アニメスタジオクロニクル Vol.6 TRIGGER  大塚雅彦

アニメスタジオクロニクル No.5 [バックナンバー]

TRIGGER 大塚雅彦(代表取締役)

スタジオが育んだ文化を引き継いでいける会社に

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アニメ制作会社の社長やスタッフに、自社の歴史やこれまで手がけてきた作品について語ってもらう連載「アニメスタジオクロニクル」。多くの制作会社がひしめく現在のアニメ業界で、各社がどんな意図のもとで誕生し、いかにして独自性を磨いてきたのか。会社を代表する人物に、自身の経験とともに社の歴史を振り返ってもらうことで、各社の個性や強み、特色などに迫る。第6回に登場してもらったのは、TRIGGERの代表取締役・大塚雅彦氏。「キルラキル」「プロメア」「SSSS.GRIDMAN」など監督のカラーが強く出たオリジナル作品に定評のあるTRIGGERが、会社設立から変わらず大切にしているもの、それはファンとのつながりにあった。

取材・/ 粕谷太智 撮影 / 武田和真

仕事は面白くなくてはダメだと思っている

2011年にスタジオを立ち上げて以来、「キルラキル」「リトルウィッチアカデミア」「プロメア」「SSSS.GRIDMAN」など、多数のオリジナル作品を生み出し続けてきたTRIGGER。アメリカのアニメ配信事業大手・クランチロールが主催する「クランチロール・アニメアワード2023」にて、「サイバーパンク:エッジランナーズ」がアニメ・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど、国内のみならず海外にもその名を轟かせている。しかしスタジオを率いる大塚氏は、TRIGGERのカラーというものがあるわけではないと言う。

「“TRIGGERっぽさ”みたいなこともよく言われるんですけど、会社としてはそれぞれの監督のカラーを出すというところに重きを置いています。監督がその作品をやりたいと言わない限りはやらせませんし、『この作品を作りたいんだ』と監督が強く思っていないと、それを引き受けるスタッフもやりがいがないというか、仕事自体がつまらなくなってしまう。僕は仕事は面白くなくてはダメだと思っていて、監督が『本当にいいものを作りたい』『この作品をどうしてもやりたい』という思いがありさえすれば、逆に採算が取れるかどうかは二の次でいいんです」

大塚雅彦氏

大塚雅彦氏

「採算が取れるかどうかは二の次」というのは、経営者としては思い切った考え方だが、大塚氏の経歴を知ればそれも納得だ。もともと実写映画の世界にいた大塚氏は、1992年にスタジオジブリに演出助手として入社し、「平成狸合戦ぽんぽこ」「耳をすませば」などに携わる。その後1995年にはガイナックスに籍を移し、「新世紀エヴァンゲリオン」「天元突破グレンラガン」などにメインスタッフとして参加した。

「ガイナックスにいた頃は、庵野(秀明)さんや鶴巻(和哉)さんら先輩たちの作品を手伝っているという感覚がどこかにあったんですが、『グレンラガン』では、初監督を務めた今石洋之を中心に『自分たちの作品を作っているぞ』という緊張感もありつつ、先輩たちの作品に参加していた頃にはなかった充実感があったんです。今石の力を尽くす姿勢や、人を惹き付ける人柄を本当の意味で知れたのも『グレンラガン』でした。制作しているときも楽しかったですが、後になればなるほど、あのときのお祭りのような感覚は再現不可能だなと思って寂しくなりますし、あの唯一無二の感覚を経験できたのは本当によかったです」

のちにTRIGGERの主要なメンバーとなる大塚氏、今石監督、そしてプロデューサーの舛本和也氏が初めて揃った「グレンラガン」。2007年放送の作品ながら、国内外のアニメファンからいまだに伝説的なアニメとしてその名前が挙がる。しかし意外にも、独立の契機となったのはその「グレンラガン」ではないという。

「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」リバイバル上映&4D上映のキービジュアル。

「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」リバイバル上映&4D上映のキービジュアル。

「『グレンラガン』の打ち上げで行った温泉で馬鹿話をする中、出てきたのが『パンティー&ストッキングwithガーターベルト』の企画でした。半分悪ノリというか、通すつもりがないといったら嘘になりますが、『こんな内容絶対に通らないよな、でも通すとしたらどうする?』と盛り上がって、会社に出したところ企画が通ったんです。

企画者の僕たちも『あれ!? 通った?』と驚いたほどでした。それはもちろんありがたくて『パンスト』も楽しく作ってはいたんです。けれど僕個人としては『グレンラガン』のときとは違って、お客さんに受け入れられるかどうかはあまり自信がありませんでしたし、そういう無責任な感じで作品を企画してしまったことにちょっと後ろめたさもありました」

「パンティー&ストッキングwithガーターベルト」はカートゥーン調の画風に、毒っけのある内容と、「グレンラガン」と比べると万人受けされるとは言い難い“尖った作品”だ。一方で、現在の作品の評価は決して低くない。今年7月に開催された「Anime Expo 2023」では、TRIGGERがガイナックスからその権利を譲り受け、新プロジェクトを始動することが発表され、大きな反響を呼んだ。

「パンティー&ストッキングwithガーターベルト」キービジュアル

「パンティー&ストッキングwithガーターベルト」キービジュアル

「ガイナックスは『「エヴァンゲリオン」で儲かったお金で、遊びで作品を作ってるんじゃないの?』とも言われていました。もちろんそんなつもりはないんですが、でも『これってヒットするつもりで作った?』と聞かれると強く否定はできない。僕の心の中にチクチクと引っかかるものがあって、『パンスト』を契機に『作品に対して責任を負う』ということを考え始めました」

作品やイベントに対して責任を持つなら、自分たちで会社を作ろう

好きなアニメを作ることと、お金を稼ぐこと、その狭間で揺れる中、もう1つ、大塚氏を会社設立へと駆り立てたのが、今でもTRIGGERが大切にするファンイベントだったという。

「『エヴァ』を作っているときに、作品に対して怒っている一部のファンを目の当たりにして、『怒らせたくてアニメを作っているわけではないのに』と感じていたんです。一方で、僕らがどんな思いでアニメを作っているのかを知ってもらえたら、ファンからそんな感想は出ないはずだ、という確信もありました。僕らもファンの実態を見られない、ファンもスタッフがどんな気持ちで作品を作っているか知れないというのは、両方にとって不幸だなと思っていたんです。

大塚雅彦氏

大塚雅彦氏

『グレンラガン』を制作した頃には、スタッフが出演する『TALK LIVE ANIMATED』というイベントを個人で企画していました。スタッフは裏方なのに、表に立って、お金を取ってどうするんだという意見ももちろんありました。そこは、同人誌を配布してチケット代と思えばいいと説得したり、『スタッフのトークで利益が出るの?』という人には、Tシャツとかグッズを作ればいいと提案したり、それで実際にお客さんも満員になったら、スタッフもお客さんもやってくれてよかったと言ってくれたんです。

僕らはアニメ作りが好きだし、面白いからやっているけど、結果として僕らの作ったアニメを観て感激したり笑ったりしてくれる人がいる。作品は世に出して完結ではあるんですけど、作品を届けるべきファンの姿を実感して、スタッフもさらに励みにすることができるなとそこで思いました」

当時の大塚氏は会社主導の「公式」イベントとしての開催を望んでいたが、それは叶わなかったそう。それがより一層「作品に対して責任を負う」という思いを加速させた。

「イベントを自由にやらせてくれるのは本当にありがたいし、不満もないけれど、これでいいのか?みたいな思いが湧いてきました。そこで、作品やイベントに対して責任を持つなら、自分たちで会社を作ろうと思い立ったんです。経営の知識があったわけではないですけど、知名度もブランドもない新しいところで作品を作るのも、ファンと一緒に盛り上がることをゼロからやるのも楽しそうだなと思えて、会社設立の要因は、そこが一番大きかったですね(笑)」

会社設立から10年以上経った今も、TRIGGERはトークイベント開催を続けている。定期的に開催する「TRIGGER NIGHT」は昼夜各回300席がすぐに埋まる人気イベントに成長した。TRIGGER設立後は、「Anime Expo」をはじめ多くの海外イベントへも積極的に参加。Twitterでの英語投稿や、英語字幕をつけたYouTubeへの動画投稿など、さまざまな形で国内外のファンへ目を配っている。

「僕らは世界中のみんなが観てくれているのを知っているよ、と発信しないといけないなと思ったんですよね。違う国、違う言葉、違う文化の人たちがアニメーションを観てウケるポイントが同じだったり、同じキャラを好きになったり、そういう文化や言葉を乗り越えたところでアニメーションによってつながりができていくことがすごくうれしかったんです」

クオリティと天秤にかけ、ギリギリを探りながら制作した「キルラキル」

こうして始まったTRIGGER。会社のターニングポイントとなった作品を聞くと、大塚氏はTVシリーズ第1作目である「キルラキル」を挙げた。同作は今石監督と「グレンラガン」でタッグを組み、今ではTRIGGER作品に欠かせない存在となっている脚本家の中島かずきの参加によって、TRIGGERの礎を作った人気作。演出、ストーリー、デザインワークなど随所に斬新さを見せつけ、TRIGGERの名前をアニメファンの脳裏に刻んだ。だが、その圧倒的クオリティの裏には赤字覚悟の制作体制があった。

「キルラキル」キービジュアル

「キルラキル」キービジュアル

「制作会社って作品単体で赤字でもその瞬間につぶれたりはしないんです。『キルラキル』では、やはり新しい会社でまだ実績もなかったので、望んだ制作費をもらうのは難しくて……。製作委員会方式でやっている以上、お金は出してあげたいけど、信用がないからここが限界ですと、そう言われました。

僕たちもそれはそうだなと納得したうえで、じゃあ予算を抑えて作るか?と考えたときに、『キルラキル』はTRIGGERにとって名刺代わりになる作品だから、最初にこれだけ必要だと出した金額で作ろうと決めたんです。お店だってオープンセールをするじゃないですか。そこでまず顧客を確保して、そこから投資した分を回収していくのは、普通のお店ではやっているよねと」

大事なTVシリーズ1作目から大胆な考えだが、実はそれ以降の作品でも赤字の作品は何本もあるという。

「クオリティと天秤にかけて、ギリギリを探りながら制作しています。それに『キルラキル』で言うと、のちに配信や再放送で作品が売れたり、ゲーム化もされてトータルでは赤字分も回収できてはいるんです。オリジナル作を多くやっている関係でロイヤリティのバックがあったり、自社でグッズの制作と販売をしているのでその売り上げもあって、最初の10年はほぼほぼプラスマイナスゼロという感じでした。最近はようやく制作費を大きくもらえることもあって、制作費でも少し利益が出るようになってきましたね。

赤字に関しては、本当はダメなんだろうなと思いながらやっていました(笑)。でも、会社を設立したときに考えていた『作品に対して責任を持つ』という意味では、お金を出してくれたクライアントさんにも、TRIGGERさんに頼んでよかった、次もTRIGGERさんとやりたいと思ってもらえるくらいのクオリティのものはできているよなと、自信を持ってやってこられています」

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誰もやってない面白いことはないか

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