし、業界の変化も大きかった。従来の欧米市場だけでなく中国などアジア地域も著作権を意識し始め、また動画配信も普及したことで海外市場が一気に広がって。欧米だけが輸出先だった頃から海外売り上げは倍増しました。それとIPを使った商品プラットフォームのバラエティも増えて、アプリゲームを始めフィギュアやカード……そんなふうに展開できる商材のプラットフォームが何倍にもなりました。つまり、1つのIPが生み出す収益が、『魔法の天使クリィミーマミ』の頃とは大きく変わったのです。
僕たち経営者がしたのは、プラットフォーマーの側にいて多くの情報を得ること、そして社内にそうした分野に注力する機能を置いたことくらいです。海外事業、配信事業や商品化を専門で扱う窓口を作って、機会を損失することなく世界中のお客様に作品を観てもらう、キャラクターの商品を手に取ってもらう。そんな効率よくマネタイズできるスタッフがいることが、今のうちの会社の強みなのでしょう」
「負けたくない」、その一心で改めて始めた新たなアニメ作りへの挑戦
経営面だけでなく、作品制作の面でもぴえろは変化を続けている。2010年代は「
例えば、2004年に始まった「BLEACH」は放送期間を空けずに続いていたが、2022年の「
「『鬼滅の刃』はアニメ業界にとって大きな転機だったと思います。潤沢な予算と、しっかりとした時間をかけて作ったハイクオリティな作品が放送されて大ヒットし、幅広い年齢層の人が視聴した。『鬼滅の刃』が発表された前と後では物の作り方を変えないといけないと如実に感じました。さらに同じような規模感で他スタジオもハイクオリティな作品を発表しており、しかもそれが民放で観られる環境が日本にはある。
これまでのぴえろのように1つの作品を長く作ることは間違いなく素晴らしいことだと思います。同時に大きな予算と時間のランニングコストには大きなリスクを伴う。しかし、従来と同じ作り方で、そうした新しい作り方をしている作品と戦えるのかと。おそらくブランドを落とすことになるでしょう。負けたくないですよね。僕もぴえろもNo.1でありたい。そんな思いがあり、『BLEACH 千年血戦篇』を作るにあたっては、会社全体で新しいアニメ作りに臨みました」
ぴえろの新たな試みは功を奏し、2022年、2023年に1クールずつ放送された「BLEACH 千年血戦篇」はハイクオリティな映像で好評を博す。本間氏も現在の手法に手応えを得ており、今後の作品にも確かな自信を見せた。
「『BLEACH 千年血戦篇』は海外でも大きな反響を呼びました。海外のイベントに行くと、僕がヒーロー扱いされるくらいで(笑)。ただ、それはぴえろの社員全員が意識を変えて、本気で作品を作ってくれているおかげです。4月から放送されている『
本間道幸(ホンマミチユキ)
1961年2月26日生まれ、山形県出身。ぴえろ代表取締役社長。1983年にぴえろに入社したのち、「まいっちんぐマチコ先生」「うる星やつら」などの制作進行としてスタート。「星銃士ビスマルク」「きまぐれオレンジ☆ロード」「ヒカルの碁」「BLEACH」「NARUTO-ナルト- 疾風伝」を手がける。2012年にぴえろの社長に就任した。
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