「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2026」大賞受賞作「継母の心得」ほおのきソラ×藤丸豆ノ介が制作裏語る、原作・トールの感謝あふれるQ&Aも

コミックシーモアが主催する「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2026」は、「次に来るヒット作品はこれだ!」と出版社が推薦した作品の中から、一般投票で大賞を選ぶマンガ賞。9回目の開催となる今年の大賞には、310万を超える投票の結果、トール原作、ほおのきソラ作画、藤丸豆ノ介構成の「継母の心得」が輝いた。なお異世界部門が大賞を獲得するのは、同賞がはじまってからの9年間で初となる。

コミックナタリーでは大賞の受賞を記念して、ほおのきと藤丸にインタビューを実施。大賞受賞を受けての気持ちや制作秘話はもちろん、思わず取材時に思い出し、泣きそうになった“あるシーン”への思いなどを語ってもらった。また原作者のトールにはメールでQ&Aを実施。読者やほおのき、藤丸への厚い感謝とともに、制作の裏側について綴ってもらっている。

取材・文 / ナカニシキュウ

「継母の心得」
作画・ほおのきソラ、構成・藤丸豆ノ介、原作・トール

「継母の心得」

「継母の心得」

貧乏伯爵令嬢のイザベルは突如、病気のため36歳でこの世を去った前世の記憶を思い出し、ここが生前読んでいたWebマンガの世界であることに気づく。イザベルはマンガの中で、幼少期の主人公・ノアを虐待し、最終章でノアに殺される存在。とにかくノアを虐待しないようにしようと決意を固めた彼女は、実際に対面したノアのかわいさにメロメロで……。前世の知識を駆使して異世界の育児事情を改革する、子育てファンタジーだ。

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ほっこりしたり、前向きになれたり……子育て読者に共感のあるストーリー

──おふたりが作画と構成を務める「継母の心得」が、「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞 2026」大賞を受賞しました。まずは受賞おめでとうございます。

ほおのきソラ藤丸豆ノ介 ありがとうございます……!

ほおのき こんな素敵な賞をいただけて、本当にうれしいです。エントリーされていたほかの候補作があまりにもすごい作品ばかりだったので、正直諦めていたんですけど……。

藤丸 (笑)。いや本当に、そうそうたる顔ぶれの中で選んでいただいたので、まずはびっくりが大きくて。「うれしい」という気持ちは、あとからじわじわ湧いてきました。

ほおのき 「電子コミック大賞」は、電子マンガ界の最先端を走る作品を知ることができる賞。そんなイメージを持っていたこともあって、「まさか自分の作品がそこに入れるなんて」という気持ちでいっぱいです。

藤丸 実はこれまでにも個人的に、この賞を通じて好きなマンガを見つけたりもしていたんです。Xなどでもファンの方々による応援合戦が繰り広げられていたりして、ちょっとお祭りみたいなムードもありますし、いい賞だなあと思って見ていました。だからエントリーされたときは「え、入ってる?」みたいな感じで(笑)。

「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2026」大賞受賞の記念に描き下ろされた「継母の心得」イラスト

「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2026」大賞受賞の記念に描き下ろされた「継母の心得」イラスト

ほおのき そもそもコミックシーモアさんでの配信が決まった時点で、それだけでもうれしかったのに。

藤丸 ものすごく大きな電子書店さんですからね。ありがたいなって。

ほおのき あまりマンガを読まない方でも、「電子書店といえばコミックシーモア」という認識はあると思います。余談ですけど、連載が始まって間もない頃に友達と一緒に電車に乗っていたら、シーモアさんの大きなポスターを見かけたことがあって。そのときに「私の作品もここで配信されているんだよ」ってドヤ顔で自慢したことがあります(笑)。

藤丸 (笑)。

──本作が読者に支持された要因は、どういう部分だと思いますか?

ほおのき やはり最近の読者さんは癒しを求めているのかな、と思っていまして。キャラたちが全員かわいくて、私自身も描きながら癒されていますし(笑)。

藤丸 私もそうですね。「癒されるなあ」と思いながらネームを描いています(笑)。やっぱり、ほおのき先生の絵がすごくいいんですよ。表情がとても豊かで……表情といっても顔だけではなく、キャラの動きや情景描写に至るまでが本当に細やかに描かれている。受賞の要因として、絵の力は間違いなく大きいと思いますね。

「継母の心得」第1話より。自らの死に関わってくる人物として、意を決してノアと初対面したイザベルだが、そこに現れたのは天使のようにかわいい幼子だった。

「継母の心得」第1話より。自らの死に関わってくる人物として、意を決してノアと初対面したイザベルだが、そこに現れたのは天使のようにかわいい幼子だった。

ほおのき 尊敬する藤丸先生にそう言っていただけてうれしいです。あとは、子育て経験のある女性読者の方に共感していただけているのかな?とも思います。私の友人関係の中でも、子育て中の方やお子さんが独立されて寂しい思いをしている方々の評判がとくによかった印象がありますので。

──最初に原作を読まれたときは、どんなふうに感じましたか?

藤丸 ほっこりした優しい気持ちになれるというだけではなく、前向きな気持ちにもなれたところが印象的でしたね。それに加え、ストーリーが進むにつれて謎が明かされていくカタルシスもあったりするので、「この作品に関われるものならぜひ関わりたい」と思いました。

ほおのき こんなにも「全キャラが幸せになってほしい」と思える作品に出会えたこと自体が、私も幸せです。子供たちの純粋さにも当然癒されますが、大人のキャラクターたちの多くも利他的に行動してくれるので、そこから得られる癒しがすごかったです。おかげさまで、とても楽しく描かせていただいていますね。

トール先生は作品世界の隅々にまで目が行き届いている(ほおのき)

──藤丸先生は“構成”とクレジットされていますが、これは要するにネームを起こす役割と考えていいんですか?

藤丸 そうですね。人によって“構成”の意味合いは違ってくると思うんですが、私の場合でいうと、原作小説をネームに起こすところまでを担当しています。小説とマンガではやはり読み味がまったく異なりますので、原作にあるエピソードを削ったり順番を入れ替えたりしながら、マンガとして読み心地のいいものになるよう調整するわけです。小説として読む場合にはあったほうが面白い描写であっても、そのままマンガにしてしまうと読みづらかったり、お話が停滞しているように感じやすくなるケースも多いんですよ。そういったことを考えながら流れを調整して、最終的にネームに起こすのが「継母の心得」における私の役割ですね。

ほおのき マンガ家の大先輩である藤丸先生のネームをいただけることは、私自身もすごく勉強になっています。とにかく読みやすいんですよ。細かい説明が必要な展開でも説明的になりすぎず、自然に読ませてしまう。私がもともと藤丸先生のマンガを読んで育ったからというのもあるかもしれないですが、ネームを見ただけで動きが自然に想像できるんです。いつも「すごいなー」と思いながら描いていますね。

藤丸 ほおのき先生にそんなふうに言っていただけるなんて、恐縮です。私のほうこそ、自分のネームをほおのき先生の絵で見られる喜びはすごいですよ。ほおのき先生は絵に起こす段階で「こういう表現はどうですか」と提案してくださることがけっこうあって。それによって自分では思いつかないような画面に仕上がったりするので、非常にテンションが上がりますね。これまでずっと自分で作画もしてきた身としては、ちょっと新しい扉が開いてしまった感覚があります(笑)。

ほおのき 読者の目を最初に引くのは作画の役割ですが、人気が続くために必要なのは構成力だと思っていまして。そのコアの部分を藤丸先生が担ってくださることの安心感は計り知れないです。この体制には、私はメリットしか感じていないですね。

──構成以降の工程に、原作者のトール先生はどの程度関わってらっしゃるんでしょうか。

藤丸 先ほど「原作小説からエピソードを削ったりする」というお話をしましたが、逆に、補いたいケースもけっこうあるんですよ。トール先生って、小説には書かれていない裏設定をかなり細かいところまで考えていらっしゃる方なんですね。なので「この設定は小説ではまだ出てきてないですけど、マンガに盛り込んでもいいですか?」みたいに相談させていただくことはけっこうあります。すごく協力的に応じてくださるので、とても助かっていますね。

小説「継母の心得」1巻

小説「継母の心得」1巻

ほおのき 私も連載が始まる前に、脇役キャラクターの見た目に関する設定や、イザベルが開くお店のモデルになった建物があるのかといったことをトール先生に伺ったところ、とても丁寧な資料が届いたんです。作品世界の隅々にまで目が行き届いている方なんだなと感じて、その愛情深さに感動しました。

藤丸 先生の中では世界ができあがっているので、設定好きの私としてはついついいろいろ深掘りしたくなってしまうんです。だから本来は削らなきゃいけないのに、逆に増えそうになっちゃうこともよくありますね(笑)。

──この体制ならではのハプニングなど、制作進行の中で印象的な出来事は何かありましたか?

藤丸 ハプニングらしいハプニングは特になくて……しいていえば私のネームの絵が簡素すぎて、キャラクターが間違って伝わっちゃうことがたまにあるぐらいですかね。「確かに、こっちのキャラが言っても全然成立するね」みたいな。

ほおのき ありましたね(笑)。

藤丸 あと、これは全然ハプニングでもなんでもないんですが、私の「ほおのき先生の絵でこれが見たい!」という思いが強すぎて、ちょくちょくネームの外側に「こういう感じの絵にするのはどう?」というのを注釈みたいに書いちゃうんですよ。うざかったら本当にすみません、と常々思っておりまして(笑)。

ほおのき それでいうと、ちょっと面白かったことがあって。今おっしゃったような注釈を、一度書いたものの最終的には消してからお渡しいただくこともあるみたいなんですね。ただ、そのテキストがレイヤー名として残ってしまっていたことがあって(笑)。

藤丸 私はネームの段階でめちゃくちゃ切り貼りしたり移動させたりするので、その過程で削られる要素がたくさんあるんですよ。もちろん最終的にはちゃんと整理した状態でお渡しするんですけど、削ったはずの要素がレイヤー名の中にうっかり残っていたんだと思います。たまにそういう、「あっ」ていうことがあるんですよね(笑)。

ほおのき 藤丸先生の思いがあふれちゃってるんだな、と私は解釈しています(笑)。そこに触れられて、すごくうれしかったですね。

藤丸 お恥ずかしい……。